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その24

 それからティモスを倒して、街へ戻ることができたのは道具屋がいなくなって六日後だった。勇者達も一緒に来ていて、今日の夜はお疲れ会をすることになっている。

 本当は、すぐ道具屋の所に行くつもりだったが、勇者達は明日の朝には旅立つと言う。

「道具屋には護衛つけているから、今日は勇者達と呑みなさいよ」とイクダールに言われ、そうすることにした。

 勇者達はこれから魔王退治に行くのだ。今生の別れになるかもしれないと思ったら、流石に道具屋を優先にはできない。


「荷物置いたら宿屋に迎えに行く」


 勇者達と一旦別れて自宅に戻ろうとすると、後ろから二人、ついてくる人物がいた。

イクダールとガイツだ。


「?何か用か?」


そう聞いてもガイツは「武器を見に」と言って、イクダールは楽しそうにしているだけで何も言わない。

嫌な予感しかしないので早足に店の方へ向かう。

そしてそれは当たっていた。


「……は?何だ、これ……」


見えてきた店を見て驚いた。

振り返ってイクダールとガイツを見ると二人は吹き出した。


「間抜け面になってるぞ」


「お店の所まで行ってみたら?」


 その言葉に走って店の前まで行ってみた。正面から店を見て思わず荷物を落としてしまったが、そんなことはどうでもよかった。


「なんで道具屋とくっついてるんだ!?」



「王都の店の構造いいって言ってただろ?」


のんびりと歩いてきたイクダールとガイツが店を見る。


「時間がなかったから、急拵きゅうごしらえよ。道具屋が戻ってきたらきちんと改装するわよ。あぁ、振られたら自分で元に戻してね」


「嫌なこと言いやがって」


 外観は道具屋と武器屋がくっついて、老朽化していた木の部分が新木と取り換えてあった。

道具屋が好きな素朴な店の雰囲気はそのままで暖かみがある。

扉を開けば、カラン、と音が濁ったベルが鳴る。中の中央に二人がけのカウンターが備えられていた。武器屋の印と道具屋の印がついているから、ここで並んで商売ができるようだ。


「しててなんだが、無断でこういうことされて怒らないのか?」


「大丈夫だろう」


 これを口実に一緒に暮らすこともできる。あいつは危なっかしいから同棲は元々すぐ提案するつもりだった。……振られることはないだろうと思う。

そう言うと「武器屋って、決めたら一直線ね」と呆れを含んだ言葉が聞こえた。



●●●●



 それから夜になり、打ち上げをして、次の日の朝に勇者達は旅立って行った。旅が終わったらまた会おうと約束をして。


「さて、道具屋捕まえに行くか」


 道具屋がいる場所は、昨晩イクダールから教えてもらっていた。なんでも別名『水の街』と呼ばれる美しい街にいるらしい。

休暇がてら道具屋と観光するのもいいな。

そう思いながらペガサスの羽を発動させた。



 そんなに広くないが水路やら道が入り組んでいる街。

第一印象はそんな感じだ。

 一通り歩いてみたが、道具屋はいない。ギルドに聞いてみたが、基本的に他人には流れ商人の誰がいる、いないには答えることができないと言われた。


「ちっ」


面倒臭いが、露店を開いている奴に片っ端から聞いてみるしかねえな。


「おい」


 最初に声をかけたのは、道具屋と雰囲気が似た少年だった。きっと資格を取ってからそんなに年数が経っていないのだろう。


「は、いっ。いらっしゃいませ」


 少年の緊張した顔が初めて会った頃の道具屋と重なった。懐かしくてつい笑ってしまったのが良かったのか、緊張していた少年はぎこちなさはあるものの笑顔になった。


「いらっしゃいませ。何かご必要ですか?」


「すまんが、人を探してるんだ。道具屋で、お前に似た雰囲気の女性だ」


思い当たる人物がいるのか、少年は疑問の目を向けてきた。


「……恋人だ。怒らせてしまってな…家出されたんだ」


 近いうちに恋人になる筈なので嘘ではない。

それでも少年は怪しんでいるので、武器屋の免許証を見せた。

取得が難しい武器屋の免許証は、持っているだけで持ち主の人間性を保証してくれる優れものだ。少年もそれを見て、安心したように表情を和らげた。


「あの、ふわふわした感じの女の人なら違う町に行ったよ」


ふわふわ……。

道具屋で間違いないだろう。


「その名前教えてくれるか?」


「うん」


そして少年が口にした町の名前は、あまり評判が良くない町だ。

 少年に礼を言うと、半ば駆け足で街の外へと向かった。


 ペガサスの羽を発動させると少し寂れた町にあっと言う間に着いた。雨が降っているせいもあるかもしれないが、町の空気は沈んでいる。さっさと道具屋を見つけて帰った方がよさそうだ。

 露店は……と町を見渡してみるが、露店を開いている商人は一人もいない。

仕方ない。ここのギルドとは関わらない方がよさそうだったが、行くしかないようだ。

 少し離れたところから見える酒場の隣の建物。そこがギルドのようだ。空気が一際重く感じる。

嫌な予感がするから、気配を消して足を進めた。

 ギルドの中が見えるぐらいに近付いたので、更に気配に気を付けてゆっくりと足を進めて行くと


ガシャン!!


大きな音が響いた。

 気配を消したまま走って窓端から中の様子を伺う。

ガイツがいる。

そしてガイツの前には大きな男と――首に剣を当てられた道具屋がいた。




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