その20
先に教会に行くかとガイツと言ったはいいものの、神父に宿泊をお願いするからには勇者パーティー代表でアランも連れて行った方がいいだろう。勇者を引きずるように教会に入ると、ちょうど神父は聖書を閉じたところだった。
「おや、今日はあの子は一緒じゃないんですか?」
「それが第一声かよ」
「冗談ですよ。元気になってなによりです。ところでそちらの方々は……あぁ、神気を纏っていらっしゃるから勇者様ですか?」
神父は俺の後ろに視線を投げ掛ける。視線を受け取ったアランは一歩前に出た。その表情は緊張に満ち溢れている。なんでだ?と思う前に勢いある声が勇者から放たれた。
「お初にお目にかかります!私はアランと申します暗黒竜を倒しに来ました!!」
びっくりして勇者を見る俺を余所に、神父は親しみを込めて勇者に話しかけた。
「私はただの神父です。そんなに畏まらないでください」
「第5王子にそんな滅相もない!!」
………。
第5、王子?
ばっと神父を見ると頬を掻いて苦笑いをしている。
「王子様か」
「私は王位継承権を放棄して城を離れた身です。気にしないでください」
「いや、気にすんなっても……」
気にしない方が無理だ。そう言うと神父はわざとらしく悲しげな顔をつくる。
「その顔は止めろ」
男にあひる口は気持ち悪い。
つい普段どおり言えば、神父は「ひどいですね」と言いつつ、とても嬉しそうに笑った。
「わかった。前とは態度を変えない。お前はただの神父。ディーパの神父でいいんだな」
「はい、勿論です」
「んじゃあ早速で悪いんだが、俺を入れて6人。部屋を借りたいんだが大丈夫か?」
「ええ、2部屋しかないですがそれでよければ」
「じゃあ男女でわけるか」
「俺皆を呼んでくる!」
アランが入口に走って向かう。
「慌てるとこけ「べぶしっ!!」
「あ、すまんアラン」
転びはしなかったが槍使いが外からいきなり扉を開けたため、出ようとしていた勇者の顔面に扉がぶつかった。
お約束だな。
「じゃあ行くか」
荷物を置いた後、すぐに腕試しへと繰り出した。
「ん、やっぱり他の地域より魔物が強いな」
「スパッと斬ってるじゃねえか」
どうやら腕試しは不要だったようだ。
勇者は大体の敵を一撃で倒していたし、他の三人も簡単に魔物を討ち取っていく。今まで見た冒険者の中で一番手際がよかった。
「ふー、ちょっと休もうよ」
魔法使いがちょこんと地面に座る。見た目は普通の少女なのに、荒っぽい魔法を次々に発動させるなんて人間って不思議だ。
「?なにじっと見て」
「いや、見た目によらず魔法の使い方が男前だな」
「あー面倒臭がりなんだ私」
そんな会話をしていると槍使い、ガイツまで休憩しにやってきた。
「しかし薄暗いなぁ」
「日光って重要なんだな、こうも薄暗いと気が滅入る」
「ああ……っと、俺僧侶手伝ってくる」
まだ一人戦っている僧侶を見つめ、槍使いは降ろしていた腰を上げた。僧侶は補佐系だからどうしても一人での戦いには時間がかかるし、この面子の中では一番弱いだろう。
「どうだ、暗黒竜いけそうか?」
「まあ余裕だな。あんときゃ武器屋と俺だけだったから負けたけど」
「そうだな」
「じゃあ明日行こうぜ」
前回の討伐の時とは違ってノリがとても軽い。全くない緊張感に不安がないわけではなかったけど、何故か負ける気がしなかった。
ガイツにそう言うと「勝ち戦ってのはそういうもんだ」と笑われた。
「あ、おかえりー」
僧侶と槍使いも戻ってきて俺達はそのまま教会に戻った。
そのまま思い思いに過ごし、夜。
俺は道具袋から一本の剣を取り出した。
「その剣は?」
風呂上がりの勇者が髪を拭きながら向かいに座った。
「ん、これが前話した奴の形見の剣だ」
「……そっか」
「なあ頼みがあるんだが」
「ん?」
「暗黒竜のとどめ、この剣でさせてくれねえか?」
「うん、いいぜ」
あっさりと勇者は了承してくれた。礼を言うと「しっかり敵討たないと安心して道具屋の子探しにいけないだろ?」と笑われた。
「なんで知ってる」
「イクダールさんから。しっかり頼むって言われたよ」
「くそっ、あの女」
イクダールは口が軽いのか重いのかわかんねえな。
「いいじゃないか。心配してくれるってのはありがたいもんさ」
「ガイツ」
「よいしょっと。おっさんがベッドな」
ごろんと横になり、ガイツは目を閉じる。
「明日は体力がいるからな。さっさ寝ろよ」
そう言うとすぐに寝息が聞こえてきた。勇者と顔を見合わせて笑う。
「寝るか」
「そうだな。槍使いは?」
「あー、僧侶がちょっと弱気になってるから慰めに連れ出した」
「じゃあいいな、明かり消すぞ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
そうして真っ暗になったなか、意識は静かに夢の中へと堕ちていった。




