武器屋兼防具屋に万能薬をプレゼントしよう
効力は凄いのに、あまり注目されないという切ない商品。
今度、目立つ所に置いてみよう。
「くせーんだよ!毎度毎度!!」
口喧しく入って来たのは隣の武器兼防具屋。
勘弁してほしい。
赤い髪に赤い瞳。褐色の肌。どう見てもがっつり肉食派な隣人がやってきた。
「ごめんなさい。また在庫切れたから」
原因は気付け薬の臭いのせいだ。あの臭さはいくら戦場に立っている猛者だって嫌であろう。
「またか」
そう言って隣人は眉間に皺を寄せた。
ちょっと年上かな、ぐらいな隣人は首筋に大きな傷があり、数年前から武器屋兼防具屋を人から預かっているらしい。
詳しくは知らない。
身の上話をするような間柄ではないから。
でも私が倒れた時には助けてくれたし、特注マスクを作ってくれるいい人だな、とは思う。
商売敵というのを抜かしたら。
「今回は多めに作ったから、しばらくは大丈夫。ごめんなさい、いつもいつも」
取り敢えず最初に謝っておこう。あの臭いで迷惑をかけているのは確かだから。
「気ぃつけろよ。あ、ついでに頼みがあんだけどさ」
今回は小言もなく平和に過ぎたが、彼はどうやら頼みがメインだったみたいだ。
「なに?」
「万能薬、5個欲しいんだ。あるか?」
「確かあったとおも…あ、あった。あ〜でも使用期限が近いから明日でいいなら新しく作って渡すよ」
「わかった。じゃあ忙しいとこすまねえが頼むわ」
昼前に取りに来る。
そう言うと隣人は帰っていった。
「さて、と」
店の前にある小さい花壇にやってきた。植えてあるマゴンドラを抜くために。
万能薬はその名の通り、毒や麻痺など何にでも効く薬。
ただ、人気があまりない。
二個以上の状態異常にかかるのは稀だし、一個の状態異常ならわざわざ万能薬を使う必要はないのだ。
だから、売れ残りが出てくる。
一個200ゴールドもするのに!!
でも置いてないと、聞かれる。
「万能薬ないんですか?」って。ないときに限って。あまりにもそんなことがあるから最低限の数だけ置いている。
作り方はかなり簡単。
キャッと叫ぶマゴンドラを抜いて温い地獄温泉水の中に入れる。
混ぜて、鍋ごと冷蔵庫に入れて8時間で出来上がり。
つるっとしたゼリーみたいな食感のものになるよ。
こんな簡単で何で200ゴールドもするのかっていうと、原材料費だ。
地獄温泉水はそんなにかからないがマゴンドラは栽培にすごく難しい。私は運良く成功しているけど、マゴンドラを育てる土や水にお金がかかっているのだ。
今回はお詫びとして10個隣人に贈呈しよう。
次の日の昼前。
寝起きなのか色んな所に跳ねている髪のままりんじはやってきた。
跳ね方がちょっとアホらしくて可愛い。
ゴツいと言うよりも野生の肉食!っていう感じの隣人に万能薬を10個渡すと頭をくしゃくしゃとかき混ぜられた。
「あんがとな。あいつも喜ぶ」
「だから髪をぐしゃぐしゃにしないでってば!」
あいつっていうのが誰なのか一瞬気にはなったが、友人か何かだろう。他の人と世間話するみたいに話せないのだ。
肉食は草食の私には怖くて。
本当に触られるのも怖いが、まだ頭を撫でまわす隣人の笑顔に、暫くこのままにしとくかと何故か暖かい気持ちになった。
〜万能薬のまとめ〜
材料(10個):
マゴンドラ1個。
地獄温泉水800ml
採取地:
マゴンドラ→花壇。
地獄温泉水→取り寄せ。
備考:
マゴンドラの叫びは意外に可愛い。形は、ぼんきゅっぼん。
地獄温泉水にまぜると最後には棒切れみたいになる。
万能薬の食感はいい。くにゅくにゅしている。
1個200ゴールド。
バンダナより高い。