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Hard Days' Knights  作者: 里崎
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肩車編

100,000PV&200,000PV御礼話。お読みいただきありがとうございます。


ガスタとクウナとミンリオが肩車して走り回るだけのお話。ガスタが北州に来ています。


ちなみに、この小咄のあとの話。

(コピペで飛んでください)

https://mobile.twitter.com/lisakilizan/status/936072738631950343

とある朝。


執務室で会議中だったクウナの背後に、大柄な男がおもむろに立った。


「おはよーガスタ」


振り向くことなくそう言って、ぺらりと書類をめくる少女。その両手首を、外側から覆うように掴む、大きな手。


「フン」


男はそのまま、その腕を一気に、上へ。


両腕を引っ張り上げられた少女は、されるがままに椅子を飛び出し――宙でくるっと前転したあと、両足を開いて、すとんと男の肩に座る。

いわゆる――『肩車』だ。


「わぁ」


遅い歓声を発したのち、にっこり笑って、目の前にある茶色い短髪をわしわしと掻き混ぜるクウナ。鼻息を吐いて満足げにうなずくガスティオルク。


その二人を、対面の椅子に座っていたソイが、呆れた目で眺めている。


「……で、あれ、何がしたいんです?」


もはや隠しもしない不遜な言葉にも、隣のウォルンフォラドはただ肩をすくめるだけ。


「さぁな、時々ああなる」


クウナを乗せたまま、その場で時計回りに回転しながら飛び跳ねていたガスティオルクが、ウォルンフォラドの言葉にぐりんと振り向く。


「なーんとなく、だ!」


野太い大声でそう答えて、げらげら笑った。


「……あれなぁ……なんべんクーの肩抜いたことか……」


やめろって言ってるのに、とウォルンフォラドがぶつぶつ呟くのに、「コツは掴んだ!」と言い張るガスティオルク。その頭上で、クウナはただニコニコするだけ。


「よぉし、行くぞ!」


意気揚々とそう言ったガスティオルクが、執務室の頑健な扉を乱暴に蹴り開ける。蝶番の付け根から木くずが飛んだ。


「どこ行く?」とクウナ。

「俺サマが決める」とガスティオルク。

楽しげに会話しながら、二人は部屋を飛び出し。


「わぁぁーーーーーい!」


どだだだだ。

クウナの大歓声と騒々しい足音が、どんどん遠くなっていくのに、


「こら! お前ら走るな!!!」


慌ててウォルンフォラドが追いかける。


***


数分後。


「わああああ……!」


廊下を進んでいた二人の足元から、とんでもなく嬉しそうな声。

クウナが身を乗り出し、ガスティオルクの頭を越すようにして見下ろす。そこには、目をきらっきらと輝かせた、小さな少年の顔があって。


「おっはよー、ミンリオ」


「おはよう! おはようございますっ!」


すぐに敬礼とともに返される、快活な返答。


うむ、と気を良くしたガスティオルクがとても偉そうに応じる。


追いついてきたソイが、大男と少年の身長差を見比べて、


「……ソイツ、踏まないでくださいね、大佐」


思いつきでそんなことを言い。


直後、ニヤリと笑ったガスティオルクが、ミンリオの目の前で、ブーツを履いた片足をひょいと上げる。


「こら!」


ウォルンフォラドがガスティオルクの腕を引くより先に、さっと割り込んでくる人影が一つ。


「おはよー、フォワルデ」


クウナがひらひらと手を振る。少女に小さく黙礼を返した褐色肌の青年――フォワルデが、ミンリオをさっと抱えてその場を去ろうとするのに、


「えっやだっ」


ミンリオが宙で足をジタバタさせる。


何かに気づいたクウナが「あぁ」と呟き、


「フォワルデ、ミンリオが肩車してほしいってさ」


ピタリと動きを止めるフォワルデ。ぱあっと嬉しそうな顔になったミンリオが目線を上げ――そこにあったいつもどおりの無表情に気づくなり、慌てて首を振る。


「い、いいっ。オレ重いしっ」


「ミンリオで重いんなら、今頃ガスタは私の重みでぺしゃんこだねぇ」


けらけらとクウナが笑って、自分を軽々と肩車している大男の頭部をぺしぺしと叩く。


「たく、しゃーねぇーなあぁー」


大げさなため息を吐いたガスティオルクが腕を伸ばし、


「わう」


ひょいとミンリオの襟首をつまみ上げ、


「ほれ、クー」


とても無造作に頭上へと放る。


「はーい」


宙に投げ出された小さな少年の身体を、クウナの手が引き寄せ――自分の肩にすとんと乗せた。


すぐ目の前にあるクウナの後頭部を見下ろしたミンリオが、自分のいる位置を確認するかのように、まばたきを数回。


「おっオレ重くない?」


少女の頭にしがみついて、下の二人に慌てて訊ねる。


「重くないよー」とクウナ。


「増えた気がしねぇー」


ガスティオルクが答えて、その目をついと前に向ける。そこにあった無表情とかち合った。


「……なーんだよ、今更くれと言われても返さんぞ。トロいオマエが、悪い」


「あーこらこら、この状態で喧嘩売らないでガスタ」


重心を落として、今にも剣を抜きそうな構えをする大男。その額に右腕を回してしがみつきながら、クウナの左手は振り落とされそうなミンリオの足首をしっかりと掴む。


と、そこで、部下としばらく話し込んでいたウォルンフォラドが振り向いて、


「……なんで増えてるんだ」


フォワルデを煽れるだけ煽ってから全速力で廊下を駆け出していった肩車三人衆の後ろ姿を見て、眉を下げる。


***


「あっ、トララードさんだ。おはよー」


廊下の角を曲がってきた文官に、クウナが真っ先に気付いて挨拶。上下の二人も元気よく続き、


「おはようございます」


聡い文官は、彼らが連日繰り広げる突飛な行動に早くも順応したらしく、ただ穏やかに挨拶を返してその肩車三人衆とすれ違い、


「あ」


直後に、足を止めて振り向いた。


「そちらの増築部分は、天井が少し低くなっておりますので――」


ゴン。


「うっぐうぅぅ」とミンリオ。


「あ、ごめんミンリオ」とクウナ。


「おお? なんか当たったか」とガスティオルク。


突き出ていた梁におでこをぶつけたミンリオが、目の前にあるクウナの頭を抱き込むように背を丸める。


トララードが慌てて駆け寄ってくる。


「す、すみません、言うのが遅くて……」


「絶対に、中佐のせいじゃないです」


白けた目をしたソイの断言。


「ほら、もういいだろ、降ろせ」


ウォルンフォラドがそう言って腕を伸ばすのに、


「やーだねー」

舌を出してさっさと逃げるガスティオルク。



しばらく進んだあと、流れる景色を見ながら、クウナが言う。


「ガスタ、医務室だよ」


「わーってら。……たく、そんなん外の雪でも付けときゃいーだろーに」


このまま窓の外に放り出してやろーか、とガラスの向こうの雪景色を見ながらガスティオルクがふざけて呟くのに、


「それも楽しそうだけどね」


とクウナが笑いながら応じ。


「にしても、天井の高さ、違ってたんだねぇ」


気づかなかったなぁ、とのんびり言うクウナに、


「……んん、天井?」


ミンリオが呟いて、真っ赤な顔をついと上げる。


***


クウナがくりっと後方を振り向いて、大きく息を吸い。


「――フォーワルーデー!!! 雑巾持ってきてーーー!!」


甲高い声が廊下をつんざいた。


「うーるっせぇ! 耳に痛ぇ!」


真下のガスティオルクが苛立たしげに叫んで上体を振り回すのに、しがみついて「あはは」と悪びれずに笑うクウナ。


どこからか音もなく現れたフォワルデが、すっと使い古しの布切れを二枚差し出す。


「ありがとー。まずは濡れてるほうね。はい、ミンリオ」


受け取ったクウナが、一枚を頭上のミンリオに渡す。


「ありがと。……あの、フォワルデも、ありがと」


どきまぎと礼を言う少年を一瞥したあと、無表情の青年は無言のまま去っていき。


「で、どっから行こっか?」


クウナが目線を上に向けて聞くのに、


「えっと、一番上の階から順番に下りて……あ、あの、ガスティオルクたい」


答えている途中で、とんでもなく「おそれおおい」ことをしでかしていることにようやく気づいたミンリオが慌て、


「だってさ、ガスタ。すっすめー」


その言葉を遮るようにクウナがあっけらかんとした声を出し、両足をぶらぶら揺らす。


「おーし、上からな」


あっさりとうなずいたガスティオルクが、のしのしと階段を登り始める。


「あ、ミンリオの腕がもげない程度の速さで進んでね」


クウナが言うのに、ガスティオルクがげらげら笑って答える。


「しゃーねぇーなー」


***


そして、一時間後。


備品の梯子も長さが足りず、誰も手が届かないため清掃が放置されていた本棟の天井を、ぴかぴかに磨き上げて戻ってきた三人を見て、(満足げなミンリオを前に怒るに怒れず、)ウォルンフォラドは何とも言えない顔で「おかえり」とだけ言った。


そんでもって、本基地の居住者の中で二番目に年少のハウスキーパーの少年が(ちなみに、最年少はカナフェ)、天井の掃除のためだけに、天下のアルコクト大将とガスティオルク大佐を踏み台にして、本棟の中をくまなく練り歩いた、という妙な噂は――


多少の背ヒレ尾ヒレを付けて、その日のうちに基地じゅうの騎士たちの知るところとなった。


(この日以降、ミンリオが掃除や洗濯なんかをしていると、「手伝いますっ」と速やかに申し出てくる非番の者たちがあとをたたなくなった、らしい。)

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