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大切なもの×1

 警報を鳴らせ

「帆を上げろ!」

 ピッピッピッー

「軍が来たよ!どうする?」

「逃げよう!」

 汽笛を鳴らせ

「はやく!はやく!」

 走れ、走れ

 自由を求めて


 ***


 海賊「ウンターガンク」はただの集まりではない。

 かといって、悲しい過去があったとかうれしい過去があったとかでもない。

 ただそこに「海賊」というレッテルを貼られた集まりだ。

 世界を敵にまわしてでも自由を求める集団。

 それが「ウンターガンク」という海賊だ。


「まいったねえ」


 そう副船長である『リヴ』は青い空を見ながら呆れたようにつぶやく。

 よくあるバンダナを頭に巻き、葉巻を吸っているあたりは相当ベタな海賊だといえるだろうが、その肩から腰にかけてある長く紫がかった髪やふくよかな胸ががまた新たな価値観を生み出させる。


___最近、日本海の警備が厳しくなった。日本も私たちの存在に気づいたかな?


 もしかしたら、海上軍隊が来るかもしれない状況でリヴはできるだけ冷静に周りを分析し改善策を立てようとする。

 が、新たな声により緊迫した思考は穏やかなものとなる。


「何を考えているの?私にも教えなさい」

「キャー、紗良さらかっこいい!もう、どこまでもついて行く!」


___誰かと思えば、紗良と灯呂ひろじゃないか。そうだ、こいつらに聞けばいいんじゃないか?


 そして、その声は新たな考えリヴの脳内に提出をした。


「そろそろここを離れるかを考えていたんだ。紗良と灯呂はどうしたい?」

「私は特にも考えてないけど、ここは暮らしやすかった、ぐらいの感想ね」

「僕は、紗良がいるならどこでもいいよ!」


 紗良と呼ばれた少女は、右目に眼帯アイパッチという何とも印象に残るアイテムを付けており、少し幼さの残る顔立ちにショートヘアという可愛らしい外見と青を基調にした動きやすような服装をしている。

 一方で灯呂と呼ばれた少女は、右耳に紗良の眼帯と同じ色の片耳イアリングを付けており、少年ぽい顔立ちに腰まではあるであろう髪をポニーテールという外見をしており、服装は赤を基調とした先ほどとの紗良とは正反対の格好をしていると同時に、長い髪がなければ男の子と間違えてもおかしくないような雰囲気を纏っている。

 

___やっぱりこの二人に聞いたのは間違いだったかな。


 リヴはこの二人に簡単な別れを言った後そこまで大きくない船の奥にある船長室へ向かう。

 この船はたいして大きくない。かといって小さくもないしちょうどいい大きさというのが簡潔な形の説明だろう。

 コンコンとノックの音が小さな部屋にこだまする。


「なんだ?ていうか誰?」

「…リヴです。入ってもいいでしょうか?」

「いいよー。あと、敬語やめて。俺はそんな偉くないから、ね?」


 ケラケラと笑いながらこわばった顔のリヴを迎えるのは船長であるフェアラートだ。


___やっぱりこいつは何か企んでそうで怖いな。好きになれないとでもいうのか。


 船長部屋はあっさりとした造りになっており、ベッドと机や本棚という簡単なものしか置いていない。

 フェアラート曰くゴチャゴチャとしたのが嫌いらしく必要最低限なものしか置いていないのだそうだ。

 

「日本海にも海上軍隊が来ています。日本海を出発しますか?」

「ほかのクルーに聞いた?俺じゃあそれは決められない、仲間の意見の方が正しいときもあるしね」


 困った顔をするフェアラートは、海賊らしい三角帽にマントという見れば海賊だと一瞬でわかる服装をしており髪は少し透明がかった金髪、簡単に言うならばどこにでもいる海賊のコスプレをしたハーフの若いお父さん、が一番しっくりくる。


「いえ、今のところ紗良と灯呂にしか聞いていません」

「じゃあ、どこに行くか考えておいてくれる?」

「はい」

「じゃあ、早ければ今晩にでも出発しようか」

「そうですね」


 持っていた葉巻を綺麗にしまいながらリヴは船長の話に耳を傾け、近くの本棚から世界地図を引っ張り出す。

 彼の話といえば仲間を信用しきっているような喋り方で、リヴは到底好きに離れなかった。

 仲間を信用してい過ぎてある種の宗教のような感じの言霊がリヴには感じられ、言葉の端々から出てくる違和感ががリヴの信頼を覆すような、そんな感じが度々リヴに襲い掛かかった。

 が、難なく耐え船長室を出ていく。


___さて。嫌な奴との話も終わったし、航海士さんのところにでもいくか。


  リヴは簡単な資料を持って航海士のもとへ行く、資料など無くてもリヴや航海士のティミドなら世界地図など頭に入っているがほかのクルーに説明するときのため一応持っていくといった感じだ。

 この船には航海士とその助手がおり二人一役のような感じだ。


「ティミドいる?」

「あ、リヴさんだー。こんにちは」

「こんにちは。ティザー」

「ああ、リヴちゃん。何か用ですか」


 航海士はティミドでくるくるとカールのかかった赤毛が特徴な落ち着いた感じの少女で、恥ずかしがりやのためあんまりみんなの前に顔を出さない。

 そのティミドの助手のようなものをしているのがティザーで赤毛におさげという元気な女の子だ。

 二人の共通点は、赤毛と名前の初めが「ティ」から始まるくらいしかないのだが、意気投合し手この仕事を二人で仲良くやっている。


「軍が日本海にも来ている。どうする?」

「どうするって言われても…」

「ねえねえ、軍ってなに?」

「私たちを捕まえる、…悪い人かな?」

「ふーん」


 ティミドはゆっくりと腰をかがめティザーと同じ目線になりながらリヴを見上げる。


「言えるのは、インド洋に逃げるか、太平洋に逃げてオーストラリア付近に行くか」

「その二択なんだよな」


 ティミドは手を頬にあて軽く首をかしげる。


「私はインド洋に逃げるのがいいと思うのだけど」

「なぜだ?」

「インドネシアとか島国がたくさんあるでしょう。それに警備も少し浅い」

「そうか」

「じゃあ、船を動かしてくる。」

「わかった。指示はこっちで出しておくわね」


 ___さすが。ティミドはすごいな。


 そう思ったリヴの溜息はカツカツという靴の音と少し暗い廊下の奥に消えて行った。

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