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第九話 瑠璃「これでも幸せに生きてます」

長い・・・!


亀更新のうえにこの長さは・・・

いつもの倍の文字量。

そして後半はシリアスです


パァンッ!!


教室中に快音が響く。

・・・この野郎・・・!

今の音が何かって?

・・・決まってる。目の前で爆睡しやがっているバスケ馬鹿・・・つまり鴎星をひっぱたいた音だ。

・・・というか

「あはは~。全然起きないねー」

そう、こいつ起きる気配がない。

ちなみに、今声を発したのはオレの横にいる女子生徒だ。

遠目から見てもサラサラだと分かるショートヘアーの女子。

光阪ひかりさか詩乃しの

彼女とは1年生の頃からの付き合いだ。

普段、つまり遊戯部以外での生活の時は、オレ、鴎星、詩乃、の3人で行動している場合が多い。

・・・彼女も、オレの親友だ。

・・・あ、一応言っておくが、もちろん2人以外にも友達居るからな。

まあ、そいつ等に関してはな、いつか登場した時に説明しよう。

そんなことよりも、だ。

「こいつどうやって起こそうか・・・」

オレは頭を抱える。

オレがなぜ、コイツごときを起こすため悩んでいるかって?

・・・実は、コイツ、部長さんに仕事頼まれててなぁ。

コイツが説教されるのは別にどうでもいいが、オレに飛び火しそうでな・・・。

まあ、そんな訳で早くコイツをどうにかせねば。

「ねえ、統輝」

オレが、鴎星を起こす方法を、あーでも無い、こーでも無い、と試行錯誤していると、詩乃がオレを呼ぶ。

「・・・なんだ?詩乃」

オレが聞き返すと彼女は提案する。

「『あれ』使ったらどうかなー?」

『あれ』?

・・・ああ、成る程な。

確かに良い案だ。

・・・ま、あんまり使いたくなかったんだが。仕方ない。

オレはポケットの中から、綺麗に折り畳まれた一枚の紙を取り出す。

それを広げ、その紙に書かれた文章を読み上げる。



「『1年3組 もりや おうせい。 僕は、大きくなったら、大好きなお姉ちゃんと結婚したいでーーー』」



「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!やめろおおおぉぉぉぉぉ!!」


オレが読み始めた直後、鴎星がものすごい勢いで飛び起き、オレの手から紙を奪い取る。

「なんで、お前はこんなモン持ってるんだ!」

「・・・ああ。お前の姉さんに貰ったよ・・・ま、これはコピーだが」

「あんの、クソ姉貴ぃ・・・!」

「おいおい、『大好きなお姉ちゃん』にそんな事言っちゃダメだろww」

「笑ってんじゃねえよ・・・!」

ちなみに、横で詩乃もだいぶ笑っている。

・・・笑うなって言う方がムリな話だろ、コレw

ちなみに、鴎星の姉は、・・・うん、いろいろとすごい。

「鴎星。仕事頼まれてるんだから、速く行ったら?」

詩乃が、笑いをかみ殺しながらそう言う。

「・・・詩乃も読んだのか」

「・・・うん。面白かったよー」

鴎星はため息をついてから、「じゃあ行くわ・・・」と言って外に出ていく。

その後ろ姿は、どことなく哀愁が漂っていたww

ーーーさて。

「んじゃ、オレも行くわ」

「うん。また明日ー」

詩乃はそう言って微笑む。

オレはひらひらと手を振りながら教室を後にした。

・・・ん?オレがどこに行くのか?

すぐに分かるさ。

階段を駆け足で降りていくと、その途中で、見慣れた顔が2つ。

影乃とかざりだ。

「よ!ちょうど良かった。一緒に行こうぜ」

オレは足を止め、2人にそう言った。

2人はそれに頷く。

3人で、階段を降りながらしばらくすると、目的の階にたどり着く。

そこから、しばらく歩くと、オレ達の用がある場所に到着だ。

『小説研究部』

・・・今日は、この前の『鬼』ごっこの時の約束を果たしにきたのだ。

オレが部室のドアをノックすると、中から「はーい」という声がして、次の瞬間、そのドアが音を立てて開きーーー

「かげのちゃーーーーーーーん♡♡♡♡」

中から、ものすごい勢いで飛び出してきた瑠璃先輩が、影乃に抱きつく。

そして、影乃がいつものように悲鳴を上げる。

「ひゃああああぁぁぁぁ!って、あっ・・・。・・・へ、変なトコ触らないでください!」

そんな言葉など意に介さずに、瑠璃先輩が鼻息荒く詰め寄る。

「・・・いつも思うんだが、かざり。お前はそういう写真をどうするつもりなんだ」

オレは隣で、そんな2人を撮っているかざりに問う。

「売ります★」

「誰にだっ!!?」

「・・・秘密です♪」

・・・コイツ、まさかオレと鴎星のツーショット写真とか売ってたりしないだろうな?

「あ、ソレはないです。私は女の子しか売りませんから」

「心を読むな!・・・というか、ソレはソレで問題だからな・・・」

「大丈夫ですよ。一応、健全なものしか売りませんから」

と、そんなやり取りをしていると、いつもの笑顔で、姫が部室の中から出てくる。

「瑠璃先輩。お茶の用意出来ましたよ」

姫がそう言うと、瑠璃先輩はピタリと動きを止める。

「・・・そうですか。ありがとうございます、姫ちゃん」

そして、瑠璃先輩はそのまま部室に入る。

それを見た後、姫は、オレ達の方を振り向き、柔らかな微笑みを浮かべる。

「どうぞ、中へお入りください」

オレ達は言われるがままに部室に入っていく。

・・・なお、その直前に、影乃がものすごい勢いで姫に礼を言っていた。

中に入ると、ほのかに紅茶と菓子の甘いの薫りが漂っている。

・・・この前来たときとは違い、かなり部屋が掃除されている。

・・・いや、言い方が悪かったな。

別に前来たときもそこまで散らかってなかったが、今回はスッゴい綺麗なんだよ。

オレの考えてることを察したらしく、姫が少し苦笑して言う。

「この前は小研の活動のちょっとした山場だったので・・・ものすごく汚かったでしょう?」

「いや、前もそこそこに綺麗だったぞ?」

オレがそう言うと、瑠璃先輩が口を挟む。

「姫ちゃんはけっこう綺麗好きですから、基本的にこれくらい清潔に保ってくれるんですよ。・・・あ、一応言っておきますけど、姫ちゃんは潔癖症じゃないですからね」

オレたちが少し尊敬の意も含まれた納得の仕方をすると、姫が少し恥ずかしそうに言う。

「・・・わ、私だけの力ではないですよ。瑠璃先輩もなかなか綺麗好きで、コマメに掃除されてますから」

・・・ああ、そうそう。

余談だが、瑠璃先輩、部長さん、センパイの3人はそこそこに綺麗好きで、マメだ。

恭夜センパイは・・・まあ普通だな。

「いや、そんな謙遜しなくていいんですよ?」

瑠璃先輩がそう言うと、少し諦めたように姫が頷いた。

「・・・このお菓子って」

かざりがポツリと呟く。

様々な種類の菓子の中、いくつかの物は少し覚えのある香りがする。

「・・・ああ、料理部の・・・」

また作りすぎたのか・・・あの人。

「ちなみに、それ以外は姫ちゃんの手作りですよ」

「マジっすか!」

オレは声に出して驚く。

・・・いや、後輩達も間抜けな声を出している。

それもそのはず、机に並べられた菓子は、どこか高級店で買ったのかと思ってしまうような物だ。

・・・というか実際思っていた。

うん、姫はお嬢様って聞いてたから、張り切って持ってきてくれたんだと思ってたさ。

というか、すげーよ。

料理部の部長、顔負けだよ。

存在してるだけで高級感が溢れてるよ。ロイヤルだよ。

「すいません。下手かもしれませんが・・・」

と、姫はそんなことを言い出した。

「い、いやいや!すっげぇ旨そうだって!マジで!」

オレがそう言うと、後輩達もコクコクと素早く頷く。

それを見た姫は、優しく微笑み、オレ達に礼を言った。

と、そんなやり取りをしていると、部室の中に誰かが入ってくる。

オレが振り向くと、見慣れない1年の女子。

「あ・・・文深さん」

影乃がそう漏らす。

・・・ああ、彼女がこの前言ってた。

「取りあえず、みんな座ってください」

瑠璃先輩がそう言うと、オレ達はその言葉に素直に従うのであった。


**********


「さて。取りあえず自己紹介しましょう」

オレ達3人と小研3人が、向かい合う形で席に着くと、瑠璃先輩がそう言う。

全員がそれに頷くと、「まず私から」と言って瑠璃先輩が喋り出す。

「えーっと。・・・まぁ、私の事は全員知ってますよね。はい、相楽瑠璃です。小研の部長をやっていて、遊戯部の3年生たちとは・・・まぁ、親友です」

そう言って、彼女ははにかむ。

「そうですね。あとは・・・・・・・・・かげのちゃんの愛人です(ポッ」

「頬を赤らめないでください!あと、愛人を作った覚えはありません!」

かざりが影乃をなだめる。

・・・そういえば、センパイ達や姫達は、この人がレズだと知っていたのだろうか?

「・・・・・・まぁ、知ってましたよ。チサちゃんもユキちゃんも恭夜君も、それに姫ちゃんと文深ちゃんも」

「あなたも心を読まないでください!」

・・・へぇ、知ってたのか。

「まぁ、どんな性癖であれ、瑠璃先輩は最高の先輩ですよ」

姫はいつもの笑顔でそう言う。

それに対して隣の文深も頷く。

そんな2人に、瑠璃先輩は恥ずかしそうに目を泳がせていた。

・・・なんというか、少し微笑ましい。

「・・・もう、次、姫ちゃんいってください」

まだ少し恥ずかしそうにしつつも、そう言う。

それに姫は、やはり笑顔で返事をして、自己紹介を始める。

「白百合姫です。この部に入った理由は、瑠璃先輩の作品に惚れたからです」

姫のそんな言葉に、瑠璃先輩は文句を言う。

「ちょっと、姫ちゃん!恥ずかしいからやめてください!」

姫は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、それを無視する。

・・・ちなみに、瑠璃先輩。

実はけっこう凄い人らしく、彼女が書く文章はプロ顔負けだとか。

「それと、ですね・・・趣味は料理です。特技は、うーん・・・特にありません」

いや、この料理の腕だったら十分に特技に入るぞ!

「いやこの料理の腕だったら十分に特技に入りますよ」

オレが思っていた事と全く同じことを瑠璃先輩は言う。

やはり、姫は謙遜する。

「それでは、次は文深さんの番ですよ」

そして、姫がそう言うと、彼女が口を開く。

「言野文深です!・・・まぁ、影乃はあたしの事よく知ってるんやけどね」

・・・ああ、関西人か。

「えーっと。まぁ、聞いての通り、関西人です。この部に入った理由は、姫ちゃん先輩と一緒です。それで、特技は・・・」

「一発芸」

瑠璃先輩がそう言葉を発すると、文深の動きがピタッと止まり、代わりに影乃と姫が慌て出す。

いまいち状況を飲み込めず、オレとかざりは首を傾げる。

そして、文深が口を開く。

「・・・関西人が・・・」

そう言うと一拍間を空けてから叫んだ。

「関西人が全員おもろいとおもうなよおおおおぉぉぉぉぉ!!」

あまりの剣幕に、オレとかざりは背筋をピンと伸ばす。

「お前ら、なんや!関西人ってだけでなんで笑いに関するハードル上げんなや!関西は芸人の国とちゃうから!普通のヤツもいっぱいおるから!!みんながみんなネタを持ってるわけちゃうから!!」

まさに魂の叫び!

・・・まぁ確かに言う通りだ。

関西人と聞けば無意識の内にハードルを高くするし、関西は芸人の国じゃない。

なるほど、姫と影乃が慌てた理由はコレか・・・

・・・キャラが変わっちまうのか。

「だいたい、なんでいつもオチは・・・」

未だものすごい勢いで喋っている文深を、姫と影乃が必死で宥めていた。


**********


「お恥ずかしい所をお見せしました・・・」

落ち着きを取り戻した文深が、顔を赤くしながら俯いた。

オレはそれに苦笑しつつも自己紹介を始める。

「あー。三沢統輝だ。趣味は無いな。特技も・・・・・・別に無いな」


「・・・それと、鴎星君の愛人、と」


「違いますから!!」

ホントに違うからな!!


*********


・・・まぁそんな感じでグダグダと自己紹介も終わり・・・

え?影乃とかざりの自己紹介?

・・・めんどくさいからカットで。

ん?オレの自己紹介よりあの2人の方が見たかった?

・・・作者に言ってくれ。

と、まあ終わったわけで、今は普通に談笑している。

「・・・うっまーーーーーーい!!」

・・・うんゴメン。

つい叫んでしまうくらい旨かった。

「ほわぁ~♡」

うおっ!!

影乃がものっすごい幸せオーラを発してる!!

「おいしい♪♪♪♪♪♪♪」

・・・かざりもかっ!!

というか『♪』付けすぎだろ!

「ん~♡おいし~」

瑠璃先輩や文深も同様だ。

オレはその横で微笑んでいる、姫と目が合う。

「うふふ。喜んで頂けて嬉しいです」

「マジで旨いよ」

オレがそう言うと、少し頬を赤らめてはにかむ。

・・・改めて見ると、マジでかわいいよなぁ。

「あ、あの。そんなに見つめられると、その・・・恥ずかしいです」

「あ、わ、悪い!」

「い、いえ。統輝さんだったら別に嫌じゃありませんから!」

うわー。ミスった。コレはデリカシーに欠ける。

オレは、そんなやり取りを、ニヤニヤと見つめている瑠璃先輩に気付く。

「・・・なんですか。瑠璃先輩」

彼女はやはりニヤつきながら言う。

「・・・いやいや、別に何もありませんよ?」

・・・何かあるのは分かりきっているんだが・・・それが何かは解らんな。

瑠璃先輩が、姫に向かって「頑張ってくださいよ?」と言っていたが、やはり意味は分からない。

・・・まぁ気にしないでおくか。

オレはそう結論付けるのと同時に、チラッと後輩達の方を見る。

・・・かざりも上手くやってんな。

ちゃんと一年生3人で仲良くやっているようだ。

・・・まぁ、さっきから姫も瑠璃先輩も気にしてくれてるしな。

安心してオレも楽しんでおくか。



**********


「それでは、今日はありがとうございました」

日も傾いて来たので、お茶会もお開きとなった。

部室の前で、いつもの笑みを浮かべ、姫がそう言う。

「楽しかったよ」

「・・・それとお菓子も美味しかったです♪」

オレ達がそう答えると、彼女はやはり微笑んで礼を言う。

「それじゃ、またな!」

オレがそう言って手を振り歩き始める。

それに続いて、後輩達ももう一度礼を言ってから、歩き出す。

そして、オレ達は、会話を交わしながら、階段を下り、さらにしばらく歩いたところで、声を掛けられる。

「あのっっっ!」

オレ達が声の主の方に、同時に振り向くと、そこの居たのは・・・

「姫?」

彼女だった。

「どうした?何か忘れ物でもしてたか?」

オレがそう問うと、彼女は首を振る。

「・・・いえ、違います」

「?じゃあ、なんだ?」

オレがそう答えると、姫は迷ったような顔をする。

「・・・その。皆さんに伝えて起きたいことが・・・あるんです」

オレは、ソレは何だ、と問う。

「・・・それは、その・・・」

妙に歯切れが悪い。

何を迷っているのだろうか?

後輩達も少し訝しんでいる。

「その・・・「言っても良いですよ」・・・え?」

姫が口ごもっていると、何処からか、もう1人の声。

この声は・・・

「瑠璃・・・先輩・・・」

瑠璃先輩。

彼女が少し困ったような顔で歩いてくる。

「全く・・・ちゃんと迷わないくらいに覚悟決めてからにしてくださいよ」

そんな、瑠璃先輩に、姫が口を開く。

「気付いて・・・いたんですね」

姫は顔をしかめる。

「当たり前です。私はあなたの先輩ですから」

「・・・理由になってませんよ」

そんなやり取りをするも、2人はどこか余所余所しい。

すると、瑠璃先輩は、オレ達に向かって口を開く。



「・・・実は私。物語を書けなくなってしまったんです」



彼女はそう言って、困ったような笑みを浮かべる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

「・・・どういうこと、ですか?」

その言葉の意味が分からず、オレは聞き返す。

姫は目を伏せていた。

「・・・今から説明します。取りあえず、そのベンチに座ってください」



**********


「私は、高校に入った頃、天才と呼ばれていました」

オレ達がベンチに座り、暫くすると、瑠璃先輩がそう始めた。

・・・知っている。

彼女は、当時から才能を認められ。様々な賞を受賞していた。

彼女の書く物語は、時に優しく。時に哀しく。時に可笑しく。

悲劇も喜劇も完璧に書き分けることが出来た。

そして、彼女の書く文章は、緻密で綺麗で鮮やかな、そんな文章だった。

高校では、学業も優秀。運動神経も良いらしく正に万能。

そして、友人にも恵まれ、充実した生活を送っていたらしい。

なお、遊戯部の先輩達とはこの頃からのつき合いだそうだ。

そんなこんなで、時は少し流れ、彼女が1年生の時の11月。

「彼氏が出来たんです。ある日突然呼び出されて告白されました」

容姿も淡麗な彼女は、告白を受けることじたいは珍しくは無かったそうだ。

だが、その日は、特別だった。

その人は、彼女がずっと好きだった人であったのだ。

「ずっとアピールしてたのに無反応でしたから、私のことに興味無いと思ってました」

瑠璃先輩はそう言って懐かしそうに笑う。

そして、彼女はその人と付き合うことになった。

それからも穏やかな時間が続く。

親友達と遊び、愛する人と触れ合う。

時には執筆で詰まってしまったら、彼氏が宥め、肩の力を抜かせ、支えていた。

そんな幸せな時間が続いた。・・・いつまでも続くと思っていた。

春になり、彼女達は2年生となる。

もちろん後輩だって出来る。

このとき、小研に入ったのが姫。・・・もちろん他に何人かも入部してはいるが。

姫は本当に瑠璃先輩に憧れていて、尊敬していた。

瑠璃先輩はそんな姫を可愛がる。

真面目で、熱心で、まさに最高の後輩だったそうだ。

そこからさらに時は流れる。

「・・・あれは、ちょうど私の誕生日だった。そして、私が応募した小説の、結果発表の前日・・・忘れもしない、9月21日」

その日は、彼氏とデートの約束をしていたそうだ。

待ち合わせは駅前。

少し早めについた彼女は、ガラスに映る自分の姿をチェックしながら待っていた。

暫くすると、交差点の向こうに、大好きな彼氏の姿。

彼女は満面の笑みで手を振った。

彼氏も笑顔で、手を振る。

彼氏は、信号が青変わると共に歩き始める。

ーーーその時だった。

「一瞬の出来事でした。トラックが交差点にノーブレーキで突っ込んできました。ーーーそして、彼は赤い血を流しながら私の目の前で・・・」

瑠璃先輩は一呼吸置いてから続けた。




「死にました」




場を重い沈黙が包む。

瑠璃先輩はさらに続けた。

「それで、彼が最後に言った言葉、何だと思います?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

誰も口を開かない。・・・いや、開けない。

瑠璃先輩は気にせずに続ける。

「このペンを出して『悪いな・・・なんかめんどくさい事になって。・・・コレ・・・誕生日おめでとう・・・大好きだぜ・・・』って」

瑠璃先輩は、1本のペンを取り出し、そう言った。

「ホント、なにクサいこと言ってるんでしょうね。・・・自分の死に際に他人の事考えてるなんて、・・・バカじゃないんですか?」

彼女は笑う。嘲笑わらう。わらう。

その痛ましさに、オレ達は顔を伏せる。

見ていられなかった。余りにも、哀しすぎて。

「コレを受け取った後のことは殆ど覚えてません。ただ、次に覚えていることは、・・・最悪な顔をしたまま、1本の電話にでたことです」

それは、応募した小説が、大賞を受賞したという報告だった。

・・・だが、彼女はそんなこと、どうでもよかった。

しかし、何故か急にその作品を読んでみたくなった。

コピーした原稿を取っておいたため、それを読み返す。

その作品は、彼女の作品の中では、群を抜いての良作であった。

ーーーはずだった。

『何ですか?コレ』

それが彼女の感想だった。

『こんなので私は感動していたんですか?』

『こんなのが絶望だと言っていたんですか?』

『何ですか?コレはッッッッッッッ!!!』

彼女は体感してしまった。

本当に、作られた物語のような絶望を。

『こんなの絶望じゃない!』

『陳腐な言葉で、陳腐な表現で理解できるわけがない!!』

「・・・私は書こうとしました。今の自分の絶望を。・・・だけど、書けなかった。どれもが陳腐で、軽くて、無意味で」

一拍間を開けて、瑠璃先輩は続ける。

「そして、私は気付いてしまった」



「ーーーああ。本当に伝えたい言葉は、存在しないのだと」



「・・・・・・・・・」

「それに気付いてしまった私は、何も書けなくなってしまった。軽い言葉など、無意味でしか無いから」

1つ溜め息をついてから続ける。

「ーーーコレが、私が物語を書けない理由です」

「・・・・・・・・・」

沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。

ただ時間だけが過ぎていく。

そんな中、影乃が口を開いた。

「・・・先輩は、今もまだ・・・」

その言葉を、瑠璃先輩は否定する。

「いいえ。私はちゃんと救われました。あなた達の先輩・・・つまり私の親友達と、姫ちゃんによって」

「・・・どういうことですか?」

「・・・まぁ、私もやっぱり、腐りました。・・・それもあってか周りの人たちからも、少し距離を開けられたんですよ」

でも、と言ってから、さらに続ける。

「今言った4人だけは、いつもと変わらずに私に接して来てくれました・・・まぁその甲斐あってか、今はこうして、普通に戻ってます」

次はオレが質問する。

「なんでソレほどのことがあったのにオレはその事を知らないんですか?普通噂くらいなら耳に入ってくるはずですよ」

瑠璃先輩は、ああ、と呟いた。

「なんでも、私の親友達が死ぬ気で頑張ったそうですよ。・・・新聞部達に協力を頼んだり、学園長にも噂が広まらないよう手を打ってもらったり。おかげで、この事は現在の3年生の一部と、小研のメンバーしか知らない事です」

・・・全く。あの先輩達は相変わらずスゴいな。

「私からも質問です。この前の鬼ごっこの時、先輩がパソコンに打ち込んでいたのはなんですか?」

「あれは私の作品の評価です」

それまで、口を閉じていた姫がそう言う。

かざりは納得したようだ。

オレはずっと気になっていたことを問う。

「結局、先輩は同性愛者っていうのは嘘ですか?」

オレが言うと、先輩は不適な笑みを浮かべこう言った。

「ふふふ・・・秘密です。まあ、影乃ちゃんが可愛いっていうのはホントですけどね」

そう言って、ベンチに座った影乃を後ろから抱きしめる。

「ちょっ!先輩!やめーーー」

いつもなら、そのまま抵抗するところを、影乃はそうしなかった。

代わりに、驚いたような、泣きそうな表情を浮かべる。

・・・いや、普段とは、先輩の行動も違う。

ただ、そっと影乃を抱きしめているだけだ。

ーーーその手は小さく震え、目を伏せている。

やがて、小さな嗚咽が聞こえてくる。

「ごめん・・・なさい・・・ぐすっ・・・・・・すぐ・・・泣き止みますから・・・」

その言葉を聞いた影乃は、先輩の震えた手に、自分の手をそっと重ねる。

「哀しいのなら・・・泣いてください。思いっきり、泣いてください。・・・ただし、次に顔を上げるときは・・・笑顔でいてください」

優しく、優しい声をかける。

「うん・・・ありがとう・・・影乃ちゃん」

先輩は隠さずに嗚咽を上げる。

その嗚咽は、哀しくて、けど、どこか優しかった。


鮮やかな夕焼けの中、手を重ねる2人は、どこか幻想的で、とても優しい光景だった。



**********


「すっかり、日も落ちましたね」

姫がいつもの微笑みでそう言う。

「だなぁ。まあ、帰ろうぜ」

オレがそう言うとみんな歩き始める。暫く歩いたところで、瑠璃先輩と影乃、かざりとは別れる。

「それじゃあ、また」

別れの挨拶を交わし、オレと姫は歩き始めた。

すると後ろから、瑠璃先輩がこんなことを言う。

「・・・ああ、統輝君。1つ言い忘れてました」

「何ですか?」

「鴎星×統輝本、あれは私が脚本ではなく、文深ちゃんが脚本を書いたものですよ」

ああ、そうか。

よく考えたら、瑠璃先輩は書けないからな。

「そうですね・・・こんど何かお仕置きしないといけませんね!」

オレは笑顔でそう返す。

「・・・そうですね!」

何故こんなことを話しているのかって?

・・・瑠璃先輩も、不安だったんだ。

あの人は天才だから。

だからこそ、自分の『才能』つまり小説を失った今、みんなが離れて行ってしまうのではないか、と。

・・・そんなこと気にする必要無いのにな。

みんな、あの人が大好きだから一緒にいるのに。

小説の才能なんてただのおまけにすらならないのに。

・・・長くなったな、つまり、『コレからも今まで通り接してくれますか?』っていう確認だよ。

もちろん答えはイエスだ。

オレはまた歩き出す。

先輩達も歩き出した。

オレは一瞬後ろを振り返る。




彼女と後輩達の後ろ姿は、月明かり照らされ、どこか幸せそうに見えたのだった。





はい!Setsuです!


今回は言いたいことが沢山ありますが、やはり一番言っておきたいことは、


関西人が全員面白いとおもうなよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!


部長さん「そこ一番どうでもいいから!!!」


はい、冗談です。真面目にします。

さて、取りあえず、またキャラ増えたね。

そろそろ多すぎるよね。

頑張って覚えて下さい。


つぎ!

ゆーぎぶ、初シリアス!

どうでした?

感想下さい。


さらに次!

なぜ、彼氏君はペンを誕生日プレゼントにしたのか!

オレは執筆中、瑠璃を支える事しか出来ない。

だけど、せめてコレを使ってもらうことで、瑠璃に少しでも貢献できたらいいな、と。

まぁそんな感じ。


さて、いかがでした?

シリアスってムズいね!

さっきも書きましたが、感想、アドバイス、お待ちしてます!


それではまた次回ーーー!!

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