その18
店を少し早めに閉めて、夜ギルドへ行くとイクダールが出迎えてくれた。
「荒っぽい足音ですぐわかったわ。勇者もさっき来てくれたところよ」
奥の席へ通されると、そこには男女四人が座っていた。
男二人は剣士と槍使い。女二人は僧侶と魔法使いのようだ。
イクダールと一緒にやって来た俺を見て顔が強張っている。別にとって食ったりもしねえよ。
男二人はじっとこちらを見ている。
「アラン、こっちが例の武器屋よ」
口火を切ったのはイクダールだ。何か言え、とイクダールに視線で促され、俺は簡単に自己紹介した。続けてアランと呼ばれた勇者も席から立ち上がって自己紹介をする。
「初めまして、アランだ。よろしくな!!」
無駄にキラキラした笑顔。
――暑苦しそうな奴。
それが勇者アランに抱いた第一印象だった。
話しやすいようにと向かい合わせで座ることになり、=型である席は俺の隣には僧侶が座った。怖いのか少し間を空けている。
「大丈夫よ、武器屋は何もしないから。それに道具屋の恋人もいるのよ」
「へえ、見てみたいな」
それに食いついたのは槍使いだ。軽そうなこいつには会わせたくない。
「今度な」
今度はきっと来ないが。
「こほん。あの…早速ですが、暗黒竜について教えてくれませんか?」
僧侶が話を本題に入らせてくれた。書くものをさっさと用意するところから見て、真面目な人物みたいだ。その性格は外見からも想像できるもので、丸い眼鏡をかけていて、髪の毛はきれいに水平に切られていた。
「暗黒竜は真っ黒な鱗で覆われていて剣や槍といった武器攻撃が効きにくい。魔法は試してはないが、昔の討伐作戦では確か雷系以外の魔法を使用してたと思う。それでも効き目は強くなかったはずだ。地道にダメージを与えることになると思う」
「なるほど、じゃあポーションやMP回復薬は多めに持っていかないと」
「そうだな。ディーパには店がないから」
「じゃあここで揃えていくか」
「……そ「それはできないのよ」」
座らずに立っているイクダールがにやにやしながら俺の方を見る。このやろう。
「?なんでだ」
槍使いは分かったようで肩を竦めていたが、アランは勇者ならではの『鈍感』スキルを発揮させた。
「まあ、ちょっとな。消費アイテムなら王都にあるから」
「そっか。じゃあ明日には王都に行ってまずディーパで腕ならしをしてみよう」
話がトントン拍子に進んでいく。こいつらは暗黒竜の強さが解っているのか。
「暗黒竜は強いぞ。俺が無事帰ることができたのは、暗黒竜の気が削がれていたこととガイツっていう一流の冒険者がついていたからだ」
「大丈夫だよ。俺達はずっと経験を積み重ねてだいぶレベルを上げてるし、武器屋もそのガイツって人も一緒に行ってくれるだろ?」
「俺は勿論行く。……ガイツは」
「行くよ」
後ろからガシッと頭を掴まれ、髪をぐしゃぐしゃにされた。
「ガイツ」
「よお。ほら、俺にも座らせろ」
そう言って俺を中に押しやるように座ってくる。必然的に俺は僧侶に近付いてしまい、僧侶はびくっと固まってしまった。
「そんな怯えんなって」
昔の道具屋に少し重なってしまう。あいつも最初は苦手意識まるだしだったもんな。
「へえ……」
勇者が少し驚いたように呟いた。対する槍使いは不機嫌そうに舌打ちをする。
「?……っと悪いな。つい癖で」
知らない間に僧侶の頭を撫でていた。道具屋と重なったからだろう。僧侶は顔を赤くしている。それを見て更に表情を険しくする槍使い。……ああ、そういうことか。
関わると面倒くさいことになりそうなので、すぐ手を離して俺はアラン達にガイツを紹介することにした。
「こいつがガイツだ。オリハルコンの剣の所持者で一流の冒険者だ」
「オリハルコン!?すごいな、見せてくれ!」
アランが目を輝かせて前のめりになる。ガイツはそれに笑いながら「討伐に行った時に見れるぞ」と言った。
「なんだよ?勿論行くぞ。この前は二人だったし、俺は軽装備だったから敵を討たせてやれなかった。今度は仕留める」
「そっか、それなら頼もしい!これなら楽に勝てそうだ」
「ガイツ、すまない」
「それはこっちの台詞だ。悪かった。次は必ず倒そうな」
「じゃあ明日午前に買い出しに行って、そのままディーパへ向かいましょう。周辺の魔物と戦ってみて様子次第ではすぐにでも暗黒竜討伐へ行く、でいいでしょうか?」
僧侶が話をまとめた案に頷くと今まで黙っていた魔法使いが突然聞いてきた。
「敵って?」
「それは……」
話さなくてもいい内容だったと思う。「ちょっと昔にな」と流せることもできた。でも命をかけてくれるこいつらに隠すことはない。
つらつらと苦い思いと共に理由を話せば、ぐすり、と魔法使いは涙で顔を濡らす。
「うう゛っ、アラ、ン。絶対暗黒竜、たお……」
「そうだな。是非力にならせてくれ」
アランは握手を求めるように手を差し出す。
――暑苦しい奴。
そう思ったが、決して不快ではなかった。




