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フラグ無双〜彼氏がラブコメ主人公体質で涙目  作者: 紀舟
第1章 ダーリンはモテキ編
6/20

妄想炸裂! チョロイン化現象

「り、りん子ちゃんがなんで……」


 耳のあたりで2つに結んだ髪型。くりっとした人懐こそうな小動物のような目。まさしくクラスメイトの錦戸凛子にしきどりんこちゃんだ。

 りん子ちゃんは私など目に入ってないようで、挨拶もなしに通り過ぎようとした。

 その頭上には三角旗。しかも濃い黄色の。


「り、りん子ちゃん! ねぇってば! 一体どうしたの? 何があったの?」


 あわてて引き止めるとりん子ちゃんは、ほうっと一つ溜息をついた。

 表情はまさに恋する乙女だ。乙女の溜息だった。


「風香ちゃん。そこで矢代くんにあったんだけど」

「うん!」


 そうでしょうとも。君の頭の上には矢代くんに会った証拠が燦然と憎らしく掲げられているからね。

 私はくったりしているドンちゃんをギュッと抱きしめた。強く、力の限り。


「矢代くんって、あんなに素敵だったっけ?」

「えっ……」


 ドンちゃんがボタッと落ちた。

 矢代くん、どんな手管でりん子ちゃんを籠絡したんだようぅ。


「私と矢代くんって、図書委員でしょ?」

「う、うん」

「明後日、私、図書当番なんだけど用事で出れなくて。それを相談したら代わりに出てくれるって言ってくれて」

「…………」

「それも、笑顔で『いいよ』って」

「…………え? それだけ?」

「だって、男子ってそういうの面倒くさがって変わってくれないじゃん。それを嫌な顔一つしないで、笑顔だよ?」


 りん子ちゃんは脳内で反芻しているのか、うっとりとした表情で目を瞑った。

 例えその矢代くんの笑顔が、心ざわめかす爽やかスマイルプライスレスであっても……


「り、りん子ちゃん……」


 一歩、二歩、私はりん子ちゃんに近づく。左足が何かむぎゅぎゅっと踏んだようだけど気にしない。

 そしてりん子ちゃんの肩をつかんだ。


「りん子ちゃん、目を覚まして。それじゃチョロインだよ!」


 肩をガクガクと揺らす。

 ついでに左足にまとわりつく何かが邪魔だったので蹴飛ばしておく。


「そんなチョロっとのことでいちいち惚れてたら将来婚活とかであっさり結婚詐欺に会っちゃうよ!」

「大丈夫。寧ろそういうことの方が大事よ。些細な事でも文句も言わずにやってくれる旦那様のほうが家事分担もスムーズに進むし! ストレスフリーな家庭が築けると思うの」


 なっ!

 全然、大丈夫じゃなーーいぃーーっ!!

 あんた何処まで人の彼氏で妄想してるんじゃー!


「というか、私が矢代くん好きなの、知ってるよね? 私何度も矢代くんのことで相談したよねぇっ!」


 このままでは淡い恋と共に女の友情まで壊れかねない。そんなの嫌ぁぁぁーーっ。


「そ、そうだったわね。やだ、私。友達の好きな人を好きになるなんて。好きになっちゃいけない人を好きになっちゃうなんて。友情と恋、どっちを取ればいいの?」

「迷うな! そこは友情一択で!」


 ダメだ。チョロインだけでなく悲劇のヒロイン妄想の底なし沼にもどっぷり浸かってしまっている。

 今の彼女に何を言っても己のストーリーを盛りたてるスパイスでしかないだろう。

 恐るべしモテの力。


 そこで私はさっきドンちゃんが言っていた言葉を思い出した。

 えー、と……あまりの黄色フラグの多さにショックで所々覚えて無いんだけど、確かドンちゃんはフラグはどんな手段を用いてでも折れ、と言っていたはずだ。


 折れば良いのよね、折れば。

 私はりん子ちゃんの肩に置いていた左手を支えにジャンプして頭の上の三角旗を掴もうとした……がっ!


「風香ちゃん?」

「あ、あれ?」


 私の右手は旗を素通りし、虚しく空を切った。

 もう一度手を伸ばすが、旗は掴めない。


「何やってるの?」

「何、て。頭の旗が取れなくて」


 バタバタと手を振るが、取れない。

 足元では何か柔らかいものがジャンプする度にぎゅうぎゅう潰れていたが、それは気にしない。


「頭に旗? 旗なんてあるの?」


 りん子ちゃんが上目遣いで頭上を見つめ、首を傾げた。


「そう。その旗のせいでりん子ちゃんがチョロインになってるから、これ取って折らないと……って……見えない? もしかして」


 もしかしてだけど、青画面レーダーと同じで実態がなかったり、私にしか見えてない系デスカ?

 顔が一気に熱くなる。

 何もないところにジャンプして旗がどうのと言っている様は周囲から見ればカワイソウな娘にしか見えないじゃないかぁぁぁ……。


「ごめん、りん子ちゃん。私のさっきまでの一連の動作は忘れてぇぇ」

「う、うん」


 物理的に折れないとなると、もう最後の手段しかない。

 ドンちゃんに次いで、何故他の人にわざわざ個人的関係と権利を主張しなければならないのか不明だけど、背に腹は変えられない。

 正直に、真摯に訴えかければ思いは通じるはず。


「あのね、りん子ちゃん。私、今日、矢代くんに告白したの」

「え! 告白したんだ」

「そう、だからね」

「ということは、私と矢代くんと風香ちゃんとで、学園ラブ・トライアングラー?」

「そう来たかーーっ!」


 もう、何を言っても無駄な気がしてきた。

 フラグが折れない。

 これがモテの力の影響なのか、りん子ちゃん本来のメンタルなのかは知らないけど、どんだけポジティブなんだ。

 私の心が折れてしまうよ。


「三角関係ねえ……四角関係じゃなくて?」


 私は脱力しながら言った。

 あんなに親身になって相談に乗ってくれた日々が、走馬灯となって脳内を駆ける。


「しかく?」

「私と矢代くんとりん子ちゃんとクリムゾンロザリオの翔矢様」

「しょ、うや……さま……」

「だってよく、りん子言ってたじゃん。翔矢様が好きだって」


 そうだった。りん子ちゃんは私の恋愛相談に乗ってくれた時間と同じ分だけ、熱くV系バンドのクリムゾンロザリオのボーカル皐月院翔矢様のこと語ってくれた。

 最新PVのAメロ冒頭の顔アップが美麗だとか。


「もう翔矢様のことはどうでも良いんだ」

「…………」


 おかげで矢代くんの情報よりも翔矢様のトリビアの方が熟知するまでになってしまった。好きなボディソープの銘柄とか。そんな情報いらなかった。


「もし、矢代くんがりん子と付き合うことになったら、翔矢様とは浮気だね」


 まぁ、そうなる前に全力で阻止させてもらいますが。


「良くない! どうでも良くない!」


 急にりん子ちゃんが叫び出した。


「浮気なんかしない! だって、翔矢様の方が好きだもの!!」


 その瞬間、りん子ちゃんの頭の上の黄色い旗がポッキリと折れた。


 えぇぇぇーーーーマジかよーー!


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