第二十四話 遠野「皆さん、忘年会シーズンですがお酒の飲み過ぎにはご注意を」
第二十三話の前日のお話です
「リア充爆発しろ」
「いきなり、凄いこと言わないでください。旭さん」
夜の稜高学園の敷地内、用務員室でお酒を飲みつつ談笑していると、旭さんがそう切り出す。
その発言を受けて、約二名ほど顔を逸らしたが気にしないでおこう。
「急にどうしたんですかー? や、別に急でも無いですけど」
木瀬さんがおつまみの柿ピーをつまみながら尋ねる。
柿ピー、良いよね。私は大好きだよ。
「あ? いや、ほら。もうそろそろ六月末じゃん」
「はい」
うん、柿ピー最高。
「んで、七月になるじゃん」
「そーですね」
あ、ビール無くなった。冷蔵庫まで行くのめんどいなぁ。
まあ行くけど。
「夏じゃん」
「はむ……ほーへふねー」
「食うか喋るかどっちかにしろよ」
「へーい」
小気味の良い音をたてながら、缶のプルが開く。
私はその缶ビールをクイッと口に含む。
「リア充爆発しろ」
「話が飛んだよな」
「えっ」
「えっ」
「旭さんと永井さんって、たまにですけどいきなりコント始めますよね」
そして、柿ピーを一口。
個人的に、おかき三粒とピーナッツ一粒が黄金比。
ん? なんか重いものが乗ってきた……
ああ。
木瀬さん……酔うと私か結衣の頭に顎を乗せて、後ろから抱きついてくるのよね。
……いつも思うんだけど、この状態の木瀬さんすっごい可愛い。
なんだろう、いわゆる『たれ』状態? そんな感じ。
うん、たれ木瀬さん……いや、たれつぼみ、かな。
てゆーか、この状態をその辺の男に見せたら一瞬で惚れるでしょ。
少なくとも私が男だったら惚れる。
ふう……ビールうめぇ。
「「「どうでも良いから早くこっちの会話に参加しろよ!」」」
「え?」
「え、じゃねえよ……こっちで会話してんのに、それを無視して地の文担当が柿ピー最高とかいってんじゃねえよ」
「そしてツッコミ役が居ないと会話が回んないんだよ?」
「……結衣がそう言うならやるけど」
「おい、それは暗に俺の言うことは聞かないってことか? 舐めてんのか?」
「で、旭さん、『夏じゃん』の次を詳しくプリーズ」
「無視? え、怒っていい? 怒っていい? いいよな、マジで、なあ」
全く、永井さんうるさいですよ。
「俺が悪いのか? なにその理不尽」
面倒くさいので放っておこう。
私が視線を向けると、旭さんが口を開く。
「いや、夏じゃん」
「はい」
そこまでは良い。理解できる。
「夏といったら、海やら祭りやらでリア充共がうるさいじゃん。だから爆発しろ」
おーけー。よーく分かった。うん、爆発しろ。
「そう言いながら視線をこっちに向けるのやめようか、純子」
結衣が文句を言ってくるが、正直こっちが文句を言いたい。
イチャついてるカップルほどムカつくものはない。
私は缶の中に残っていたビールを一気に飲み干す。
夜はまだまだ明けない。
**********
「マジでさあ、どうやったら彼氏出来んだろうね!」
「えー、私に振られても……まだ一人目ですし」
「そういや、鈴田は学生時代からずっと同じ人と付き合ってるんだよなぁ」
「羨ましい! 羨ましすぎるわ、結衣!」
「Zzz……」
地の文担当、変わりました。どうも、鈴田結衣です。
ちょうど日付が変わる頃、私達は大いに盛り上がっていた。
いや、木瀬さんは寝ちゃってるけど。
この時までは良かった。
ーーそう、この時までは。
**********
「だよなぁ! 遠野!」
「ホントですよ! 見る目が無いというか、ねえ!」
そう言うなり、二人はのどを鳴らして一気に酒を飲み干す。
一時間ほどが経過した。
……えっと
「二人共、それ何本目ですか……?」
「そろそろ止めといたほうがいいんじゃないか……」
私と永井さんは二人を鎮めようと言葉を発する。
ちなみに木瀬さんは熟睡中。
「「あ?」」
「「何でも無いです……」」
旭さんはともかく、純子まで言葉遣いが荒い……
もう……なるようになるかな。
**********
その時は、突然に訪れた。
二人が祭りにいるカップルについて語っているところだった。
「もうお前らに花火ぶつけて文字通り燃やしてやろうか!っておもっちまうんだよなあ!」
旭さんのそのセリフ。
これが、二人のおかしなスイッチを押した。
二人は突如立ち上がり、私と永井さんに向かって、不気味な笑顔を向けてくる。
「二人共、どうしました……?」
ただならぬ雰囲気に、私の顔が引きつる。
……よく見たら目が据わってる!?
「「…………(ニコッ」」←手に火薬を詰め込んだ玉
「「どこから取り出した!?」」
そしてそれは花火じゃなくて爆弾だ!
……え、ちょっと待って、投げないよね? まさかとは思うけど、投げないよね?
一歩ずつ、私と永井さんは後ずさっていき……
用務員室を飛び出した。
走る。全力で走る。アラサーが走る。
コロン……
「「…………?」」
何かが転がる音がした。
そして、次の瞬間に巨大な破裂音と突風が私達を襲う。
「「投げてきたあああああああぁぁぁぁぁ!?」」
目の前にはなかなかのサイズのクレーターがぽっかりと。
「鈴田! 校舎にだけは近付くな! 大惨事になるぞ!」
「は、はい!」
私達は必然的に、開けた場所へと出なければならない。
そう、グラウンド。
爆発音に冷や汗をかきながら、私達はグラウンドに辿り着く。
「……これ、弾が尽きるまで避け続けろって事ですよね? なんて無理ゲー?」
「マ○オパーティーにありそうなミニゲームだな」
「泣いていいですか?」
「……俺、これが終わったらプロポーズするんだ……嘘だけど」
「死んでください」
「マジで死にそうだ……」
次の瞬間、いくつもの爆弾が飛来する。
ちょ、数が多い!?
「「ぬわあああああああ」」
私達は奇声を発しながらも避け続ける。
おおおおおお……高校時代の、ソフトボール全国大会の優勝投手を舐めないで欲しいものね!
いや、別に関係ないか!
そんなことを考えつつ、しばらく避け続けると、私はあることに気づく。
ーー落ちた瞬間爆発する訳じゃない。
だったらっ!
「…………んっ!」
落ちてくる爆弾を捕球して、投げる!
私が投げたボールは、離れた場所で爆発音をあげた。
……よし、いける。ノックと同じ要領でやればいい。
ーーって、あ。
「うわあああああ!? 鈴田! こっちに投げてくんな!」
それにしても、永井さん、体軽いなぁ。
「伊達にサッカーやってきた訳じゃねーんだよ! って、だからこっちに投げてくんなあああああ!」
「わざとです」
「殺す気か!?」
少し余裕が出てきた私達は、そんな軽口を叩き合う。
だが、それも長くは続かない。
「……なあ」
「……何ですか」
「やっぱ鈴田も思った?」
「…………」
無言の肯定。
いや、うん
「「いつまで続くんだ……」」
長い。とにかく長い。
正直、十分くらいで弾が尽きると思っていた。
しかし、予想に反しかれこれ三十分ほど経っている。
流石に体力がマズくなってくる。
爆発音だけが辺りに響き渡る。
「永井さん」
そんな中、私が唐突に口を開く。
「なんだ?」
このままではジリ貧でしがない。ならば……
「賭けに出るしかない……か」
永井さんの呟きに、私は頷く。
賭け。それはつまり……
「あの二人を叩く」
道はそれしかない。
「行くぞ……」
私と永井さんは爆弾が飛来する方向へ向き直る。
「三……二……一」
ゴー、という声が爆発音でかき消される。
私達は全力で走る。いい年をしながら、死ぬ気で走る。
命を燃やせええええええええぇぇぇぇ!!
「み つ け た」
酔っ払い二人を補足した私は、思わずそう呟く。
その時、私は懐かしい感覚に包まれる。
周囲の雑音が消え、身体の疲労を忘れていく。
そして、飛来する爆弾がスローモーションになる。
ーーゾーン
「いや、鈴田!? お前用務員なんてやってないでプロの選手になったらどうなんだ!?」
「見える。見えるぞ!」
「無視すんな! あと性格変わってねえか!?」
「わざとです」
「おい!?」
そんな会話をしながらも、私達の視線は固定されたままである。
残り十メートル……!
私達は、最後の力を振り絞る。
一瞬のうちに距離を詰めた私達は、これまでに無いほどの笑顔で、腕を振りかぶった。
「「頭冷やせ☆」」
鈍い音が二つ。
次に響くのは、二人が地面に倒れる音。
静寂が場を包む。
「……寝るか」
「……そうですね」
緊張の糸が切れた私達を眠気が襲う。
重い身体を引きずりながら私達は自室へと戻っていったのだった。
**********
「……ねえ、みんな。私が酔って寝た後昨日何があったんですか」
翌日、グラウンドの前で用務員全員が遠い目をしながら佇んでいた。
「私、昨日の記憶が途中までしかなくて……」
「みーとぅー」
順に純子、旭さんだ。
「「…………あんたら二人が爆弾投げてたんだよ」」
「「「…………は?」」」
そこで会話が途切れ、無言の時がしばらく続く。
いや、昨日は頭から抜け落ちてた……
そりゃあ爆弾なんて投げてたらーー
「「「「「グラウンド中クレーターだらけにもなるよなぁ」」」」」
これは、用務員じゃどうしようもないね。業者に頼もう……
皆さん、お酒の飲み過ぎには気を付けてくださいね……
はい、Setsuです。
何気に鈴田さんが凄い人だと発覚した二十四話、いかがで した?w
そして、皆さん爆発物の取り扱いにはご注意をw
部長さん「お酒の飲み過ぎについてじゃないのね……」
だって本文中で言ったし……
それではこのへんで。
雪奈「ちょっと待て」
なんだよ……
かざり「私達の出番は?」
影乃「なんで無いんですか?」
どうやってこの話の中に入れ込むんだ……
遊戯部全員『そこをどうにかするのがお前の仕事だろおおおおおおおおお』
アッーーーーーーー
それでは、感想・アドバイス待ってますよ(チラッ
次回も稜高学園一同お待ちしております!




