表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/84

その16

「何も買い置きがなかったから水でいいか?」


「うん」


それきり沈黙が落ちた。道具屋は困った様にちびちび水を飲みながら、ちらりと俺を見る。それは機嫌を窺う子供のようで、先程俺を誘った道具屋とはあまりにも雰囲気が違った。


――ついここまで来てしまったけれど、どうしよう――。


そう思っているんだろう。

仕方ない、と俺は小さくため息をついて「そういえば」と運び屋の話をした。話題が他になかったから仕方ないが、運び屋の話で、固かった表情が和らぐ道具屋を見るのは面白くない。


「惚れられたんじゃない?」


それに加え、この台詞。


「止めろ」


思わず強い口調になってしまった。だいたいあいつは道具屋を褒めて褒めて褒め倒して、俺のことは罵り倒す。道具屋も何回も俺達が喧嘩しているのを見ているのに、何をどうしたら惚れているという意見がでてくるんだ……。


「あいつは俺じゃなくて、完全にお前に惚れてるだろーが。この間来たときはお前のことをかなり褒めまくってたぞ」


そう言うと「じゃあ、両思いだ」とはにかむ道具屋にイラッとしてしまう。


「何言ってる。じゃあ今日は浮気か」


笑いながら意地悪く言ってしまったが、道具屋が悪い。


「……」


いつも通り笑って返せばよかったのに道具屋はぴしりと固まった。良かった、もし「浮気なんかしないよー」とか返されたら手は出せないところだった。


 手に持っていたグラスを床に置いた。それが合図になったように、道具屋は顔を赤らめる。お酒のせいもあるんだろう、赤みがわかりやすい。

言っとくけど、俺だって少し緊張してるんだ。



「それは駄目だな、俺が本命だ」


頬にそっと触れると道具屋は目を閉じる。それを見ながら俺も目を閉じる。

 速まる自分の鼓動をはっきりと感じながら、夜は更けていった――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ