プロローグ:《パンドラ・フォース・オンライン》
十万人限定の新作VRMMORPG、《パンドラ・フォース・オンライン》略してPFO。
元々は《フォース・オンライン》というVRMMORPGが存在していたのだが、そのプレイヤーの中から抽選で選ばれた人だけがプレイできるというとても特別なゲームらしい。
当然高校一年生になったばかりで、中学時代部活一筋だった私、二ノ宮結衣はなんの興味も無かったし、《フォース・オンライン》のプレイヤーであった兄から話に聞いていた程度だった。
「で、兄さん、どうしてもう一つそのVRMMORPGをするためのハードを買ってきたの?」
六月七日、私が帰ってくると兄である二ノ宮瞬輔はなぜか専用のハードを手にリビングに座っていた。
「分かりやすく言おう。妹よ、君にこれを進呈しよう。その代わりに《パンドラ・フォース・オンライン》に兄と共に参加してくれ」
そうしてそんなふざけた態度でふざけた事を言い出したのでとりあえず一発殴っておいた。
「兄さん、質問をします。一つ目、前にそのパンドラなんとかって言うゲームは抽選であたらないとだめって言ってたのに私と共にとか言ってるんですか? 二つ目、なんでわざわざハードを買ってきてまで私を誘うんですか? 三つ目、その気持ちの悪いしゃべり方は何ですか?」
「・・・ゴメンナサイ。ちゃんと説明いたします。まず《パンドラ・フォース・オンライン》略してPFOは確かに《フォース・オンライン》のプレイヤーから抽選で選ばれたプレイヤーしか出来ない。だが俺はIDを二つ所持していた。それが両方当選しただけだ。二つ目、やってくれそうな友達が誰もいないからだ。三つ目、気持ち悪くなんかない」
最後の言葉をドヤ顔でいい放った兄にもう一発殴ってやろうか、とも思ったのだがやめておいた。
「でも兄さん、私はゲームなんてしたことないし、私誘っても面白くないと思うよ?」
「いや、ゲームを知らないのならこの兄が教えよう。それに妹がいるという自慢をネトゲ仲間にだな……」
なんだか気持ちの悪い笑みを浮かべている兄さんは怖かった。
でもちょっとだけゲームに興味があったりするので拒絶はしようとは思わなかった。
夜遅くまで変な被り物をしてゲームする兄さんは楽しそうだったし、せっかくハードまで買ってきたんならやってみても良いかなーって思ったり。
高校では部活もそう大変じゃないし。中学のときのほうがよっぽど大変だったから今は時間に余裕があって暇もしてた。
「じゃぁとりあえず体験程度でやってみようかな…。あんまり時間は取れないだろうけど」
私がそう答えた瞬間に兄さんの目がライトくらいの輝きを放っている。
「本当か!? 結衣、本当に兄さんと一緒に《PFO》をやってくれるのか!?」
「やるから、とりあえず落ち着いて」
それから数分後、落ち着きを取り戻した兄と共に《PFO》をすることになった。
「さて、これが結衣のハードだ。既に当選した片方のIDと共に《PFO》をインストールしてある。起動して被るだけだ」
やけに準備が良くて引きそうになったけどとりあえず促されたとおりにすることにした。
「最初の街で俺は待ってるから、ゆっくりキャラ作りを楽しんでくれ」
その言葉を聞いた後、私は変な場所に立っていた。
『運よく当選されたプレイヤー様、《パンドラ・フォース・オンライン》へようこそ。こちらではまず始めにご自身のアバターを作成していただきます』
どこからか聞こえる声に当選したのは私じゃないけど、って突っ込もうか迷ったけどやめておいた。どうせ相手は機械だ。
アバターって言うのは兄さんから聞いたことがある。ゲーム内の自分の分身だったような。
一瞬の間のあと、目の前に選択肢が現れた。
『始めに種族を選択してください』
選択肢は五つだ。人間、エルフ、獣人、精霊種、ドワーフの中から選べば良いらしい。
一つ一つ見ていけば説明がされるみたいだけど、兄さんを待たすのも面倒だから気になった精霊種という種族を直感で選択することにした。
すると目の前に綺麗なスタイルの人型が現れた。
NOWLOADINGの表記の後、その人型が次第に私の姿に近いものへと変化した。
どうやら姿を読み取って、それに近い形のものにしてくれるようだ。
目の前の私のアバターは元の私より髪が綺麗で、綺麗な服を着ていることくらいしか違いが無い。
『続いて体型と髪、目の色を選択してください』
次の項目は体型をいじらせてくれるらしい。
でもあまり高くしたり、細くしたり、スタイルよくするのは美化させすぎたようでいやだし、かといって悪く設定するのも気分が良くないのでそのままにすることにした。
体型を初期設定のまま決定すると数字が現れた。
『身長:158cm B:……』
待って、身長はともかくスリーサイズの表示なんてしないで。
悲痛な叫びが届いたのか、どうやらこれを他プレイヤーに表示するかどうかの選択肢が現れたので何の迷いも無く非表示にしてやった。
どうせ体型は見たらわかるんだから数字にしないでほしい。これなら少しはいじればよかった、と後悔することになった。
続いて髪と目の色の設定になった。
今の段階は黒いが、どうせなら色を変えてみたい。
高校では染毛もカラコンも禁止されているのでやってみたいと思っていたのだ。
「どうせなら絶対出来ない色にしてやる」
豊富な色合いがあったが、結局髪の色はブロンドみたいな色に、目の色は緑色で落ち着いた。
『髪型はゲーム中に自由に変更できるのでここでは設定しません。また髪の長さはゲーム内時間に応じて変動します』
大体のアバター作成が済んだところでなにやらリアルなお知らせが来た。
どこまでリアルを追求してるんだろう、このゲーム。
アバターの設定が終わると次はプレイヤーネームを入れるように要求された。
なんて名前にすれば良いのか全く見当もつかなかったから、とりあえず本名のまま『結衣』としておいた。これなら兄さんも見つけやすいはず。
そしてとうとう理解の出来ない分野の設定が来てしまった。
『メインとして使用するスキルを五個選択してください。スキルはサブスキルとして後で習得することが出来ます。ただしサブスキルはメインスキルの70%の能力しかありません。メインスキル決定後にその選択したスキルに応じた職業を判定します。ここで判定したクラスはサブスキルなどの習得によって変更したりすることは出来ませんのでご了承ください』
ゲームをしたこと無い私には理解できない言葉がたくさん並んできていた。
「ど、どうしよう……。兄さんにもっと話を詳しく聞いとくべきだった……」
後悔するがもう遅い。途中でやめることは出来なさそうだ。
表示されているスキルは軽く80種類くらいありそうだけど、この中から5個を選ばないとだめなのかと思うと少し嫌になってきた。
「うーん、色々あるなぁ……【剣・刀使用】に、【槍・斧使用】、【杖・棍棒使用】、【弓用・銃使用】、これが武器を扱うのにいるスキルなのかな……?」
そう思ってカーソルを合わせてみるとそのスキルの説明が表示された
『剣・刀使用スキル:剣や刀を使ってダメージを与えることが出来るスキル』
どうやら武器でダメージを与えるにはこういうスキルが必要らしい。
となると必須のスキルっぽいなぁ。
そのほかには魔法使用スキルがあって、八系統の中から自由に組み合わせることが出来るみたいだ。
それ以外の魔法だと【時空操作魔法】とか、【召喚魔法】っていうのが気になる。
「召喚魔法……どんなのだろう」
気になってカーソルを合わせてみる
『召喚魔法使用スキル:手元に無いものを手元に呼び寄せる魔法を使用できるスキル。熟練度が上がれば召喚獣を呼ぶことが出来る』
どうやら魔法はスキルを取っていないと使用も出来ないみたいだ。
それにしても手元に無いものを呼び寄せるって、素敵な気がする。
「とりあえずこれ取っちゃおうっと」
一つ目の選択を【召喚魔法】にする。
一つ目が決まったのでほかも見てみたけど、それ以外は【錬金術】だったりとか、【鍛冶】とか、後は気配を消すって言う【隠密】スキルとか、致命傷を与えやすくなるって言う【見切り】スキルとか、後は泳ぎをうまくする【水泳】スキルとか、どうでもよさそうな気がする。
当然【隠密】や【見切り】など戦闘に関するスキルや生産系のスキルは職業を判定する際に重要な要素であるし、接近戦などをするには必須のスキルでもあるのだが、これらをいらない、と判断してしまったことが結衣の最大のミスだった。
「うーん、じゃぁ便利なように武器の使用スキル全部取っちゃおう!」
もしもこの場に前作をプレイしたプレイヤーがいれば全力で止めたかもしれない。
一番効率がいいスキル選びというのはメインの武器スキルを取った後に魔法を選んだり、戦闘関与系を三つとって生産系のスキルを一つ取るのが一番効率がいい。
前作にもほとんど同じシステムがあったので補助スキルをメインスキルとして何一つ選ばないという選択は絶対にする人はいないだろう。なぜなら本来は《PFO》は前作をプレイしていないとプレイできないゲームになっていたはずだからだ。
そんなことも知らない結衣は五つのスキルを得た後で決定を押してしまった。
『プレイヤー情報を確定しています…………確定完了しました。表示します』
お知らせの後に結衣のキャラクターステータスが表示される。
プレイヤーネーム:結衣
性別:女
種族:精霊種
職業:換装師
メインスキル:【召喚魔法使用】【剣・刀使用】【槍・斧使用】【杖・棍棒使用】【弓・銃使用】
どうやら職業は換装師という職業になったみたいだ。
ちょっと名前はセンスがないように思うけど、どんな職業なのか兄さんに聞いてみよう。
改めて確認を押すと、『プレイヤー登録完了!』という表記が出て、一瞬暗転したかと思うと私はさっき作成したアバターどおりの姿に変わっていた。
「うわー!髪と目の色が変わってる!」
あんまり何も変えなかったのでそれくらいの変化だったけど十分うれしい変化だ。
『《パンドラ・フォース・オンライン》へようこそ!』
その表記が出た次の瞬間、私は街の中心に立っていた。
特にオンライン世界に幽閉されたり、デスゲーム化しないただのオンラインゲームものになります。
こちらはコメディっぽく書いていけたらなぁ・・・と思ってがんばります。