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第一話 裏話前編

一週間ぶりとかフヌケすぎててすいません(´・ω・`)

「おーいシュワちゃん。ちょっと来てくれ」


 今日も今日とて日課の薪割りをしていたところ、ボスのデルアからお呼びが掛かる。

「何かヘマしたかなぁ……」

 呑気にそんなことを呟きながら、宿屋コーデュロイの屋内へと入り、デルアを探す。

 わかりやすいことに彼女は宿の入り口はいってすぐの受付に立っていた。


「おぉシュワちゃん」


 オレを見つけるなりスッと片手をあげて挨拶をするデルア。その動きに巻き込まれ、長い髪がふわりと彼女の横を舞う。


 相変わらずカッコいい人だ。

 立ち姿はスレンダーでピチッとした服がとても似合う。そして眠いのか、ただ目つきが悪いのか、半分だけ開かれた眼も相まってりりしく(少し怖く)見える。

 この人が宿屋コーデュロイのオーナー、デルアだ。異世界に迷い込んだオレを拾ってくれた恩人でもある。


 今じゃこの宿にお世話になる必要もないんだが、居心地が良いためなかなか離れられずに、半ばマイホームとして住み着いている。薪割りという仕事と交換条件で、だ。


 さて、今回呼び出されたのは何だろう。

 割った薪が湿気ていたとかいうイチャモンならオレの及び知るところではないが。


「あーその……すんません」

 理由はわからないが先制攻撃で謝罪してみる。するとデルアは途端に目を丸くしてくくっと小さく笑った。


 どうやらオレの読みは外れたらしい。

 洞察力と筋肉がウリのシュワちゃんこと、有野秀和オレらしからぬミスだ。

 これもきっと普段から表情が読みにくいデルアのせいである。


 その心中を察してか、デルアは眉尻をあげて不思議そうに言った。

「そんなに私はいつも怒っているか?」

「い、いやそういうわけじゃないんだけどな」

「なら何か悪いことをした覚えがあるのか」

 そういうわけでもない。


 このままじゃ埒があかないので、頭を振って話の路線を戻す。

「忘れてくれ。それより何か用なのか? こんな朝っぱらから」


 ちなみに今の時間は地球で言うところの午前六時頃。この世界はまだ日時計が主流らしく、皆アバウトに動いている。どうやら時間に追われることもなく細かい時刻は気にしないライフスタイルのようだ。


 日頃から宿の経営で多忙、そして寝不足のはずのデルアではあるが、目覚まし時計もなしによく起きられるものだ。

 尊敬に近い視線を送るも、彼女はそれに気付かない。そしてやや小馬鹿にした顔つきでこう切り出すのだった。


「シュワちゃん。ちょっと買い物に行ってきてくれ」

「買い物?」

 行ってきてくれ、という口振りからするとオレ一人で行くようだ。


 初めてだな、デルアがオレ一人に買い物を頼むなんて。荷物持ちなんかはよくさせられてるものだが。何かあったのか?


 訝しい心境になるも、デルアは気にせず続ける。

「お前一人でいい。行き先は第五地区三番街の二号通り。そこの裏通りにある卸売店に行って砂糖を買ってきてくれ」

「さ、さ……砂糖っ?」


 そんなのオレが行くほどのことか……? 小学生のお使いじゃあるまいし、数百グラム程度の買い物なんかしたら筋肉が泣くぞ。

 コーデュロイで引き取った奴隷の子にでもやってもらうか――いや、なんかパシリみたいでいやだからウィルティに行かせるか?


 カシャカシャと脳内計算機で算段をたてていると、デルアは半眼のままにやりと口元だけで笑みを浮かべた。


「そうだ。砂糖だ。百プノドのな」

 百……プノド?


 すかさずスマホを取り出し指紋認証を解除し、質問応答アプリ『Siraシーラ』を起動する。


 ちなみにこの世界の大気中には雷精といういわゆる「精霊」が存在し、このスマホの電池の中にもそいつらがゴマンとひしめいている。おかげで充電いらず、更にネットワークを介さずとも『シーラ』に質問することが可能になっている。

 オレの操作によって目覚めたシーラは、無機質に声をあげる。


『おはようございます、マスター』

「あぁおはよう。いきなりで悪いが聞かせてくれ」

『なんなりとどうぞ』


 ――いくつだっけ。

「えっと……百プノドって……どのぐらいの重さなんだ?」

 プノドは重さの単位らしい。それは把握しているのだが、いまいちそれが何グラムを指すかを覚えるまでは至っていない。


 オレのその質問にシーラはすぐさま答えてくれる。


『一プノドは地球で言うと四百五十グラムほど。百プノドですと四十五キロになります』

 よ、四十五キロ!?


「なっ何でそんな大量の砂糖がいるんだっ? いじめかよ!」

 スマホから目を離し、デルアに食ってかかる。だが彼女に悪びれた様子はない。


「どうしても必要なんだよ。お前の愛しの『殿下』からの依頼だ」

「お、王女様が?」

「神官様や従者の皆様方をまじえた舞踏会が今度開かれるそうだ。そこでもてなす料理や菓子を作る役として、私に白羽の矢が立ったわけだ」


 舞踏会……かぁ。

 城の人は呑気なもんだぜ。そのせいでオレがクソ重たい砂糖を運ばされるってのに。


 ま、確認だけはしておくか。

「一応聞いておくけど台車は――」

 その語りだしをデルアは食い気味に

「台車なら無いぞ」

 かぶせてきた。


 ……………………。

 無い……?

 無いってのはつまり、無いのか?


「無いぞ。台車はお前が拾ってきた奴隷のガキたちに使わせている」

 まるでオレの心の声に相づちをうつかのようなタイミングだ。


 しかも奴隷の子たちに使わせてるっていうことは。

「あいつらにも他の材料を?」

「ああ。乾物店で干しブドウを十プノドほど買ってくるよう頼んだ」

 その言葉を聞いてオレは頭がくらりとする。


 たった……たった十プノド――五キロもない荷物をだ、五人もいる奴隷の子供たちに買いに行かせるのによぉ、何で台車が要るんだよ!

 一方のオレはその十倍、四十五キロの荷物を一人で運ぶんだ。


 しかも行き先は何て言ったっけか……確か、第五地区、とか。

 どんだけ遠いんだよ。片道三キロはあるだろ。


 馬車を使うという手はあるが、王女様からもらっている給料はニリリの鍛冶屋の運営資金に充てているため、現在の手持ちは空っぽだ。デルアがそういう経費を出すはずもない。つまり徒歩になる。

 片手二十三キロずつの砂糖を持って三キロの道をエンヤコラ帰る――だって?


「筋肉どうこうより指がちぎれるわっ!」


 脳内の計算結果にノリツッコミが発動してしまう。


 その悲痛な叫びにデルアは自分のこめかみをトントンと叩くポーズをし、「頭を使えよ」とばかりに呆れたトーンで言うのだった。


「手じゃなくて背中。担げよ」

 …………たしかに。



     ○



 コーデュロイのある第三地区の隣、あまり活気のない第四地区を南に横切っていくと、突然ワッと声の沸き立つ華やいだエリアへ出た。


「第五地区…………ってここか」


 とにかく人が多い。

 地区の中でも一番盛り上がる一番街だからこそだろうが、この密集具合は渋谷の街を彷彿とさせるものがある。


 まずは三番街に向かお――


 辺りを見回したオレだったが、そこで目についたのは案内標識とかではなく、まるで予想をしていなかったものだった。


「――げ」


「いたっ! シュワちゃん、ようやく見つけたぞっ!」


 目が合っちまった。

 人混みの中、動きづらそうなデカい馬車の屋根に立ち、身分不相応な大声を出す少女。


 ――何を隠そう、彼女こそこのアルスタン王国の第一王女だ。

 ふとした事件からオレは彼女に目をつけられ、ことあるごとに付きまとわれるようになってしまった。

 イヤではないんだけど、彼女と会うとなんだか悪いことが起きそうな『フラグ』が立つような気がしてならない。どこぞの小学一年生や高校二年生のようなやつだ。


 だがまぁ……彼女は友達のいない身、オレ以外に気軽に話せる相手もいないだろうし、顔を見て逃げるのも可哀想だ。

 オレは観念して、馬車から飛び降りてこっちに寄ってくる彼女を待つ。


「よぉ。まだ朝だってのに元気だな」

 挨拶がわりに皮肉を言ってやると、王女様は目を丸くした。


「……な、なんじゃその態度はっ。人が苦心して探したというのに」

「いや、でもなんか暇つぶしだろ? そんなオーラがぷんぷんしてるぜ」

 この言葉に彼女はさも心外といった調子だ。


「枢機卿としてそなたを迎えに来た、という可能性は考えぬのか?」

 これにオレはきっぱりと返してやる。


「ないな。なんかオモチャ見つけたみてーな顔してるもん」

「ぐぬ…………そ、そんな顔しておったか?」

「してたしてた。王族としての尊厳をカケラも感じさせねー、フヌけた顔だったぜ」

 そこまでヒドくはなかったが、少し話を盛ってやる。


 すると彼女は口をとがらせて、

「……く、このぉぉぉ……っ!」

 地味に服の上からオレのふとももを強くつねってきた。


「あだっ! あいでででっ!」

 この攻撃には筋肉の壁をもつオレもさすがに声をあげて飛び退いてしまう。


「な、何すんだよっ!?」

 オレがけっこうなリアクションを見せたことに満足したのか、彼女はにこやかに腕組みして鼻をならした。


「この人目の多い場で暴力を振るえば周囲の者が『感染』するじゃろ? 配慮じゃ、配慮」

「配慮ってなぁ……」

 相変わらずムチャクチャな人だぜ……王女様のくせによ。


「で、何でオレがここにいるってわかったんだ?」


 明らかに先回りされたしな。

 といっても大体見当はついている。そしてそれが正解であることを、王女様はすぐに教えてくれた。


「そなたがこの街へ買い出しに来ることは宿の女主人から聞いておる。アルスタン国の地理に疎いそなたであればわかりやすい大通りしか通らんのは自明。故にここで張っておったというわけじゃな」

 彼女はえへん、と無い胸を張る。

 まあ、想像通りだっただけに「さすが」とも何とも言えない空気だ。


「そういや舞踏会の料理、コーデュロイを指名したのは他ならぬ王女様なんだってな」


 デルアから聞いたばかりの情報で話題をかえる。と、王女様は「どうだ」と言わんばかりに再び胸を張った。


「そなたが懇意にしておる宿への発注という余の計らい、傷み入ったか?」


 う、うーん……良いことをした、という意識しかないぞ、この人。

 オレやその周囲にいる知り合いをひいきにしてるだけで、他の地区の商店をあんまり考えてないように思えるが。

 なんとも返しづらい。


「そ……そうだな。うちの宿が潤えば、あの地域を仕切ってるジングル卿も潤うしな。それはゆくゆく第三地区全体の活性化になる……よな」


 ――たぶん。

 経済とかよくわかんねーけど、きっとそんな感じだろう。

 その言葉に気をよくしたのか王女様はますます鼻を高くする。


「うむ。余も良かれと思ってやったことじゃ。必ずや成功するじゃろ」

「そ……そうだな」

「それにそなたも宿の手伝いをしながらも、身体を鍛えられる。一石二鳥じゃろ?」


 ……えっ。

 なんかとんでもない発言が聞こえた。まさか、とは思うが――


「もしかして今日砂糖をオレ一人で運ぶことになったのも……?」

 おそるおそる訊ねてみると、彼女はにんまりと勝ち誇った笑みを浮かべた。


「ふっふ。その通り。そなたの『筋トレ』の足しになればよかろう、とな」

「そ、そうか……」


 配慮は嬉しいが、実際やたらめったら重たい荷物を背負うのと筋トレとはモノが違う。下手をすればただ身体を痛めるだけになるのだ。

 いわば「ありがた迷惑」といったとこ――


 ――いやちょっと待てよ。こいつ馬車に乗ってきたよな。あわよくば四十五キロもの砂糖を一緒に運んでもらってはどうだろうか。どっちみちオレの午後の自由時間を全て遊びのためにくれてやることにはなるし…………うん、そうしとこう。


 オレは今日という日を諦め、ため息をついた。

「知ってるとは思うけど――二号通りの店、一緒に行くか?」

 途端、この言葉を待っていたかのように国のナンバー2の少女は目を輝かせた。


「い、行く行くっ!」



     ○



 馬車を目的地近くにつけておくよう命じて、徒歩で三番街の二号通りへと向かう。

 人混みのせいで歩いたほうが早いからだ。


 一歩一歩進むたびに目の前の人々が膝をついて頭を垂れる中、王女様と並んで進む。

 ふと、王女様は思い出したように世間話をはじめた。


「してそなた、最近はどうじゃ?」

 ――どう、ってなにがだよ。

 反射的にそういう返事が思いつくが、センスがないのでためらう。


「まぁ『あれ』からは平穏無事ってやつだ。薪割りして朝メシ食って、また薪割りして晩メシ食って寝るだけだ」


 これに彼女はおもしろそうにくくっと笑い、その顔とは正反対の感想を言う。

「なんじゃ、つまらん生活をしておるな」

 面白く表現はしたが、やはり生活ぶりを笑われるのは良くは思わない。


「つまらんつっても、『シャーマン』としての仕事が無いのはよく知ってるだろ? 王女様のおメガネにかなうような充実したシャーマンライフは、到底送れねーさ」


 肩をすくめて片眉をあげて返すと、彼女はどこからか取り出した扇子を口にあて、周りから口を見られないよう潜める。


「あの神官を捕らえてからここしばらく、奴らは恐ろしいほどに鳴りを潜めておるな。恐らく好機を狙っておるのじゃろ」

「そう……だな」

「少なくとも一人、あの計画に与した者は居る。どこまで根が深いのかは知らぬが、奴らとてそう簡単に諦めるわけもなかろう」


 すれ違う民たちにわからないようにキーワードを伏せて会話を続ける。

 というのもこれは国の重大な機密に関わるからだ。



 二週間前、十一神官の一人である法神官ボティスが王女様の暗殺を企んでいるとオレたちは知り、ボティスを罠にハメて逮捕。千年以上の懲役を課して封じた。

 だが残りの神官たちにもまだクーデター計画に荷担している奴がいる。野放しにはできないのだが、かといって全員を捕まえることもできない。気の長い話だが奴らからまたモーションがあるまで待つ必要がある。



「手紙に書いてあったラボラスって奴はどうした?」

 ボティス神官が王女様暗殺計画を一緒にすすめていたであろう相手だ。

 それを聞くも彼女は浮かぬ顔で答えた。


「そなたを捕らえる算段に助言したのは確かだそうじゃが、余の失脚を狙った記述に関してはシラを切っておる。止めるつもりじゃった、とな」

「よくもまぁヌケヌケと」

 白々しいが……上手いこと逃げられたものだ。


 何かしらの罪に問うこともできるだろうけど、短い刑期で出てこられたら意味がない。死ぬまで牢屋生活ぐらいのデカいやつじゃないとな。


「何か尻尾出すまで……待つしかねぇのかな」

 向こうからまた仕掛けられるのは癪だが、こちらから攻めることもできない。

 どうにもならない膠着に歯噛みをするが王女様は頓狂な声をあげた。


「ん? なんじゃそなた、気付いておらんのかぁ?」

 ……?

「何がだ?」


「此度の舞踏会じゃ」

 舞踏会の何を気付くってんだ?


 頭上にクエスチョンマークを浮かべるオレを見て、彼女は鼻を高くして人差し指を振った。


「ふふん……わからんか。あの舞踏会は神官どもを捕らえるための餌じゃ。余とそなたが出席しておる会に奴らも同じく招く。さすれば開催まで――もしくは当日に何かしらの動きをするであろうと読んだのじゃ。関係者が一堂に会するのは奴らにとって機会じゃろ?」


「な、なるほどっ。考えたな……」

 マンガとかでよくあるパターンだ。

 互いに手の出しにくい膠着状態こそ全員が集まって動きを誘う。


「――ってことは王女様はオトリになるつもり……なのか?」

 神官の目的は彼女だ。


 映画だったら超長距離からスナイパーライフルで狙撃もされるだろう。この世界においても同様に、神官が秘密裏に育成しはじめた(と仮定する)暗殺部隊が暗躍しそうだ。そいつらの所属を確認でもすれば証拠にもなるが、危険すぎる手だ。


 その心配を彼女は跳ね除ける。

「案ずるな。そなたの世界の話は知らぬが、ここアルスタンにおいて奴らが目的を達するには余に近づくか矢を射るか毒を盛るしかない。監視の目があればそう大それた行動には出られんじゃろ。それに万が一の時はそなたも居るしな」


「過信されても困るんだが……」

「ふん、シャーマンとあろう者が弱音とは情けない。――ほれ、歩調が緩んでおるぞ。さっさと行かんと日が暮れてしまうぞ?」

 言うと王女様は早足で進み出してしまった。


 ……はぁ。

 この人はほんと矢面に立つのに躊躇がないな。アルスタン王国唯一の後継者だっていうのに自分でなんでもやりたがる。おてんばも甚だ過ぎる。


 ずんずん進む王女様を追いかけていくと、やがて一つの店の前で立ち止まった。頭上高くにかかる看板を見上げると彼女は不審な顔をした。

「ここ……じゃろ?」


 それはデルアから聞いていた通りの名前が書かれた卸売り店。だが、

「のはずだけど……閉まってるな」

 もう店が開いていてもおかしくない陽の高さなのに、扉は閉じられている。


 目覚ましも時計もなければこういう事態も起こり得るだろうが、今朝はオレの来店がある。大口の客が来る日に寝坊するものか?

「しょうがない。裏口から入らせてもら――」

 そう踵をかえした瞬間、後ろから声がかかった。


「この店に……御用でしょうか?」


「んっ?」

 ――男だ。二十を少し過ぎたくらいの歳に見える。


 そいつはオレの背後にいる気高い少女を目にし、慌てて膝をついた。

「かっ!? こっ、ここここっここれは殿下!」


「うむ、いかにも」

 いかにも、じゃねえよ……この人が王女様オーラ出しちゃうと一般の人たちビビっちゃって話が進まないんだよなぁ。


「ま……まぁいいから頭あげてくれよ。今日はお忍びで来てるからさ」

 そう言うと男はようやく話を聞いてくれる体勢になってくれる。


 さて、しかしこの人は一体誰なんだ?

「えっと、もしかしてこのお店の人ですか?」

 聞くと彼は困ったようでどこか嬉しそうな難しい顔をした。


「その……か、関係者といえば関係者ですが」

「砂糖の精製する職人さんとか?」

 商品を卸している職人なら、そのくらいの距離感で表現できそうだ。


 自分の出した可能性に納得していると、

「いえ、ここの店主――イリジダと僕はいわゆる結婚を控えた、婚約の関係でして」

 なるほど、ね。


 予想が外れて少し悔しいものの、婚約者が現れたとなれば店主さんを呼んでもらうのもワケのないこと。いいところに来てくれた。

 オレはさっそくこの休業状態の店について訊ねてみる。


「なんかお店開いてないけどどうしたんです?」

「いやぁ……僕も今着いたばかりで何が何やら。いつもならとっくに営業始めてますよ」

 今日に限って遅い開店?

 ただの偶然だとは思うが、オレと王女様の持つ『フラグ』っぷりを考えると不安になる。


「――裏口から入れます?」

 この質問の意図はすぐ伝わったようで、彼はその裏口があるであろう方向にむけて方向転換をした。


「ちょっと行ってきましょうか? きっと寝坊でもしてるんですよ」

「あいや、オレたちも一緒に行きますよ」

 言って王女様と目で合図をする。

 三人連れだって店の裏手にまわる。


 男はそこに備え付けられた小さなドアに手をかけると、ノブをくいっと回して引っ張った。

 ……鍵はかかっていないようだ。


「おーいイリジダ、お客様だ」


 いつもそうしているように自然と彼は屋内に入っていき、更に呼びかける。


「聞いて驚けよーっ、今日のお客様はなんとあの殿下だぞ!」

 返事はない。


 なおも男は建物のいろいろな箇所に顔をつっこみ、居住用の台所に差し掛かった。

「イリジダ~? どこに――」


 そうして、彼は止まった。

 ぴたりと。

 動画を一時停止をしたように。


「………………あ……い…………イリ……」


 ふらりと足下がふらつき、彼は崩れ落ちた。

 オレは王女様と顔を見合わせてから駆け寄り、台所の奥をのぞき込んだ。


 ――そこにはまた、いたのだ。

 ――死んだ人間が。

(´>ω<`)う、うーん……大きな事件はまだ先になるぽ

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