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第二七話 詩乃「ごめんなさい。ホントごめんなさ……アッーーー!?」

詩乃が来る。詩乃が来る!


特に意味は無いけど言ってみただけです。はい。


「時には童心に帰ることも大切なんだよー」


「お、おう」

「ということで駄菓子屋だよ。駄菓子屋」

とある日の昼下がり、オレ・鴎星・詩乃の三人は昔ながらの駄菓子屋の前へとやってきていた。

……詩乃、なんかセンパイの思考に似てきたか?

「それはないぜ」

鴎星が即座に否定する。

が、しばらくして「……そうでもないかもな」と考えを改めた。

まあ人間、そういう時もあるよな。

「別に、久しぶりのまともな出番だから張り切っていこうなんておもってないからね」

「思ってるのか」

「うん」

「潔いな」


オレ達が店の前でぼーっと立っていると、どこからかやってきた小学校低学年位の少年が数名、元気に店の中へ突っ込んでいった。

「元気だねー」

詩乃が何故かほっこりした表情でそう言った。

「無邪気で可愛いよー」

オレも昔はあんなのだったのかねぇ。

……うん、あんな感じだったな。間違いなく。

「ていうか詩乃。よくこんな所に駄菓子屋があるって知ってたな」

オレが少し感心しながら呟くと、詩乃は、ふっふっふー、とよく分からん笑みを浮かべる。

「女子の情報網を舐めることなかれ!」

どや顔うぜぇ。

「まあ全然女子の情報網関係ないけどね」

「をい」

さて、そんなこんなで詩乃を先頭にして、駄菓子屋の中へと入っていく。

「うわー。いいね、こういうの」

詩乃がそう言いながらあちこちを見て、目を輝かせている。

……ん? もしかして。

「詩乃ってこういう所来たことない?」

詩乃が固まる。

図星かよ。

「いや、そのー、ね?」

ね? って言われてもな……

まあ、あれでお嬢様だからな。

子供の頃は来たことがなくて、いつか行ってみたいなあと思っていたらけっこう遠い場所だけど、ここに駄菓子屋があることを知って……

「思い切って来てみた、と」

「ザッツライトー」

詩乃は、てへっと笑い舌を少し出した。

俗に言う『てへぺろ』だ。そう、て へ ぺ ろ だ !


「あべしっ!」


てへぺろされた結果→予想以上に腹が立ったので一発いってもうた。


「女子高生の鳩尾に躊躇なく右ストレートをキメるとか……お前は鬼か」

鴎星が呆れた顔でこちらを見ていた。

……お前が一瞬右腕を振りかぶっていたのをオレは見逃していないぞ……!

「~♪」

鴎星は目をそらして口笛を吹き出した。

リアクションが古いな。

「古すぎるねー」

おっと、予想以上に詩乃の復活が速い。


「おやおや。大きいお客さんじゃね」


と、そんな所に、奥から声がかけられる。

オレ達が声の方向をみると、そこには優しそうな婆さんが。

おそらく店主だろう。

「お邪魔してまーす」

「ふぉふぉ、可愛らしいお嬢さんじゃね。アメちゃん要るかい?」

「ありがとうございます」

詩乃は婆さんからアメを受け取り、それを頬張る。

「ほれ、坊やも」

「あ、どうも」

アメを渡されたので、口に含む。

うまうま。

「坊やは……ぶぶ漬け要るかい?」

「帰れと? 俺だけ帰れと?」

「ふぉふぉ、年寄りの戯れ言じゃよ」

「ああ……そうですか」

鴎星が苦笑する。

まあどうでもいいけど。

「おばあちゃんコレ頂戴ー」

詩乃がそう言っていくつかの駄菓子を購入する。

オレと鴎星もいくつかを選び買うことにした。

……きなこ棒、懐かしいな。

そうしてオレ達が懐かしの味ーーまあ詩乃にとっては初めての味だがーーを楽しんでいると、婆さんが思いついたように何かを持ってきた。

「饅頭でもどうじゃ?」

オレ達は礼を言ってそれを受け取る。

料金を払おうとすると、婆さんは「サービスじゃよ」と言い受け取ろうとしなかったので、お言葉に甘えさせてもらった。

うん、うめえ。


「かっれえええええええ!?」


鴎星が叫んでいる。うるさい。

「ふぉふぉ、なかなか良い反応じゃの」

婆さんがけらけらと愉快そうに笑っている。

「おい、婆さん……!」

「そんな顔をするものではないぞ、坊や。ただの年寄りの戯れじゃよ」

「お、おう。そうか」

「どれ、水をやろう」

「ああ、すまねえ」


「……あ、それ水じゃなくてにがりじゃったわ」


店内に虹が架かった。


「おい、婆さんよ……!」

「なに、年寄りのお遊びじゃよ」

「そ、そうkーーって、それ言ったら何とかなると思ってるだろ婆さん!」

「年寄りの戯言じゃよ」

「絶対そうだな、そうだよな? そうに決まってる」

あれだな、モブキャラにすら弄られるっていうのはもう才能だよな。

鴎星さんマジパネェっす。尊敬っす。


あ、きなこ棒当たりだ。




**********



「すっげぇ疲れた」

鴎星が呟く。

「まあ、流石だよな。お前」

駄菓子屋を出たオレ達は、詩乃に導かれながら歩いているところだ。

どこに向かっているのかは知らん。

ちなみに詩乃はスッゴい満足気な顔をしていた。

「とうちゃーく」

詩乃はそう言って唐突に足を止める。

……民家。

詩乃は迷いなくインターホンを押す。

「……なあ統輝、俺すっげぇ嫌な予感がするぜ……」

「そうか」

そんな会話をしていると、中から誰かが顔を出す。



「……………………」



次の瞬間、一瞬の内にドアが思いっきり閉められ、中からドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。

鴎星はもの凄い量の冷や汗をかきながら固まっている。

そして、しばらくすると、再び中から顔を出す。


「あの、お姉ちゃん……何しに来たの?」


はい、影乃のご登場~。

「いや、おとーさn」

ん、という音を聞く前に鴎星は逃げようとする。


「ぎゃああああ!? 統輝、関節が!? うあああああああ!!」

逃がさねえよ! こんな面白そうな状況、逃せる訳ねぇよ。

「……お父さんなら今居ませんよ」

鴎星の動きがピタリと止まる。

……ちっ。

「よ、よかった……」

鴎星が胸をなで下ろす。

「うーん、おとーさん居ないのかー」

「……まあとりあえず先輩達も上がってください。あ、お姉ちゃん、とりあえず殴るね」


「ひでぶっ!?」


見事な右ストレートが鳩尾に。

まあ、当然だよな。影乃もお父さん不在で何気に安心してるだろうからなぁ。

彼氏と遭遇とか……



それにしても、詩乃は殴られキャラにでもなるのか……?



**********



「何もありませんが……ゆっくりしていってください。あ、お茶とクッキーです」

「いただきまーs」

「お姉ちゃんはそこで正座」

「……はい」

影乃様は相当お怒りのようです。

クッキーうめぇ。

「日曜も仕事って、お父さん忙しいのか?」

「いえ、今日はたまたまです。……いつ帰ってくるのか聞くの忘れてました」

「メールしておけよ」

「そうします」

それにしても、流石カップル。というか最早この二人、夫婦並みの貫禄がでてるぞ。

どうでもいいけど、ちなみに今日は日曜日。

「うう……足の感覚が……」

詩乃は自業自得な。


「え゛……!」


詩乃があり得ない声を出す。何事だ。

「……どした?」

鴎星が問いかけると、青い顔をして、ケータイの液晶を見ている影乃がゆっくり口を開く。

「お父さん……今、家の前に……」

「「「え゛……」」」



『ただいまー。って、お客さんかい?』



玄関先からそんな声が聞こえてくる。

鴎星と影乃は顔を青くして、冷や汗を滝のように流しながら固まり、詩乃は違う理由で顔を青くしている。

……詩乃、死んだかもな。

「……おや詩乃、と君達は……?」

そんなオレ達の状況を知りもしない姉妹の父親はリビングに入ってきて、そう言う。

これに詩乃が即座に反応する。

「わ、私の友達で、かげ の……部活の先輩にあたる人達!」

影乃、の後に妙な間があったが、まあ及第点か。

オレと鴎星は軽く礼をして、簡単にだが自己紹介をした。

「影乃と詩乃の父親の、涼村忠邦です。娘達がいつもお世話になってるね」

忠邦さんも自己紹介をしてくれる。

優しそう、というイメージを真っ先に思い浮かぶ、柔和な雰囲気を持つ人だ。

……でも、こういう人に限って、怒ると怖かったりするよね。

特に娘関係で。

「よ、よし統輝、鴎星! そろそろ行こっか!」

「そそそうだな」

詩乃と鴎星がそういって立ち上がった。

「おや、もう行くのかい?」

「うん、たまたま近く通っただけだから! ……それじゃ!」

オレ達は、逃げるようにして家から外に飛び出ていった。

そして、しばらく無言で歩いていると、ケータイの着信音が聞こえてくる。


「私だ……『明日、部室に来てくださいね fromかげ』」


「……自業自得だから」


マジで殺されんじゃねえかな。



**********



「さあ、光坂詩乃のぶらり旅! 次回もお楽しみに! ……生きてたらだけど」

「勝手にコーナー化しようとすんな」


「ふじこっ!?」


「鴎星。お前も十分容赦ねえな」

「俺も怒ってるから」

「ああ……」




はい、Setsuです。


そろそろ次のシリアス編に行きたい今日この頃。

まあ、まだ手を着けてませんけど。

とりあえず、作品内の時間を七月に進めないとですね(笑)


感想・アドバイス待ってます。


それでは稜高学園一同、次回もお待ちしております!



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