第十一話 Yuki'sキッチン~リベンジ編~
今回は、三年生が主体のお話です。
まぁ、一人だけ二年生が居ますが。
ついに一話分フルで主人公の統輝が出番なし(笑)
「と、いうわけでお前たちに集まって貰ったのだ」
「どういう訳ですか」
雪奈の言葉に対し、即座に瑠璃が突っ込む。
「ふむ。瑠璃は知らないかもしれんが、先週に色々とあった」
先週、つまり雪奈が料理を振る舞った日だ。
余談だが、あの後、後輩達は『カレー』という単語を聞くだけで震えと冷や汗が止まらなくなるらしい。
雪奈のカレーは完全にトラウマを植え付けたようだ。
さらに余談だが、俺と千紗都、それに瑠璃はアイツのせいで、未だにオムライスを見ると一瞬だが拒否反応を起こす。
「まぁ、そんな訳で、私も考えたんだ」
「うん」
瑠璃は相槌をうつ。
ちなみに、千紗都はソファーで雑誌を読みながらくつろいでいる。
「ということで料理を教えろ」
「嫌よ」
「嫌です」
「何故に!?」
千紗都と瑠璃は一瞬のうちに切り捨てる。
俺は料理が出来ないのでノーコメントだ。
千紗都は、雪奈があたふたしているのを横目で見ながら告げる。
「面倒くさい、しんどい、ダルい。……素直に態度が気に入らない」
「最後の以外ほとんど同じ意味じゃないか!?」
千紗都は少し目を潤ませている雪奈を見て、一つ息を付いてから雑誌をテーブルの上に置きこちらに体を向ける。
「あのねぇ、ユキちゃん。頼む人間違ってない?……歩さんとかに頼みなさいよ」
「いや、チサちゃん。流石にあの子は無理がありますよ」
「……それもそうねぇ」
人格変わって教えるどころじゃ無くなるからな。
「いや、お前たちだって料理の腕はかなりのものじゃないか」
「……まあ、それなりには出来ますが……はむ」
菓子をつまみながら、瑠璃は言った。
「あ、ルリ。私も一個ちょうだ~い」
「んー」
礼を言いながら菓子を受け取った千紗都は、菓子を頬張る。
「……あら、美味しい。……それで、何だっけ……ああ、料理を教えろ、と……面倒くさいわねぇ~」
そう言いながらも、千紗都は立ち上がる。
「そうねぇ、とりあえず私達は口出ししないから自由に作ってみて。何が悪いかも知りたいから」
「分かった」
千紗都の言葉に頷いた雪奈は、エプロン姿になってからキッチンへと向かっていった。
今回作るのは、リベンジの意味が強いらしく、やはりカレー。
俺達は、それぞれくつろぎながらも、黙って雪奈を見つめる。
野菜を切るらしく、ジャガイモ等の具材を取り出した。
そして、その具材達を、唐突に宙に放り投げた!
雪奈の腕が少し霞んで見えたかと思うと、次の瞬間、空中の野菜が綺麗に切り分けられ、いつの間にか用意されていたボウルの中に、吸い込まれるようにして入っていく。
(なんでだーーーーーーーーーーー!!!!?)
俺達は心の中で叫んだ。
どこの漫画だよ!ーーいや、まあ似たようなモンだけどな!小説だし!
それにしてもおかしいだろ!
包丁すら使わずに切り分けるって!
それに、腕が霞んで見えるって何だよ!
コレは日常系の小説のはずだ、そんな芸等が出来るならファンタジー世界行けるぞ!
……いや、ちょっと待てよ……よく考えたら普通だわ。
雪奈だからな。アイツのスペックの高さは異常だからな。
うん、そう、そうだ。平常心だ、俺。平常心、平常心……
「む、人参が焦げてる……力加減失敗したかな……ああ、この一部分だけか。なら大丈夫だな」
(だからなんでだーーーーーーーーー!!?)
え?え?え!?
何、どういうこと!?
力加減ミスったら焦げるの!?
何をしたんだ、あの一瞬で!
そして、俺の平常心を返せーーーー!!
千紗都や瑠璃も俺と同じような反応をしている。
(ツッコんだら負けだ……!)
(ツッコんだら負けよ……!)
(ツッコんだら負けです……!)
俺達は、それぞれ自分にそう言い聞かせる。
そんな中、雪奈は料理を続けていく。
……え、何!?もうルー入れる工程まで来てる!?
早くね!?
雪奈の料理の仕方が間違ってるのか、俺達の葛藤してる間に超人的なことをしたのか、判断が出来ない!
……いや、でも鍋の中は普通だな。
ちゃんとカレーのいい匂いもしてきた。
……以外と大丈夫なんじゃないか?
そんな事を思いつつ、さらに時間が経つ。
「よし、出来たぞ!」
俺達はその言葉を聞いて、鍋の所に行く。
そして、雪奈が勢いよく鍋の蓋を開いた。
パカッ→なんとも表現し難いグロテスクな物体
「「「なんでっっっっっっ!?」」」
えええええええぇぇぇぇ!!
なんで!?何故!?Why!?
ついさっきまでカレーだったのに!?
それに、さっきのちゃんとしたカレーだった時から手を加えてないはずなのに!
俺達はすぐ、この料理に使った具材等を調べる。
……しかしどこにも異常は見受けられない。
どれもごく普通な物ばかりだ。
「……とりあえずユキちゃん。具材を普通に包丁で切りましょうか」
千紗都はそう提案した。
そうだ、強いて言うならその程度のことしかない。
ただ、切り方だけでこんな状態になるのかと問われたら、何とも言えない。
「むぅ。分かった」
雪奈は素直に頷いた。
千紗都と瑠璃も真剣に手伝い始めた。
……俺はさっきの物体の処理でもしておくか。
**********
俺が先程の物体を処理し終えた時には、ちょうど仕上げが終わったところだった。
「よし、コレなら大丈夫でしょ」
「ですね」
俺達は再び鍋と向かい合う。
……蓋を開けた。
パカッ→紫色の湯気を放つ異常な物体
「「「「何故にっっっっっっっ!?」」」」
また失敗か!
というか、さっきより悪化してるぞ。
「い、痛いです!湯気が目に染みます!」
瑠璃が目を抑えながら転がり回る。
うおっ!!ま、マジで痛いっ!
「コレは……私達の手に負えないわねぇ」
声のした方を向くと、ガスマスクを装着した千紗都がいた。
呼吸をする度、シュコーと音が鳴るのが不気味だ……
「……どうするんだ、千紗都。……あと、助けろ」
「うーん……難しい問題ねぇ。……あと、無理。ガスマスクはもう無いし」
千紗都は腕を組んで、のんびりと考え始める。
……うぐっ!!この間にも俺のライフがどんどん減っていく……!
「……みんな、あ、あの子に頼みましょう……!」
そんな時、瑠璃が言った。
「あの子?」
千紗都が首を傾げる。
「はい、最後の砦……彼女に希望を託しましょう」
**********
「ということで、ユキちゃんに料理を教えて上げてください」
瑠璃の発言によって、新たに雪奈の家に招かれたのは、瑠璃が最も信頼を置く後輩。
鮮やかな銀色の髪に碧眼、優雅な雰囲気を纏った、二年生の女子生徒。
そう、白百合姫だ。
ちなみに、俺達とも彼女は面識がある。
まぁ、想像通り、瑠璃繋がりで知り合ったんだが。
「……えーっと、話を聞いた限りですと、私が教えても結果は同じになると思うんですが」
一拍空けてから続ける。
「普通に作ってもダメなのでしたら、何よりも先に、原因を調べた方がいいと思います。……たぶん、それは小手先の技術でどうにかなるレベルでも無いですし」
む、姫の言う通りだな。
俺と同様にみんなも頷く。
「……じゃあ、始めましょうか」
千紗都が告げるのと同時に、俺達は原因の解明に取り組むのであった。
~30分後~
「うおおおお!痛えぇぇっ!」
「目が、目があああああああ!」
「瑠璃先輩と恭夜先輩……シュコー」
「気にしたらダメよ……シュコー」
「ふむ、姫にガスマスクを持参させたのは正解だったな」
~1時間後~
「いやあああぁぁ!鍋が溶けてます!」
「威力が上がってきたぞ……」
「雪奈先輩……」
「ユキちゃん……」
「そんな目で私を見るな!」
~2時間後~
「ひいいいいい!!なんかひとりでに固まってうねうねしてます!!」
「ついに新たな生物が誕生しちまったな」
「私達はカレーを作っていたはずですよね……」
「姫さん、私も自信無くなってきたわ」
「ふむ、奇跡だな」
~5時間後~
「おい、瑠璃!そっち行ったぞ!」
「きゃああああ!気持ち悪いっ!!」
「る、瑠璃先輩、落ち着いて下さい!」
「……まさか、カレーで異世界に繋がるとはねぇ」
「ふむ、次元を切り裂くほどのカレーか。……ここまで来るといっそ清々しいな」
「ちょっと!?ユキちゃんとチサちゃんもコイツら倒すの手伝ってください!!」
「……魔物って本当に居るのねぇ……」
「遠い目をして現実逃避しないでください!チサちゃん!」
「今更なんだが、私のことチートって言うけど、お前達も相当だぞ。……こんな会話しながら、化け物の攻撃を軽々と避けて、しかも反撃して次元の切れ目に押し戻すって……この世界はファンタジー世界じゃ無いぞ、3人とも」
「って、オイ。なんか色々とマズいヤツが出てきたぞ!」
「……アレって、某夢の国のネズミですよね……瑠璃先輩」
「……本当にマズいですね、色々と」
「……本当に存在したのね……」
~7時間後~
「……なあ、雪奈」
俺は息を整えながら口を開いた。
「……なんだ?」
「一つだけ理解した……お前はーー」
俺だけでなく、千紗都や瑠璃、そして姫もその言葉を言い放つ。
「「「「料理をしてはいけない」」」」
「…………」
雪奈は部屋の隅で小さくなって、声もなく泣き始める。
……この場の全員は確信していた。
雪奈は、絶対に料理が出来ない。
どんなに普通に調理をしても、まるで漫画のようにその料理は殺人的なモノになる。
ある意味、コレは才能なのだと。
そして、残念ながら、コレばかりはどうしようも無い。
「「「「「…………」」」」」
まるで、お通夜のような雰囲気の中、最初に口を開いたのは瑠璃だ。
「……あの……そこにある鍋って、何が入ってるんですか?」
そう言って、キッチンにある、1つの鍋を指差す。
「……さあ?」
千紗都も首を傾げる。
……アレ?あんなもの、最初にぼーっとしてた時からあったっけか?
「……イヤな予感しかしないわねぇ」
千紗都がそう呟くと同時に、鍋から異様な音が聞こえてきた。
ーーそして
ボーーーーーーーーーーーーーン!!!
「「「「「えええええええぇぇぇぇ……」」」」」
「……まさか爆発オチとはねぇ……」
「ぐす……私って……」
「部屋の片付けが……」
「……って、あれ?……姫ちゃんが息してませんよ!?」
「……………(シーン」
「姫さん!?しっかりして!……ちょ、救急車ーーー!!」
その後?
……雪奈が心臓マッサージをしたら治ったさ。
あと、部屋の片付けで徹夜した。
……眠い。
どうも、Setsuです!
最近、後書きでの、締めの言葉が欲しくなってきましたね。
なんかそういうの憧れますよね。
……え?自分だけ?
あ、なんか考えたら送ってくだせぇ(笑)
もしかしたら使うかもなんで。
部長さん「図々しいわねぇ……」
そこ、うっさい。




