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フラグ無双〜彼氏がラブコメ主人公体質で涙目  作者: 紀舟
第1章 ダーリンはモテキ編
7/20

少女が皆ぬいぐるみ好きとは限らない

 目の前でりん子ちゃんのフラグがポッキリと折れ、音もなく消えた。

 つ、つかれた。

 とりあえず、りん子ちゃんがクリムゾンロザリオ(略してクリロザ)クラスタで良かった。

 りん子ちゃんはあの後、存分に翔矢様の華麗なる勇姿を語って、代表曲「心のままに」を心のまま過ぎる音程で歌いながら帰って行った。

 ……ほんとに良かったの、かな……。

 遠ざかる背中に手を振りつつ、りん子ちゃんの将来が少し不安になった。


 しかし、フラグ一個折るのに多大な体力とメンタルを削られた。これから対面する何十ものフラグを前に私は耐えられるのか。ああ、涙が……。


「唯間様、惚けている場合ではありません」


 私が徐々に暗くなり始めた空の遠くの遠くの遠くを見つめていると、耳障りな掠れた声が聞こえてきた。

 遠くを見ていたのは別に現実逃避とかじゃないよ、空が綺麗だなーって見てただけだよ。うふふふふ…………


「ドンちゃん」


 私の方にうさぎのぬいぐるみが歩いて来た。

 私もうさぎに歩み寄る。そしてーー

 両耳を掴んで持ち上げ、往復ビンタした。


「何をするのですか」


 オヤジにもぶたれたことないのに。

 とは言わなかったが、ドンちゃんは頬を押さえた。


「んー、ちょっと汚れてたから埃を払っただけだよ? それより」

「はい、何でしょう」

「何で助けてくれなかったのーー!! 急に喋らなくなっちゃうしっ!」

「はぁ、動いて喋るぬいぐるみはこちらでは稀有な存在ですから、姿を見られるのは、任務遂行に支障があると思いまして」


 正論で返された。

 私は言葉に詰まる。


「もし、見られてしまっても近くの女子高生が糸か何かで操って腹話術でもしているのだろうな、独りで一喜一憂して可哀想な娘だな、程度にしか思われないでしょうが」

「そんなっ!」


 りん子ちゃんの前での行動に引き続き、“カワイソウな娘”アゲイン!!

 いや、事態はもっと深刻だ。今この時にもドンちゃんと喋っている時点で“カワイソウな娘”継続中じゃないか!

 私は辺りを見まわした。

 良かった、人の影はない。

 ドンちゃんを抱き上げて頭を撫でる振りをしつつ顔を近づけた。

 こうすれば、ぬいぐるみ好きの少女にしか見えないはずだ。

 まぁ、カワイイうさちゃん!


「そういうことは早く言ってよ」


 小声でそう告げる。

 撫でた頭がぐんにゃり曲がり無表情のはずのうさぎの顔が困り顔になった。


「まぁ、念話モードにすれば問題は解決しますが」

「何それ!」


 おっと、いけない大声になってしまった。

 いい子、いい子。うさちゃんカワイイ。


「そういうことは早く。ねっ」

「も、うしわけ、ありま、ひぇん」


 ドンちゃんのクビがぐにゃぐにゃ左右に揺れる。


「先ほどお渡ししましたイヤーカフの下の赤いボタンを押して下さい」


 ドンちゃんの言うとおりに赤いボタンを押す。すると青画面が薄い緑画面に切り替わり、“連絡先”という文字が出てきた。


「次に私の名前を念じながら赤いボタンを長押ししてください」

「う………………」

「どうしたんですか? 時間ありません。早く」

「名前、何だっけ?」

「……ドンファー・ジ・デローニモです」

「そうだった、そうだった」


 念じる、か。頭の中で考えろってことよね。むーん……。

 頭の中で『ドンファー・ジ・デローニモ』と何回か唱えていると、ポーンと音がして緑画面の“連絡先”の下に『ドンファー・ジ・デローニモ』と出た。


「これで登録が終了しました。これで私のことを思い浮かべただけで、声を出さずとも会話ができるようになりました」


『このように』


 急に脳内にドンちゃんの声が響いた。


『今は私から回線を開きましたが、唯間様から回線を開きたい時は赤いボタンを押して『ドンファー・ジ・デローニモ』と念じれば私と会話することができます』

『りょ、りょうかーい』


 私はドンちゃんを抱っこしていたのを止め、片手でぶら下げた。

 小声で会話する必要がなくなったら、ぬいぐるみ好きの少女を演じる必要もないもんね。


『さぁ、それでは早く矢代様のところに行きましょう』

『う、うーん』


 ぶら下げたドンちゃんに逆に手を引っ張られたが、私は歩き出すのを躊躇った。


『どうしたのですか』

『うん、いや、フラグ一本折るだけであんなに消耗したのに、何十とフラグに囲まれた矢代くんに会って私のメンタル0にならないかな、って』

『何を言っているのですか。そんなことではフラグは増える一方ですよ』

『それに、矢代くんが今、何処にいるかわからないし』


 私はイヤーカフの青ボタンを押して画面を切り替えた。再び、赤い点と愛しの青い点と無数の憎っくき黄色の点が目の前に現れる。

 その点たちは点同士の位置関係は教えてくれたが、地図が表示されているわけではないので、場所まではわからなかった。


『場所なら問題ありません。青いボタンを長押しすると、今、矢代様がいる場所が唯間様の脳内に映像で展開されます。また、こちらは先ほどのような登録はする必要がございません。矢代様専用となっております』

『へ、へえー』


 私は弱気になっていた。

 あんまり行きたくないよぅ。

 しかし、矢代くんがモテるのも釈然としない。

 でも、まぁ、様子を見るだけなら。

 私は青いボタンを長押しした。

 シャラリラーンと何処からか小気味の良い音が鳴り、鈍い頭痛が私を襲う。

 しばらくして、目で見ている映像とは別の映像が頭の中を駆け巡った。

 目は開いていて周りの住宅もこちらを見つめるドンちゃんも見えているのに、それとは別の景色を脳が観ている。

 一番近いのはあれだ、ぼんやりと昔の思い出を思い浮かべた時の感じ。

 意識を集中すると脳の映像がくっきりと鮮明になった。

 そこに一人の人物が映り込む。


 あ、矢代くんだっ!

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