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フラグ無双〜彼氏がラブコメ主人公体質で涙目  作者: 紀舟
第1章 ダーリンはモテキ編
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ピンクのうさぎに祝福されて励まされた

 うさぎが浮いていた。


 正確に言うと、ふわっふわの翼の生えた、もこっもこっのうさぎちゃんのぬいぐるみ(ピンク)が浮いていた。


 「あれ? 私、寝てる? これ夢?」


 いやいや、そんなのダメ。夢とか絶対ダメ。

 だって、私はさっき夢を一つ叶えたばかりだし。

 標準な体型、平均的な成績、平凡な容姿、中流家庭に育ち、何の特化した才能もない私にとって、それは奇跡だった。

 高校2年生、初夏。

 片思い歴1年と2カ月。

 そう、ついに私、唯間風香ゆいま ふうか矢代京一やしろ きょういちくんと付き合うことになったのだ。

 それを思い出し自然と頬がゆるむ。うへへ。

 って、よだれ垂らしてる場合じゃなかった。


 放課後の帰り道。

 矢代くんとはひとつ前の十字路で分かれたところだった。

 一瞬、あまりに矢代くんとのことが嬉し過ぎて、脳が誤作動を起こしたのかと思った。

 けれど、目を擦っても、深呼吸して気持ちを落ち着かせようとしても、変わらなかった。

 目の前にはあり得ない光景。住宅街の道のど真ん中、うさぎのぬいぐるみが目上30cmの中空をふわふわと浮いている。

 うん! これはあれだよ、テレビの収録とかだよ!

 うさぎのぬいぐるみはナイロン糸で吊っていて、どこかでカメラがまわっているんだ。

 テレビでよくあるドッキリだ。日常ではあり得ない状況に一般人がどう反応するか、とかいう最近、流行りの観察番組とかだ……ここ、東京からははるか遠い田舎だけど。

 ……とりあえず、驚いておいた方が良いのかな。


 「う、うわー、可愛いうさちゃんが、う、ういてるー」


 我ながら、わざとらしい声が出た。

 あたりに沈黙が流れる。番組のスタッフが出てくる様子はない。


 ど、どうすればいいんだよう。

 私はこんな道端で、変なうさぎと対峙している場合じゃないのに。

 さっさと家に帰って今日という記念日を日記にハートてんこ盛りで綴って、枕に顔うずめて嬉しさ噛みしめつつ、ジタバタする、という予定が狂ってしまう。

 で、隣の部屋のヨウちゃんが「うるせーぞ、姉貴!」って怒鳴りこんできたところを捕まえて、彼氏ができたこと報告して――ヨウちゃん悔しがるだろうなー、絶対彼女いないだろうしっ。むふふふふふー。

それで矢代くんの素晴らしいところを、お母さんから晩ごはんに呼ばれるまで語ってー。


 「お褒めの言葉、ありがとうございます、唯間風香さま」

 「へぁ?」


 暴走する妄想を止めたのはしゃがれた声だった。

 お褒め? 何のこと?

 

 左右を見回し、つぶらな瞳と目が合った。

 今のはうさぎが喋ったのかな。

 お褒めの言葉とは「可愛いうさちゃん」の返答だったのかな。

 うさぎが喋る、そういうシナリオで来ましたかぁー、テレビ局さん。

 フルネームまで知っているなんて、気合入ってるなぁ。リサーチしたのか、わざわざ。

 でも、うさぎの声にガザガザの枯れた声あてるのは、手抜きだよ。ADさん使ったのかな、酒焼けしたおっさんみたいな声だよ。ピンクが似合わない。


 ポカンと口を開けたままそんなことを考えていると、うさぎがさらにとんでもないことを続けて言ってきた。


 「唯間風香さま、この度は矢代京一さまとの両想い成就おめでとうございます」

 

 う、うさぎのぬいぐるみに祝福されたっーーー!

 

 酒焼けしたおっさん声の言葉に顔が一気に熱くなった。

 

 「うええええぇ、な、なんでそんな最新ニュースまで……」

 

 ストーキングでもされていたのだろうか?それは気合入れすぎどころか、犯罪なんじゃないの?

 しかし、思い返してみると告白した屋上には人影なんてなかった。

 そして帰り道。私と矢代くんの関係を他者が見て即座に判断できるとは思えなかった。恋人の特権スキル『手をつなぐ』を行使していれば、察することはできたかもしれない。けれど、付き合って30分で、そんな上級スキル(フウカ基準)、私には無理だった。

 隣を同じ歩幅で歩く。たまに見上げて顔を見つめて、目が合うと反らす。それが限界だった。

 それだけで、甘々ラブ空気、付き合いたて初々オーラが醸し出されてたとは、思えないんだけど……。

わー、自分のヘタレっぷりにヘコんできた。

 気分の落ち込みに合わせて、肩も落ちて猫背になった。

 うさぎの目の前で、驚いたり、赤面したり、落ち込んだりする女子高生。

 カメラさん、良い絵は撮れてますか。


 「ふむ、後悔値が急上昇してますね。慕情面が裏返るほどではありませんが……いけません」

 

 うさぎがその短い手を顔の下あたりに持っていき、頭を少し斜めにした。たぶん人でいうところの、顎に手を当て首を傾げる、というポーズを取りたいのだろう。首がないので分かりづらい。

 ていうか、動けたのか。


 「何に打ちひしがれているのか存じ上げませんが、元気を出してください」


 こ、今度は励まされたぁ。


 「今からそんなことではすぐに黒堕ちしていまいます」

 「へぁ?」

 

 さっきからよく分からないことを呟くうさちゃん。


 「自己紹介が遅れました。私、運命管理委員会恋愛課日本支部のドンファー=ジ=デローニモと申します。大変申し訳ありませんが、こちらの手違いで矢代京一さまに銀河一のモテ属性が付加されてしまいました」

 「ふへぁ?」


 運命管理? 銀河一モテ? 属性付加て……?

 何のことだ?

 うさぎの話に頭がついていけない。

 ポカーンとした顔になる。

 えーと……。

 フリーズしてしまった思考を必死で再起動させ、整理する。

 

「もて? やし……きょ、京一くん、モテ期に……入ったの?」






 



 


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