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休む間もない物語 3

「あたしのことを通り魔だと思うなら、真藤にでも密告すればいいじゃない」

 前を歩く澪が、何の前触れもなく言葉を発した。

 場所は学校ではない。屋上での言い合いの後、二人とも学校からは離れている。今は適当に当てもなく街中を徘徊しているだけだ。

「そう思うなら自首しろよ」

 後ろを歩く光真は不愛想にそう返す。学校を出てからというもの、ずっとこの調子で付かず離れずの距離を保っているのだ。光真としては澪が新たな犯行を重ねないよう監視しているだけなのだが、傍から見るとストーカーにも見えてしまう。

 通り魔と、それを止めるためのストーカーならどちらの罪がより重いのか、などと下らないことを思わず真面目に考察してしまいそうになりながらも、

「どうせなら自首の方が罪は軽いだろ。それに、澪が通り魔なんかできるほどの力を持ったことには、俺にも責任がある。俺が止めないといけないんだよ、お前は」

「そう。下らない責任感、ご苦労様」

 普段は平淡な態度のくせに、こういうことだけは嫌味たっぷりに言いやがる。落ち着け光真、これで怒って帰ったりしたら澪の思うつぼだ。

「でも、あたしはまだ自首なんかしないわ。受験の日のことも今回のことも、全部終えるまではあたしがどうにかしないといけないの」

「全部ってどこまでだよ。まさか、いじめっ子全員襲うつもりか?」

「そう思うなら止めてみれば? あたしの見張りなんかしてる時点で不可能だと思うけど」

 超ムカつく。

「そもそも、あたしはあんたと友達になったような覚えはないの。同じ学校を受験したよしみとか、わけわからないことを理由に付きまとわないでくれる?」

「ついに攻撃の方向性が変わったぞ、おい」

「当然のことを言ったまでよ。あんた、クラスが一緒になった時からまとわりついてウザかったから」

 これ、未だに堪えてる俺はかなりの忍耐力だよな?

「お前さ、ウザいとか言わなくても、もうちょっと言い方とか―」

「ウザいよ」

 発した言葉は、澪が被せてきた断定に潰された。

「今まであたしのことなんか知りもしなかったくせに、同じクラスになった途端に何なの? いじめられててかわいそうだから仲良くしてやるって、あんた何様なのよ。そんなのただあたしに偽善を押し付けてるだけじゃない」

 立ち止まり、振り返って、澪は冷たい視線で光真を見据えた。今までのような嫌味で人をムカつかせる雰囲気じゃない。この目は本気だ。

「あんたは自分の偽善心満たせて満足かもしれないけど、あたしにとってはただの迷惑なのよ」

 違う。

 そうじゃない。

 俺はずっと知ってたよ、ずっと近くに行きたかったよ。

 それでも、どうしても傍に行くことはできなかったから、俺は……

「……―」

 開いた口から音を発することはなく、光真は俯いた。ここから先は澪に伝えても意味がない。すべて自分の身勝手な行動だ。ここで口を閉じないなら、光真はそれこそ偽善者になってしまう。

 だから、この気持ちは呑み込んで。

 彼は無理をしてでも笑って見せた。

「そっか。それは悪いことしたな」

 自分は今ちゃんと笑えているだろうかと、不安になる。

「じゃあ、そういうのはもうやめる。でも、今回の通り魔のことは別だ。下らない責任感かもしれないけど、お前は俺が止めるから」

 言い切って、光真はそっぽを向いた。どうせ澪から返ってくる言葉はないだろう。せめて今の宣言が彼女を怒らせなかったことを祈るばかりだ。

「……本当は知ってる」

「……え?」

 呟かれた澪の一言は小さく、光真の耳には届かなかった。聞き返したものの、それに応えてくれる様子はない。

「なんでもない」

 ただ素っ気なくそう言って、そこからまた雰囲気を変えて続ける。

「これは忠告。あんたの責任感がどれほどかは知らないけど、あたしの近くにいるのは本当にやめた方がいいわよ。そうしないと、きっとあんたが襲われることになる」

「上等だ。ウザいとか言うくらいならそれくらいやってみせろよ」

 強がりではなく、本心として光真はそう返しておいた。

「前と同じように言ってやろうか? 澪―俺はお前の力になりたいんだよ」

「……いつの話よ、それは」

 眉をひそめ、澪はもう何も言わずにさっさと歩きだした。


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