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その15

「あの……そんなに見られてたら食事ができないんだけど」


あからさまな俺の態度に道具屋は顔を赤らめたまま視線をさ迷わせている。恥ずかしいが嫌ではないというその表情に「そうか、悪かった」と形だけ謝れば、更に顔を赤くさせた。


さっきから何回目だろう、このやりとり。


隣に座って時折こちらを見て何かを言いたそうにしてはちまちまとご飯を食べる道具屋を見ていると、俺の方が段々心拍数があがってきた。


「……あのね」


「なんだ?」


表面上は落ち着いたふりをして、彼女が続ける言葉を待つ。掠れた声に赤い顔。一瞬告白でもしてくれるのかと思ったが、道具屋の性格を考え、そんなわけないかと思い直す。ただ、周りにはそう見えるようで生暖かい視線が居心地悪い。今度からかわれそうだ。


道具屋の髪を触りながら意識を僅かに周囲にやった時、「…こんや…」と道具屋の声がした。やっと言う気になったか。でも道具屋を膝に乗せている自分の手を見ている。気のせいか?と思った瞬間――




「今夜、泊めてほしいの」





 今の台詞を振り返ってみる。今夜、今日の夜、今だな。

それから、泊めて欲しいと。何処に?俺の家に?ギルドに?飲み屋に?……俺は馬鹿か。俺に言うからには俺の家だろうが。

 何故?酔っ払ったから?まあ確かに酔ってはきているみたいだ。最初からペースが早い。でも俺と道具屋は隣だ。今更だ。


そこまで一気に頭の中で整理して、こいつは段階すっ飛ばしすぎだという結論に至った。好き、や付き合ってほしいとか、そう言った台詞は何もない。そもそも俺に恋人がいるかどうかすらこいつは聞いてこなかったし、知らないんじゃないか?


「何言ってるのか解っているか……」


「…うん、解ってる」


そう言われて、俺は早速行動に出た。


「どうしたの?」


イクダールとガイツの所へ行き「あいつ連れて帰る」と言うと、二人とも目を見開いた。


「そう……ほどほどにね」


「大事にしてやんな」


「ああ」


言葉少なめに道具屋の所へ戻り、飲み屋の支払いを済ませてさっさと店を出ることにした。道具屋が「やっぱりなしで!聞かなかったことにして」と言う前に。


店を出る際に中を振り返るとイクダールとガイツが笑顔で手を振っていた。



 家に帰るまではお互い無言だった。繋がれた手の温もりだけを感じ、部屋へと行く。


「部屋、散らかってるぞ」


やっと言葉を発したのは二階の部屋の扉の前だった。

 店は綺麗にしていたが、元々整理整頓は苦手だ。寝室は掃除は簡単にするが片付けなんて滅多にしない。今日も何もせず家を出てきた。どんな状態かは覚えてないが、想像はつく。


 部屋を開けると、案の定散らかっていた。掃除をしていたから清潔感はあるものの、寝間着は脱いでそのままで本は読んでそのまま置いてある。


「飲みもん持ってくるから待ってろ」


寝間着だけでも回収して、飲み物を取りに行くと何もなかった。くそっ。

今度から部屋は毎日片付け、飲み物や簡単に食べることができるものは買い置きしておこう。そう決めて、水を持って俺は部屋に戻った。




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