第二一話 用務員の日常
新キャラがいっぱい。
「遠野~。ちょっとコッチこーい」
私がボーッとしていると、ポテトチップスを食べながらテレビを見ている女性が声をかけてくる。
「なんですかー。旭さん」
この女性の名は、旭里美さん。
用務員で、私の先輩に当たる人物で……
「今日、合コン行かない?」
出会いを求める、さんじゅーーごほん、ごほん、二九歳と一七ヶ月だ。
若干口が悪いのがちょっとアレだけど、良い人だ。
「何時からですか」
「五時」
「行きません」
五時って思いっきり仕事だからね。
つーか合コン始まる時間早いわね。
「ふーん。……木瀬はー?」
「私が行かないと思います?」
「思わない」
「でしょ?」
旭さんが声をかけると、即座に返事を返してくる女性。
彼女は木瀬蕾さん。
こちらも出会いを求める二八歳。
……この二人はよくサボる。
もちろん理由は……ね?
「遠野、その目は何よ」
「ベツニ、ナニモアリマセンヨー」
私がそう言うと、二人は溜め息をつき、遠い目をする。
「アンタも早いとこ相手見つけないと、アタシみたいになるわよ……」
「自覚あるんですね」
「私もそろそろヤバくなってきたから……」
「まあ、木瀬さんはもう少しだけ猶予がありますけど……」
「二人とも……ナメちゃダメよ。一・二年くらい一瞬よ……」
私は曖昧に頷き、木瀬さんは心に刻んでいる。
この二人は、たまに必死すぎて怖い。
「……業務時間中に何を喋ってるんですか……」
そんな私達を見て、少々呆れながらそう言ってくる人物が一人。
私と同い年の二六歳の、鈴田結衣。
「「黙れ彼氏持ち」」
二人が言う通り、彼女は彼氏がいる。
高校時代からの付き合いだとか。
クソ……リア充め……
「純子もなに言ってるの……」
「いや、つい」
そんなことを言っていると、年上二人が荷物をまとめ始める。
「……何やってるんですか」
私が聞くと、さも当然のように答えを返してくる。
「あ? 合コン行く準備に決まってんじゃない」
「まだ三時ですよ?」
私がそう言うと二人は、分かってないなー、といった表情をする。
「アイツが来る前に行かないと面倒でしょうが」
「……なるほど」
私は理解した。
……まあ
「私達が二人を行かせると思いますか?」
「思う」
「何その根拠のない自信!?」
旭さんはふっと溜め息を吐いてから、結衣に向かって言葉を放つ。
「駅前の店の数量限定シュークリーム」
「っ!?」
結衣の肩がビクンと跳ねる。
「今度奢ってあげるわよ?」
「……」
揺らいでる。揺らぎまくってる。
「今ならケーキもついて来る」
「純子! 来るなら来て!」
「寝返っちゃった!」
「ふふふ……ジュルリ」
「結衣、口元拭いて。あなたは女性」
クソッ! 結衣の裏切りが早すぎる!
どうする私!
「遠野」
悩んでいる私に、木瀬さんが話しかけてくる。
「……なんですか」
警戒しながらも、私は返事をする。
「いや、鈴田がこっちの味方になった時点で詰んでる」
その言葉の次の瞬間、正面から結衣が突っ込んでくる。
「くっ……!」
一瞬の足止め。
だが、この一瞬の間に二人は私の横を通り過ぎていく。
「ちょ、まっ」
私は二人を止めようとするが、結衣が邪魔で止められない。
「バイバーイ」
「あでぃおーす」
そう言いながら、二人は戦地(合コン)へと向かっていった。
「……結衣?」
「……何?」
「裏切ってんじゃないわよぉぉぉーーーーーー!!」
**********
十分ほど結衣に説教をしてから、私達は二人並んでテレビをボーッと眺めていた。
「暇ね」
「暇だね」
沈黙。
暇過ぎてヤバい。
この時間帯はテレビも面白くないのよね。
というか眠くなる感じの番組が多い気がする。
しかし、流石に業務時間中に寝るわけにもいかなzzz……
「起きて純子」
ハッ!しまった!
危ない危ない……結衣がいなかったらどうなっていたことやら……
「…………zzz」
「純子……寝ちゃだzzz……」
「いや、二人して寝てんじゃねーよ……」
呆れた感じの声。
私が振り返ると、工具箱を持った男性が立っている。
「あはは……つい……」
まあ眠くなるのは分かるがな、と言って彼は工具箱を片付ける。
「用務員で唯一の男性の、永井和哉さん。遅かったですね」
「謎の説明口調をありがとう。……まあ、色々あってな」
「読者に向けての説明ですよ。二九歳の永井さん」
「メタ発言止めろ」
「嫌です。二歳年下で、この学校の教職員の女性とお付き合い中の永井さん。どうせ二人でイチャついてたんでしょ?」
「サラッと断んじゃねーよ。そしてその通りだよクソが」
「絶賛リア充真っ盛りの永井さん。死んで下さい」
「何でだよ!? あと遠野はツッコミキャラじゃなかったのか!?」
「いつから私がツッコミキャラだと錯覚していた」
「なん……だと……」
そんなやり取りの途中で、永井さんが気付いてしまう。
「……あの二人は?」
「……合コンです」
「またか……」
そう言って永井さんは頭を抱える。
正直言って、あれでクビにならないということに驚きだ。
「あ、全然関係ない話ですけど、いいですか?」
私は断りを入れてから続ける。
「何でこの学園の用務員は男性が少ないんですか?」
普通男性がやりそうな仕事なのに。
その言葉に、あー、と言ってから永井さんは答える。
「ほら、ここの用務員用の部屋、すげぇ安いじゃん」
「はい」
「んで、つい甘えてここに住む。……でも、ここ学校だから彼女を連れ込めない」
「……なるほど」
そんな理由が……
まあ、永井さんはけっこうイレギュラーな存在だということね。
「ついでに言うと、出会いが無い」
まあ、買い出しくらいしか外に出なくて済むし。
「……でも、女性も一緒じゃあ」
「旭さんと木瀬を見てそれを言えるか?」
「無理です」
「だろ?」
「まあ、ここはセキュリティーがしっかりしてるからって言うのもあるんだけどね」
すかさず結衣が苦笑しながらも説明を付け足してくれる。
「……ま、何にせよ」
一拍。
「トンボの補修行ってこい」
笑顔でサムズアップされる。
トンボ。
野球マンガなどで、練習後にグラウンドで土をならしてる木製の道具。
ちなみに、鉄製のトンボもあるのだが、何故かマンガではあまり描かれない。
さらに言うと、グラウンド用のブラシもあるのだが、あれがマンガで描写されることは確実にない。
『ブラシはすごいよ。物凄くグラウンドがキレイに見える by作者』
作者出てくんな。
「え……永井さんやってこなかったんですか」
「いや、ここに戻ってくる途中に言われたからな。面倒くさかった」
「え~……」
「ついでにジュース買ってこいよ」
「それくらい自分で行って下さい!」
とりあえず、行くか……
**********
「ま、これくらいだったらすぐ終わるね」
トンボの様子を見て、そう判断する。
ここでやってしまおう。
「…………」
黙々と修理をする。
………………よし。
修理完了!
「あれ、遠野さん?」
「ん? ああ、柊さん」
私が振り向くと、この学園で私が初めて知り合った生徒の一人。
柊千紗都さんが立っていた。
「…………」
それにしても、うん。
「? 何ですか?」
私が無言のままでいると、柊さんは不思議そうに首を傾げる。
「……いや、柊さんと話してると何故か高校生と話してる気がしないんだよね」
柊さんが凍りつく。
ホント不思議なんだよね。
スッゴい美少女で礼儀正しくてさ。
それでも何でか知らないけれど、高校生じゃないような錯覚を起こすんだよ。
大人びてるから? それもちょっと違うな……
どっちかというと、歳不相応に達観してる感じがするからかな?
私が思考に没頭していると、柊さんがプルプルと震えだして……
「どうせ私は年寄り臭いですよーーーーーーー!!」
そう言って走り去ってしまった。
「…………あれ、もしかして私、地雷踏んだ?」
一人ポツンと残された私はそう呟く。
「見事に踏んでましたね……」
「怖っ!? いつの間に背後に!?」
私は男子生徒……三沢統輝君の出現に度肝を抜く。
「遊戯部のメンバーには神出鬼没のライセンスが備わってますから」
「いや、涼村さんとか絶対備わってないでしょ」
それ以外のメンバーは……うん、備わってそうだ。
「気のせいです」
「絶対気のせいじゃないね」
そんなことよりも、と言ってから三沢君は続ける。
「キャラ説明回って暇ですね」
「おおふ……突然のメタ発言」
「ま、オレは出番があったんで満足ですけど」
「一応キミが主人公だからね」
「ホントはここで出てくるのは恭夜先輩の役目だったんですよ……」
「ごめん、どう反応すればいいか分かんない」
一拍してからまた続ける。
「今回メタ発言多くないですか?」
「キミがそうしたんだけどね」
「えっ」
「えっ」
「だって遠野さんもメタ発言したでしょ?」
「何で知ってるのよ」
「あ、ホントにしたんですね。鎌掛けただけなのに」
「またハメられたぁぁぁ!?」
私はその事実に衝撃を受け、地に膝を付く。
くそっ! 何故か知らないけれど私は罠に引っかかりやすいキャラになってるよ!
「ふっ……鍛えてから出直してくるんだな……」
「いや、それどこの少年マンガよ」
妙な雰囲気で決めゼリフ的な事を言い出した三沢君に即座のツッコミを放つ。
「……どうします?」
すると、三沢君がそう言ってきた。
「……何が?」
質問の意図が分からなかったので、聞き返す。
「いや、オチがつかないから……」
静寂。
……いや、うん、うすうす感づいてはいたよ。
オチを付けてくれるキャラがいないって事に。
私達が無言のままでいると、遠くから叫び声が聞こえてきた。
『いま私のことを年寄り臭いって言った奴コッチに来なさい!』
『ひい!? い、言ってないですよ☆』
『う、うむ……いやホントに!!』
『あら、本当に? じゃあここにある盗聴器に入ったこの音声は何なのかしら』
『いや、それはだな。えーっと……って、チサ、ちょ、やめ、誰かーーーーー!』
「「………止めに行かないと」」
何か若干罪悪感があるんだけど……
**********
「戻りました……」
「トンボを修理しにいっただけで、何故そうなる」
ホント……無駄に運動神経が良い上に、キレて身体能力がアップしてたから、ものすごかった。
肉体へのダメージがえげつない。
「色々あったんですよ……」
「……そうか」
二人に憐れんだ視線を向けられる。
まあ、しばらく休憩しよーー
「すみませーん。校舎内の電球類が全て壊れましたー」
…………え。
「マジ?」
「マジです」
私は絶望に打ちひしがれる。
いや、私だけでなく、永井さんもだ。
「……永井さん、結衣……頑張ろう」
「ああ……」
「頑張って」
……いや、うん。
「さっきから結衣は何で他人事なのよ」
「あ、ごめん。デートがあるから私もう行くね」
「「神は死んだ!?」」
「いや、永井さんには昨日言っておいたじゃないですか……」
「……いや、それにしてもコレは……」
「無理ですサヨナラ頑張って」
それだけ告げると結衣は高速で消えていった。
沈黙が場を包む。
「……やるしかないようだな」
永井さんが呟く。
その表情は覚悟を決めた戦士のそれであった。
「見せてやりましょう! 用務員の意地を!」
「ああ!」
そうして、私達はおかしなテンションのまま戦場(校舎)へと向かっていった。
**********
「ふう……」
夜風を感じながら、ほろ酔い気分で一人歩く。
彼氏と食事をした帰り道だ。
そんな私の視界に、二人の女性の影が映る。
「まったく~。ぜんぜん見る目がないわね~」
「ほんとれすよぉ。私達のよさがわからないらんてぇ」
完全に酔っ払いの旭さんと木瀬さんだ。
「おぅ。すずたじゃねぇか~」
「デートの帰りぃ?」
「はい」
「リアじゅうめ~」
「爆発しちゃえぇ」
そんな二人と帰っていく。
「……あ? よーむいんしつの電気つけっぱなじゃん」
本当だ。
私達は用務員室の扉を開ける。
「あん?」
「おー」
「あ、あ~」
今の反応は順に、旭さん、木瀬さん、私だ。
まあそれはどうでもいいか。
私達が目にしたものは……
「「……………」」
倒れ込んで、魂が口から漏れている永井さんと純子。
二人を揺さぶりながら名前を呼ぶ。
…………返事がない、ただの屍のようだ。
え、いや、ホントに無反応なんだけど。
「……どうします?」
「「…………」」
私達は顔を見合わせる。
そして出した結論は……
「私達は何も見てません、そうですね」
「「……(こくり」」
「帰りましょーー」
う、その一文字を遮って、背後から叫び声が。
「えーっと……純子? 永井さん?」
二人がおかしい。
いや、元々頭はおかしいんだけど、さらにおかしい。
「電球電球電球電球電球電球電球電球電球……」
「トンボトンボトンボトンボトンボトンボ……」
なるほど、永井さんは電球、純子はトンボを直していたのか。
……つまり途中でトンボの仕事がさらに増えていた、と。
まあ、そんなことよりも……
「今すぐにでも襲ってきそうな……感じ……が……」
あ、嫌な予感、的中。
「電球ぅぅぅぅぅ!!」
「トンボぉぉぉぉ!!」
「「「きゃああああああああぁぁぁぁ……」」」
**********
翌日、用務員五名が学園内のあらゆる場所で倒れているのが発見された。
用務員五名はそれぞれ、
「電球が! 電球が追ってくる!」
「トンボ……怖い……」
「人間って怖い……」
「しばらくは仕事サボらないでおく」
「そんなことより誰かあたしとつき合って」
と、謎の発言をしているのだった……
「何だこのオチ……」
「私達の出番はここだけなんですね☆」
「いや、かざりんは微妙に出てましたよね」
「もうどうでもいい……」
はい、Setsuです。
用務員さん達がメインのこの話、いかがでした?
まあ、登場させといてなんですが、あんまり登場回数はない気がしますね。
遠野さんはそこそこ出ると思いますけど。
それでは、コメント・アドバイス待ってます!
次回も稜高学園一同、お待ちしてます。




