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意外と身近な物語 1

 放課後、彩花は契と一緒に通り魔事件のあった現場を訪れていた。

 学校からはそこそこ離れている。放課後すぐに向かったからまだ早い時間帯だが、それでも人通りは少なかった。たまに人が通ったかと思えば、契の姿を見てビビッて慌てて引き返してしまう。

「確かに、暗くなったら人が通りそうにはないですね」

「暗くなってから一人でこんな場所を通るなっつぅ話だけどな」

 なんでこの人はこんな外見でこんな保護者的かつ常識的な意見を真顔で言えるんだろうか、と半ば本気で疑問に思う彩花。人は見かけによらない、という点でのみ彩花と契は共通しているようだ。契は不良じゃないし、彩花は女の子じゃないし。

 まあ、今はそれよりも話を進めよう。

「それで、先輩が見つけた未現体の痕跡っていうのは?」

 彩花が尋ねると、契は数か所を手で示した。路上のやや大きい窪み、大きく曲がっている駐車禁止の標識と、その焦げ跡。

「こいつらだ。一見すると未現体は関係ないようにも見えるが……てめぇ、確認取るとか言ってたよな?」

「はい、確認しておきました。季蜜が、学園で保管してる未現体の一部が無くなってるかもしれないって言ってたので……」

「結果は?」

「当たりです。無くなってたのは衝撃と火炎の能力を持つEランクらしいんで、この痕跡とも一致しますよね?」

「だな。後はてめぇも食らった記憶操作を入れて三つか。盗まれたのは入学試験の時だろうな」

 二人で確認するように報告していく。二人ともある程度の予測がついている事実を確かなものにするように、一つずつ。

「もちろん未現体の盗難と今回の通り魔はまったく別の事件、って可能性はねぇこともねぇ。だが、こうなるとそうも考えにくいだろ」

「そうですね……やっぱり、二人のどっちか、ですか」

 結論はそうなる。

 光真か澪。

 今朝の契の推論やこの犯行現場などから考えれば、通り魔は二人の内どちらかだ。二人とも学園の試験を受けているし、未現体を盗む機会はあったはず。

 Eランクは使用者を選ばない唯一のランクだし、適当に盗み出したって問題なく二人とも扱えるだろう。

「あとは動機か。それさえ分かりゃどっちが通り魔かも分かんだろ」

「そうですね。……俺がそれとなく探ってみます」

「ああ、任せた。学園の未現体が関わってるとなれば、風紀委員会の仕事だ」

 学園の方にも報告しねぇとな、と呟く契の横で彩花の表情は暗い。自分で出した結論を信じられないような、信じたくないような顔だ。

 それに気づいた契が、彩花の頭を叩いた。

「―ッた! 何するんですか!!」

「可能性であって確定じゃねぇっつってんだろうが。暗い顔してんじゃねぇよ」

 契はふん、と鼻を鳴らし、

「あいつらがこういうことするのには何か事情があるはずだ、とか言っとけ英雄志望」


          ♪♪♪


「ぐああ見失ったァ! あんだけカッコつけといてなんだこの様!!」

 光真は、澪にまたしても完全にまかれていた。何て言うか、あいつは人混みとかを利用するのが異常にうまい。人を拒絶しまくってるのに、そういうことにはちゃっかり長けている。俺、なぜか公園で独りぼっち。

 ていうか俺、嫌われすぎだし……。

 なんでだろう、やはり付きまとわれるのはウザったいのだろうか。そういえば光真自身、興味のない女子に付きまとわれ続けるのは少しばかりきつかった記憶がある。

 とはいえ、これだけ嫌われるのもきついな……。

 なんかもう、普通にへこんでいく光真。好かれていないのは分かっているが、ここまで露骨に態度で示されるとは。

 それでも今回は通り魔事件を解決するまで諦められないんだよなあ、と自分を納得させて澪を探し出す。開き直れ俺。

 はあ、と肩を落として光真は歩き出し、

 ―死にかけた。

 突然、真横から拳大の火の玉が光真の頭めがけて飛翔したのだ。火の玉は夜の墓場で浮いているぼやけたイメージではなく、火炎瓶を連想させるほどに明確な敵意を持って襲い掛かる。

「!?」

 咄嗟に腕で頭を庇い、一瞬で熱が両腕を包み込んだ。偽物でも幻でもない、本物の炎が光真の腕を燃やしていく。

「……ッ!!」

 人体を焼かれる痛みに悲鳴すら上げられず、悶絶した。

 皮膚が捲られ、肉を直接炙られるように頭の中に鋭い痛みが幾度も走る。脳みそをかき混ぜられているような不快感に吐き気すら催した。

 炎は腕から肩まで一気に燃え広がる。既に光真の両腕は炎を纏っているような状態だ。痛みの激しさのあまりか感覚も麻痺し、気を失いそうにすらなる。

 ふっ、と。光真の意識が途絶える直前。

 力強い誰かの手が彼の制服の襟首を掴み、放り投げた。



放られた光真の体は放物線を描いて宙を舞い、発火地点から離れた公園内の噴水に落下する。水位が浅いせいで全身を強く打ち、その痛みで途絶えかけた意識は一気に戻ってきた。

 すると今度は全身の痛みのせいで動くことができず、水面から顔を出せない。いくら水位が浅いと言っても倒れた体勢ならば全身が水の中だ。

 ヤバい、死ぬ……!!

 腕に炎が燃え移った瞬間、襟首を引っ張られた瞬間、着水で全身を打った瞬間。多くのタイミングで肺から空気を吐き出してしまった光真の限界は早かった。

 最早まともに抵抗するような思考すらできず、光真は沈んでいたが、

「おいおい、せっかく人が助けた人生を諦めてんじゃねぇよ」

 今度は制服の胸ぐらを掴まれて強引に引き上げられた。

 目だけを動かして相手の姿を観察すると……なんだこいつ。だらしなく着崩した見慣れない制服姿にツンツン金髪、体がデカいせいで威圧感が半端じゃない。

 ああ、彩花の先輩とか言って学校まで来てた人だな、と光真は納得した。確か契先輩とか言っていたはずだ。

 咳を繰り返して飲みこんだ水を吐き出し、ひとまず呼吸を整える。痛みは酷いが、もう動けない程ではない。

 近くのベンチまで移動して、倒れ込むように体重を預けた。

「……ありがとうございます。助かりました」

「気にすんな。偶然通りがかっただけだ」

 契はぶっきらぼうにそう言うと、光真から視線を外して睨むようにある方向眺めていた。それは火の玉が飛んできた方向だ。

「見た感じ、ありゃ未現体だな。Eランクの発火能力か」

 一人呟いて、契はその方向へ歩き出した。

「病院にはちゃんと行けよ。火傷、酷ぇだろ。あと、彩花が心配してたから連絡くらいはしとけ」

 ひらひらと背中越しに手を振り、契は走り出した。火の玉の犯人を捜しに行ったのだろう。

残された光真には、しばらく立ち上がる気力も湧きそうにない。

 彼には分かっている。今の攻撃は澪からのものに間違いないことが。

 忠告通りだ。付きまとえば光真が通り魔の標的にされるということだろう。まったく、一人目の被害者は気を失っただけなのに、二人目になった途端に両腕を燃やされるとは。容赦ないにも程がある。

 ずきずきと痛む両腕に、思わず歯を食い縛る。

 一体、澪はどうしてこんなことをするようになったのだろうか。果たして、どのような目的があればここまでのことができるのだろうか。

 どんな理由があっても、許されることではない。

「上等だ。絶対に俺がお前を止めて、自首させてやるからな……!」

 怖気つくどころか、痛む両拳を握り締めて、光真は強い決意を確認した。


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