プロローグ
「第134回。世界のための会議」
ガキの頃、俺たちは秘密基地で毎日世界平和のための作戦会議を開いていた。
つまりバカが3人いた。
「毎日腹筋50回はよゆーで達成できるようになったぜ」
筋肉は敵を薙ぎ払うために己が肉体を鍛えていた。実に筋肉馬鹿だった。
「百戦百勝は善の善なる物にあらず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なる物なり」
メガネはそもそも戦いこそ愚策の極み、真の勝者とは初めから勝っているいる、とわかっているんだかわかっていないんだかよくわからんことを言っていた。実に拗らせていた。
ともかく、俺と、筋肉と、メガネは毎日飽きもせず秘密基地に集まっては、それぞれがそれぞれの世界平和のために己を鍛えていた。
その当時はやっていた、戦隊ものの、悪役を仮想敵にして、世界を守る方法を話し合っていた。
正義の味方の戦隊が悪に屈し、世界が悪に支配された、苦しみ逃げ惑う人々を俺たちはいかにして守るのか。
そのために筋肉はますます筋肉を鍛えたし。メガネはますますメガネになった。
「でうす えくす まーきな」
そして俺は秘めたる力の覚醒の時に備え、必殺技の名前を考えていた。
つまるところ、全員が拗らせていたが、真正の馬鹿は俺だけだったということだ。
まぁ最初から分かっていたことだ、運動神経抜群の筋肉はいつだってみんなの英雄だったし。
頭のよかったメガネはどっかの偉い私立中学に進学していった。
そして俺はイケてない集団の中にいて、別に何をしたわけでもないのに、中途半端に偉そうにしていた。
別々の道へ進学し、めんどくさがって連絡をおろそかにしていたら、初めから少なかった友人は一人残らずいなくなった。
別に引きこもてたわけではない。誘われれば外には出たし、人並みに遊んで、人並みに働いていた。同僚と飲みに行くのは楽しかったが、あいつらはあくまで同僚だった。
友達の作り方なんてとっくの昔に忘れていた。
そして今日、晩飯を食いながら何となく付けたテレビのニュースでメガネを見た。びっくりしてたら、そういえばどこどこの政治家の秘書になったそうよと母が聞いてもいないのに教えてくれた。
ついでに筋肉は自衛隊員になってて、この前の自治会の溝掃除大会で久々に里帰りしてたそうだ。
俺は仕事で大会には不参加だったが、筋肉はその鍛え上げた肉体を使って大いに活躍したそうだ。
てか、結婚していてかわいい嫁さんもいたそうだ。
式に呼ばれてなかったことに気が付いて地味に傷ついたりして。でもまぁ筋肉とも中学のころには付き合う集団に差がありすぎて、何となく疎遠になってたし、そんなものかと思った。
そうして久しぶりに二人の話を聞いたおかげで、まだ俺たちが毎日朝から晩まで一緒に町中を駆け回っていたころ、筋肉の家の隣にあった、その当時ですらもう稼働していなかった町工場の中、秘密基地で毎日世界の為に作戦会議を開いていた事を思い出した。
今はもう駐車場かなんかになってた気がする。毎朝の通勤で近くを通っているはずだが、はっきりと思い出せなかった。住宅になっていたんだったろうか。
懐かしくは思うが、どうという事は無い。ただそれだけだ。
そうして、哀愁を胸に布団にもぐりこんだせいか、酷い夢を見た。
正義も悪も守るべき人々も滅びたあと、世界だけがそこにあり、そして俺は独り秘密基地で、必殺技の名前を考えていた。なんていう酷い、酷い夢だ。