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その25

 冷静になれ。

そう心の中で呟いて、唇を噛み締めた。ガイツは目の前の相手を睨んでいて、全く動こうとはしない。恐らく道具屋を人質にとられているのだろう。ガイツほどの腕前なら道具屋を無傷で助けることなんて簡単だ。それでも万が一があるかもしれないと思っているのだろう。

(気づいてくれるか)

少しだけ気配を出してみる。

これぐらいなら大男は気づかないだろうという一瞬。

ガイツが俺の方をちらりと見た。気づいてくれたようだ。大男が気づいたらいけないので視線はすぐ道具屋に戻されたが、それで充分だった。


 ギルドの扉をそっと開ける。大男が邪魔で道具屋が見えない。でも「ひっ…っく」と泣いている声が張りつめた空気の中、嫌に大きく聴こえた。途端に苛立ちが増す。


「貴様、覚悟はいいな」


 泣かすなんて許さねえ。


 遠慮なんかせず、思いっきり男の手を弾き、首を押さえてひざ裏に蹴りを入れた。鈍い音がしたから骨が折れたのかもしれない。体重を支えきれなくなった男が倒れこむ前に、ガイツが素早く男の剣を取った。

道具屋は震えたまま首を触っている。


「まったく、お前は……」


安心して肩の力が抜けた。

抱き締めようと一歩足を進めれば、道具屋の優しい香りがする。

言葉が喉まででかかって、でも何を言いたいのか自分でもわからず、肩に顔をうずめた。柔らかい髪が頬に当たる。あまりの心地よさに目眩がして、そのまま動かずにいると、穏やかな手つきで髪を触られた。最初は恐る恐る。それからゆっくりと動き出すその手に。


泣きそうになった。


 穏やかな波が心の中に広がっていく。そっと目を閉じた。永遠に時間が止まればいいのに、と思ったのは初めてだった。

静かな時間にぎゅっと目を閉じる。


「すき」


 その一言に反射的に身体が震えた。


嬉しい。


でも喜びは一瞬だった。


入れ替わりに恐れがやってくる。


――もし失ったら?


そう思うと、応えるのが怖くなった。でもここで伸ばされた手に応えなければ永久にこの手は掴むことができない気がする。

今のままの関係でいいんじゃないかと思った。


勇気を出せ、俺。


そんな陳腐な台詞で自分を励ましたのは一生忘れることができないだろう。

肩から顔を上げて、道具屋の頬に手を添えた。


促して後ろを向けさせ。



唇を重ねた。




「ごほん」


唇が離れても余韻に浸っていたら、わざとらしく咳をする声が聞こえた。


「再会の喜びは違う場所で分かち合った方がいいぞ。静かになったから町のもんが様子を見に来るだろう」


「……あぁ、悪い忘れてた。あとを頼んでいいか?」


「忘れるなよ……もちろん片付けておく。ついでにイクダールにも伝えておくから、ゆっくり二人で話せよ。落ち着いたらギルドに顔をだしな」


「すまん」


「嬢ちゃん」


「はいっ、ごめんなさい!」


「何言ってんだ?頑張れよ」


「はい?」


余計な応援をして、ガイツは笑いながら俺達をギルドから押し出した。


「あの、どこ行くの?」


 何を最初に言うべきか考えながら道具屋の手を引いていれば、無言にたまりかねたのか道具屋が恐る恐る尋ねた。


「俺の家」


一番話がゆっくりできるだろう。そう言うと道具屋は顔を赤らめて照れくさそうにする。最後に来たのがあの日だったから思い出しているんだろう。繋いでいない方の手で頬を触り、熱を引かせようとしている。


 ……困ったな。言葉よりも先に手が出そうだ。


 ペガサスの羽を使い、町の入口へ着く。家に向かい歩いていけば、道具屋が足を止めて、びっくりしたような声を出した。


「え?」



「……武器屋と道具屋?くっつけたの?」


少しはにかむ様な表情を期待していたが、道具屋は動揺している。


「新しい道具屋さんが中にいるの?」


 この発言には頭を抱えたくなった。


「いや、来た奴はいたがイクダールが問題があるからって追い返してた」


そう言うとあからさまにほっとしている。


「戻ってこい。この町の道具屋はお前だ」


そう言うと、俺が期待してた表情で道具屋は頷いた。




 部屋へ入ると、二人っきりになると、道具屋が擦り寄ってきた。怖い思いをしたし、離れていた分、寂しかったんだろう。俺だってそうだ。


 でも。


この状況はいけない。


「……で、話を、するんじゃ、なかったの?ちょっと、どこ触って……!!」


「話って?お前は戻ってくるって決まったし、何を話すんだ?」


「そういう言い方はひどいっ!」


煽った道具屋に少し意地悪をすれば、思いっきり睨まれた。



ああ、この日常が欲しかったんだ。



しがらみはなくなった。

これからは心置きなく生活できる。

平凡な未来を想像して、穏やかな気持ちになった。


その未来を実現するために「きちんと言って」と言った道具屋に言わなければいけない。


なんて言おうか。


幸せへの第一歩。


「      」


それはありきたりな台詞だったけれども。


それを言うことができる自分が、既に幸せだ。








 これにて完結となります。未熟な点はあきれるほどあったと思いますが、最後まで読んでくださった方々ありがとうございました(*^o^)/\(^-^*)


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