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Hard Days' Knights  作者: 里崎
番外編
64/73

医師編

新しい医師が来るだけの話。あと高齢フラグ。


「おーばーあー」

クウナたちが北州に戻ってきた日の翌日。昼下がり。

副棟一階の医務室に、クウナがひょっこりと顔をのぞかせる。

呼びかけの声に、奥の薬品庫の扉が軋んだ音を立てて開く。丸めた腰を叩きながら、しかめっ面の老婆が出てきた。

「なんだい、忙しいときに騒々しい」

「申し訳ありません。初めてお目にかかります」

クウナの横に立っていた、老婆には見覚えのない、小綺麗な青年が丁寧に一礼した。整えられた淡い緑の髪が揺れる。

その動作で彼から漂ってきた嗅ぎ慣れない薬品のにおいに、老婆はぴんとくる。

「やっと増援が来たかい。大忙しだよ、覚悟しな」

満床のベッドを指さして言う。

「ええ、昨晩ゆっくり休ませていただきましたから、存分に働かせていただきます」

持っていた金属製の鞄を下ろし、手早く白衣をまとって袖をまくる。その様子を、丸椅子に座ったクウナがにこにこ眺めながら老婆に説明する。

「本当は、昨日の内にここに来てもらう予定だったんだけど。汽車からずっと、トララードさんのこと診ててもらったからね」

ああ、と老婆が、中央に出向いたという虚弱な常連客を思い出して納得する。

中央から持参してきた薬品を次々と鞄から取りだしてテーブルに並べながら、青年がくすくす笑う。

「ええ、まさかクーさんより生傷の絶えない人がこの世にいるとはね」

「ええ? 私もうそんなに怪我してないよー」

「当たり前です、貴女何年騎士やってるんですか」

そんなやりとりに、興味深そうに少女を見るいくつかの視線が、近くのベッドからそっと注がれる。

「で、来たのはあんた一人かい。中央には何人もいるんだろう?」

「あっちはまぁ色々と、面倒くさい利害関係があるんですよ」

青年が肩をすくめる。

「私はアルコクト大将殿とウォルンフォラド中将殿に全幅の忠誠を誓っておりますゆえ、何を差し置いても駆けつけますがね。ええ、泣く泣く出世ルートを下りたわけで」

芝居がかった仕草でうなだれる青年の肩を、クウナが笑って叩く。

二人の親しげな様子に、老婆が納得してうなずく。

「お前が元の飼い主ってわけかい」

「ガスタみたいなこと言うなぁ」

小さな声でぼやくクウナを、老婆が指さして青年に言う。

「ちゃんとしつけておきなよ」

「とてもではないですが私の手には余ります。貴女ほどの御方が手なづけられないものを、この若輩者がどうにかできるわけありませんよ」

即答だった。それをぴしゃりと老婆が跳ね除ける。

「年のせいにすんじゃないよ。一人前の医者だろう、ここじゃ対等に扱うから、そんな言い訳二度とするんじゃないよ」

「失礼しました。光栄です」

青年は嬉しそうな顔をする。

そこに、

「おお、クー。何事だ?」

年かさの男が廊下から顔をのぞかせた。白衣の青年は弾かれたように振り向くと、素早く敬礼をして歩み寄る。

「御無沙汰しております、ワンリス元帥」

「おお、お前か。来ていたのか」

「はい、昨晩到着しました」

「ちょうどいい、中央の状況を――」

二人の会話を遮るように老婆が手を叩いた。

「そこの増援は今から仕事の説明だよ。話がしたいだけなら他所に行っておくれ」

「膝の調子が悪くてな」

飄々と答えた最高権力者を、怖いもの知らずの老婆が面倒くさそうに睨みつける。

「老いぼれがひとつガタくるたびに来てちゃたまらないよ」

「いつになく厳しいな。茶をもらってもいいか」

「飲みたきゃ自分で淹れな」

薬品の引き出しを開けながら、洗い場に置かれたティーポットをアゴで示す。

そんなやりとりをする元帥と老婆とを、青年は新鮮そうに見比べる。

「なるほど、茶飲み友達ってやつですか」

「まぁそんなとこだな」

元帥がからりと笑って答える。

青年は納得したように数回うなずいて、それから、小柄な老婆をまじまじと見下す。

「なんだ、まだまだお若いじゃないですか」

真顔でそんなことをはっきり言うものだから、老婆はものすんごく顔をしかめて、

「……他にいなかったのかい」

と力なくクウナに尋ねた。


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