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その19

「そういや嬢ちゃん逃げたんだって?」


 王都での買い物中、二人になったのを見計らってガイツが問い掛けてきた。まあ事実なので頷くと笑い声が返ってきた。


「まったくあの嬢ちゃんは」


「暗黒竜を倒し終わったら探しに行く」


視線の先には仲良さそうな僧侶と槍使い。ガイツも二人を見ている。


「……そうするといい。連れて帰ったらあんな風に一緒に買い物に行きな」


「ああ」


ガイツは重い息を吐き出した。きっとかけがえのない人を亡くしたことがあるのだろう。ガイツはその部分を槍使い達と俺と道具屋に重ねて見ているようだった。


「今度は何があっても生きて帰る」


「そうか……ならいい」


安心させるように言うと、ガイツは一呼吸してにやりと笑った。


「イクダールから伝言を預かってる。『道具屋は見つけといたわよ。危ない目に合わないように密かに護衛つけてるから安心しなさい』ってさ」


「は?」


「いやー、イクダールは仕事がはやいな。そしてこれをお前に渡しておく」


渡されたのは紙が入った封筒。中を開けてみると、道具屋の土地・建物権利書だ。


「いっそのこと、ここみたいに建物をくっつけたらどうだ?」


ガイツは笑うとそのまま「ちょっと外をぶらついて来る」と出て行った。


「……ガイツは世話焼きだな」


ついて来るのを拒んでいるような背中を見送って、権利書に書かれた名前を指でなぞった。これを書いた頃の道具屋は、こんな未来を想像してなかっただろう。


「そうだな。思い切ってしてみてもいいかもな」


帰ったら知り合いの大工に依頼しようと、建物権利書を封筒に入れて道具袋へとしまった。



 暫くして四人が入り口に戻ってきた。ガイツも頃合いをはかったかのように帰ってきた。


「おーい、買い物終わったぞ」


「お待たせ」


「んじゃ行くか」


「おう」


ペガサスの羽を使うためには王都の外に出ないといけない。歩いて王都の出口へ向かってると勇者がぴたりと立ち止まる。


「どうした?」


「ん、こっちに何かある気がして」


建物と建物の隙間――人が1人入れるぐらい――に入って行く。そして手に持って戻ってきたのはお金。


「500ゴールド落ちてた」


「貰っとけ」


「いいの?」


「落とし主がわからないだろ?それに錆びてるから落としてだいぶ経ってる筈だ」


「うんじゃあ遠慮なく」


その後も幸運は続く。


「万能薬落ちてた」


「ポーション見つけた」


「気付け薬拾った」


「なんでそんなに見つけるんだ!?」


「やっぱり王都はいっぱいあるね。町や村じゃ1、2個しか拾わないのに」


魔法使いがのんびりとそんなことを言う。

落とし物は貰っていいのが常識だ。勇者は運がとてもいい。


「お前拾い物で店開けるんじゃねえか?」


「開けるかも。草原とか山でも何か絶対拾うんだ。今は慣れたけど最初びっくりしたよ。どうしよう、誰に届ければいいのかなって」


勇者アランは道具袋に拾い物を入れていく。ポーションは限界まで入れているのでその場で飲んでいた。


「お腹壊すぞ」


「大丈夫。今まで何十回と拾い飲みしたけど平気だったよ」


あっけらかんとして言い放った勇者にもう言葉がでなかった。


「ま、世の中不思議な奴もいるんだな」


ガイツが笑いながら俺の肩を叩く。勇者は規格外だ。


勇者に付き合って寄り道ならぬ拾い歩きをしていたら時間はどんどん過ぎていく。


「そろそろ止めろ」


また「何かある気がする」と人の家に入ろうとする勇者の首根っこを捕まえて軌道修正した。


「拾いもんは戦いが終わったら思う存分してくれ。さっさと行くぞ」


そのまま勇者を引きずって王都を出る。


「扱いがひどいなー。アランはいいけど女の子にはそんな扱いするなよ?」


「しねーよ」


「したから逃げられたんじゃないの?」


「してねえよ!ほら、さっさと羽を使うぞ!」


道具袋から羽を取り出して発動させる。

次の瞬間には薄暗い村、ディーパのすぐ側に立っていた。



「こわいね」


魔法使いが勇者に擦り寄る。勇者は顔を赤くしながらも「俺がついているから大丈夫だ」と答えていた。止めろ、背中がむず痒くなる。ガイツもそう思ったのか「おっさんには耐えられない空気が……」と呟いている。


「……先に教会に行くか」


「そうだな」


ガイツと意見が見事に一致したのはこれが初めてだったかもしれない。




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