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Hard Days' Knights  作者: 里崎
番外編
66/73

深夜編

番外編「ミンリオとフォワルデ編」(http://ncode.syosetu.com/n8759cm/57/)の続きな感じ。

珍しく主人公が女子です。男どもしかしゃべらないけど。

深夜。

ウォルンフォラドの執務室に、小さなノックの音が聞こえた。

ウォルンフォラドの部屋に集まって好き勝手に飲んだり騒いだりしていた男たちは、一斉に口をつぐんで扉を振り返る。

「どうぞー」

ウォルンフォラドの返答に、扉がゆっくりと開く。

「……失礼します」

そこに立っていたのは、決まり悪そうな顔のフォワルデと、その背に背負われて微動だにしない黒髪の少女。

「く、クーさん?!」

ざっと青ざめたカロが悲鳴を上げ、足をもつれさせながら戸口に駆け寄る。

「大丈夫です、寝てるだけ」

フォワルデが慌てて説明する。カロの手がそっと長い黒髪をどければ、くうくうと寝息を立てる少女の穏やかな寝顔がある。安堵の息を大きく吐いたカロがその場に崩れ落ちた。うずくまるカロを見て慌てるフォワルデの元に、ウォルンフォラドが困惑顔で歩み寄る。

「で、どうしてそんなことに」

フォワルデの眉がぐっと下がる。

「やっと暇ができたから星を観たい、と部屋にいらして、そのまま……」

「あー」

最近、クウナがまともに寝ずに仕事に追われていたのも、今日それがようやく片付いたことも、この場にいる皆が知っている。

フォワルデは目線をさまよわせたあと、俯いて小さく言った。

「……その、正式な騎士ではない私が、こんな時間に一人で女性宿舎に出入りするのは、まずいかと思いまして……」

記憶は容易には上書きされない。フォワルデの名は今でも有名で、ほとんどの騎士から酷く恐れられている。仕事はきちんとこなしているし、その功績も皆が知っているのだが――未だ、フォワルデとまともに会話できる女性なんてクウナくらいのものだ。こんな時間に不用意に女性宿舎に出入りして、万が一にでも妙な噂が出回った日には、自分を生かしてくれたこの大将殿に面目が立たない。

そういうわけで、困りきったフォワルデはここを訪ねてきたというわけだった。

「うはは、若いねぇ」

フォワルデの困惑を勝手に解釈した軽口担当が、茶化すように口笛を鳴らす。

「事情は分かった。夜分にご苦労だったね、ありがとうフォワルデ」

ウォルンフォラドが青年に真摯に礼を言ってクウナを受け取るべく腕を伸ばす。そこに目をきらっきらに輝かせたカロがすばやく割り込み。

「ウォンさん、それなら俺が運びます。わーい、クーさん良い匂い……ってなんで剣抜いてるんだコモ、フェル、こっち向けるなうわ嘘マジかよギブギブ!」

「……ああ、気にするな、俺が運ぶよ」

「この変態が」と足蹴にされている青年に同情の目を向けつつ、フォワルデがクウナを下ろそうとして。

「あ」

クウナの手がフォワルデの上着をしっかりと掴んでいた。

眉をハの字に下げたウォルンフォラドが苦笑を浮かべた。

「フォワルデ、俺も付き添うから、悪いが部屋まで運んでくれるかい」


***


深夜の静かな廊下に、二つの足音が鳴り響く。

「全く起きませんね」

背中の重みを感じながら、フォワルデがぽつりと言う。少し考える様子を見せたウォルンフォラドが答える。

「疲れてるというのもあるけど、やっぱりお前のそばだからだよ」

フォワルデがわずかに歩調を乱す。隣を歩く男を問いかけるように見る。ウォルンフォラドは前を向いたまま穏やかに微笑んだ。

「こいつがここまで深く寝入るのは――自分と同等かそれ以上に屈強な、信用に足る人間のそばにいるときだけだ。守る必要のないときにだけ、こいつはようやく安らげる」

ウォルンフォラドの言葉をじっくりと咀嚼したあと、フォワルデが肩越しに少女を見る。

「…………信頼、ですか?」

慣れない言葉を発音するかのように、心もとなく呟く。

それは、フォワルデがずっと欲しかったものだ。あの審議の日、自分にはそれがないと、まざまざと突きつけられたものだ。

愕然として――同時に、酷く切望した。

フォワルデは全身に少女の重みを感じながら、きつく目を閉じる。

ウォルンフォラドが、うん、と小さく微笑んで、不器用な、ただの幼い青年の頭をぽんぽんと撫でた。

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