補助スキルが無いなんて
兄さんの友達を待つ間に兄さんをフレンドリストとか言うものに追加させられた。
どうやらお互いにログインしている間なら位置が分かってしまう上に通信をすぐに飛ばせるようになってしまうらしい。
頼りにはなるけど、出来ればそんな状態にはしたくなかったなぁとため息。
「お、来た来た、おーい」
どうやら兄さんのネトゲ仲間とか言う人がやってきたみたいだ。
向こうから獣っぽい見た目の人が一人とたぶんエルフだろう人が一人歩いてきた。
「お、ファングさんこんなところにいたんですねー。やっとPFOで合流できましたね」
「ファングの兄貴! ご無沙汰です!」
ふぁ、ふぁんぐ? 兄さんが呼ばれている名前が気になって兄さんのほうを見ると下のほうにプレイヤーネームが表示されている。
ファング、と確かに書いてある。
どうして今まで気づかなかったのかも分からないが、足元に名前が表示されるようだ。
ついでに今まで気にしなかったのだが兄さんのアバターはどうみても身長はちょっと伸ばしてあるし、髪の毛は銀、目は赤なんてどう見ても中二病って言うものにしか思えないアバターだった。
たぶん種族は獣人。だって尻尾がついてるし。
「オドに楓丸、よく来てくれたなー。FOのときと見た目が変わらなくて安心したよ」
オドと呼ばれたのが獣人のほうで、楓丸というのがエルフのほうらしい。二人とも男で見るからにアバター調整してるなーって感じの見た目だ。
「それはファングの兄貴もでしょ! 安定の獣人にその大剣! FOのトッププレイヤーだった兄貴とは思えない初期装備もまたいいっすよ!」
……あきれた、前の作品だったらトッププレイヤーだったんだ。
どうりで寝る時間を惜しんでやってたわけだ。
「ところでファングさん、その横の……結衣さんってどちらさまですか?まさかどこかでナンパしてきたとかいうノリじゃないですよね?」
楓丸と呼ばれたエルフがこっちを見てきた。
当然びっくりするとは思う。兄さんは私の事言ってないだろうし。
「聞いて驚くな二人とも、これが我が妹、結衣だ」
「「はぁっ!?」」
驚くなといわれて盛大に驚く二人もなかなか残念な性格な気がする。流石は兄さんの友達・・・。
「兄貴、妹がいるって自慢してたの本当だったんっすね……。初めまして、俺はファング兄貴の弟子のオドっす!」
妹がいることを自慢ってどういう意味なんだろう。
「ファングさんにこんなにかわいい妹さんがいるなんてびっくりしました。僕は楓丸って言います」
「初めまして。この人の妹の結衣です。いつも兄さんがお世話になっているみたいで」
出来ればかかわりたくない気もするけどとりあえず挨拶をしておいた。
「いやいや、お世話になってるのはこっちのほうっすよ!」
「ファングさんの妹かぁ、なんだか不思議だなぁ」
そんな二人の挨拶を見た後で兄さんは
「分かってると思うが、俺の妹に手を出したらコロス」
なんて意味の分からないことを言っていた。
「大丈夫ですけど、このゲーム、アバターは顔いじれないからリアル可愛い妹じゃないですか……。こんなゲームさせて大丈夫なんですか?」
「心配ない、俺が全力でサポートするからな」
どうやらそんな考えでいたらしい。
サポートしてほしいけど、ずっと兄さんと一緒は正直嫌だ。
「兄さん、サポートしてもらえるのはうれしいけど、一人でも大丈夫だから」
軽く突き放してみたが、余計に決意を固めたようでなにやらうめき声を上げながら
「いや、そんなよく分からない職業になったんだからサポートはする、約束だ。兄さんが保障する!」
とかまた意味の分からない宣言をしていた。
もう高校生なんだから多少は好きにしたいのに。
「あれ、なんですか? 換装師って」
兄さんことファングのよく分からない職業に反応した楓丸が疑問を飛ばしてきた。
「ああ、話せば長いんだが、これこれこういう事情でだな……」
「え!? じゃぁ補助スキルも生産系スキルも何一つないんっすか!? そんな状態で戦うほうが無理っすよ!」
「僕もそう思います……。でも補助スキル取りに行っても70%だからなぁ……。例の無い職業だけに戦い方も考えなくちゃ」
私をおいてどんどん話は進んでいっている。
このまま行くといきなりどこかへ連れて行かれて戦わされそうな気がする。
もうちょっと見物もしたいと思っているのに……。
「そういえば、職業の固有スキルはなんなんですか?」
「えーと、【換装】かな……」
職業ごとに固有スキルが存在するみたいだ。
すぐにさっきのファングの話から【換装】が固有スキルだろうと答えてみた。
「それはアクティブスキルだから、パッシブスキルのほうは?なんて書いてあるんですか?」
パッシブスキルが何か分からなかったけど、職業の説明のところに書いてあるこれかな、と思って読み上げてみる。
「えーと、【ウェポンマスタリー】全ての武器の攻撃力を1.2倍。ウィークポイントを攻撃時にダメージ+1.2倍。全ての武器装備、攻撃ダメージ依存ステータスをDEXに固定。って書いてあります」
「……強いのか、それ?」
「……偏ってないから分からないですけど、ほかの職業のものには劣りますよね」
うん、なんだか凄く馬鹿にされてる気がしてきた。
「でも武器の依存ステータスがDEXに固定されるって面白いな。召喚魔法も使うんだし、ステータス振りはDEXとINTに決定か……」
ステータスというのがよく分からない結衣は話についていけていない。
「兄さん、ステータス振りって何?」
「ん? ああ、PFOはキャラクターの能力値を五つに分けていてな、STR、DEX、INT、LUK、VITの五つをレベルアップ時にもらえるポイントを自由に振り分けて能力を伸ばすんだ」
なんとなくそれらがなんという英語の頭かが分かったので大体なんの能力を示すかは予想がついた。
「それにしてもDEXとINTに振るって……。打たれ弱いし、攻撃も低いし、装備も何つけたらいいかわかんないっすね」
「装備はたぶん遊撃手とか魔法使いに近い装備になるだろうなー。初めて聞く振り方だよ。全く」
マニアックな人たちの会話にはやっぱりついていけない。
とりあえず自分の選んだ職業が不遇であることしか分からなかった。
「とりあえず、私今からどうしたら良いですか?何にも分からないんですけど……」
「まずは補助のサブスキル取ろう。うん、どう考えても【見切り】は70%でもいるスキルだし、スタミナの減りを抑える【生存】も必須だな。後も色々あるだろうけど、とりあえず取りに行こう」
なんだかこれから大変そうだな、ってため息をついてたらお知らせが来た。
『ファングからパーティ招待されています。参加しますか?』
ためらい無くyesを選択する。
するとファング、楓丸、オドの三人の頭にレベルと職業、HPゲージと思われるものが表示された。
見たところファングはレベル8の《スピアナイト》で、オドがレベル5の《ウォーリアー》、楓丸もレベル5で《サムライ》である。
当然ながら私はレベル1の《換装師》だ。装備もほかの三人がちゃんとした防具を着ているのに対して私だけがごく普通の絹の服だった。
「さて、まずは【見切り】から取りに行くかな。とりあえず先にこれ渡しとくからもっといてくれ」
手渡されたHP回復ポーションを受け取ろうとするとなぜか受け取れない。
『持ち物がいっぱいです』
そんなお知らせが来ていた。
「……まさかとは思うが、あの大量の装備やらで持ち物いっぱいなのか? ほかに何があるか確認してくれ……」
「えーと、さっきの召喚用アイテム袋に、後は《ナイフ》《カタナ》《ハルバード》《バスタードソード》《三節棍》《仕込み杖》《ライトボウガン》くらいかなぁ……」
武器を読み上げていくたびに周りの顔が青くなっていく。
「何で武器そんなに持ってんだ……。召喚用アイテム袋は中のアイテムの数分の個数になるから最初の持ち物上限の十五になってるのか……」
「それにしてもそんなに武器しかないってどういう職業なんですか……。レベル5まではショップも倉庫も使えないから最初のクエストでもらえる回復ポーションも受け取れない鬼畜仕様なんて……」
「しかも体力とか防御補正のかかったスキルない上に初期装備がそれじゃあ、最初の敵も倒すのが大変っすよ……」
みんなの反応はこんなの普通は詰み職だろう、だ。
やっぱり、この職業は不遇らしい。
これだけ武器がたくさんあるんだから困ることは無いと思うんだけどなー、と結衣は楽観的だった。
結衣さんが今の段階で一番弱いモンスターから受けるダメージは25程度で、初期HPは100だと考えてください。
これを回復アイテムなしでレベル5まで。
私なら絶対にやめます((