その7
道具屋はまだ出てきません。
「っと…ほら、次お前」
「はいっ!…ぐっ」
暗がりの洞窟は爬虫類やコウモリ類のモンスターが多い。もう何回出くわしただろう。
「ほら、武器屋。最後の一匹」
一緒に来た槍使いに言われて大蛇を一撃で仕留めると「おー」という声が部下からあがった。
「『おー』じゃねえ。大蛇ぐらい騎士なら一撃で仕留めろ」
この国はどうやら平和に甘えすぎて騎士のレベルが低いようだ。
大蛇はレベルが40ぐらいあれば一撃で仕留められる。まあ騎士の持っている剣が国から配布される『騎士の剣』という攻撃力が低いものだとしてもだ――もし戦が起こればすぐ負けるだろう。
「じゃあ次は自分が行きます!」
張り切った部下が突進した先は。
「ぎゃっ!蜂だ!」
騎士が苦手な蜂だった。
騎士だけでなく剣の遣い手は上空を飛ぶものが割りと苦手なのだ。どうしても上空をふらふら飛ばれると攻撃距離が短い剣は命中率が下がる。
「蜂は俺も苦手だ」
それは勿論俺にも当てはまる。蜂だけでなくコウモリも嫌いだ。槍遣いに任せて、俺は後ろへ下がった。蜂は毒攻撃をしてくるから危ない。
「俺かよ」と槍遣いは面倒臭そうに武器を構える。
「手伝います!」
部下も一緒に並び、俺を守るように前に立つ。
俺はどこぞの姫か、と突っ込みをいれたかったが部下は一生懸命なので黙って様子を見る。
蜂が三匹。槍遣いは一撃で一匹を仕留めた。そして支援体制に入る。
「えっ、俺達だけでですか?」
「もう少しでレベル上がるだろ?頑張りなって」
「……はい」
さっきの威勢はどこかに置いてきたかのように、苦手な蜂が相手ということもあり部下達は少し緊張していたが、筋は悪くなかった。三撃したところで蜂は倒れる。
「レベル上がったか?」
「はい、お陰様で。ありがとうございます!」
「実戦を積めばあっという間にレベルが上がるからたまに洞窟とかに行きな。そうすりゃここも一人で攻略できるようになる」
槍遣いが優しく諭し、部下達はうんうん頷いていた。いつの間にか良い師弟関係が築きあがっている。
「お、奥ですね。何もないです」
「隠し部屋とかはないか?」
部屋をぐるっと見渡してみるが装置も何もない。
「ここは外れか」
宝箱があったので、中身を頂戴して俺達は洞窟を後にした。
宝箱に入っていたのは「茨の鞭」という武器だ。この面子で使える奴はいない。
「割りと早く攻略終わったな。どっちか手伝い行くか?」
部下達に聞いてみた。槍遣いはこのあとルッセルの所に行くと言っているし、俺は時間がある。どうせ部下も隊長待ちだろう。
体力がまだあるなら、今はレベル上げに最適な時間だ。
「ついていっていいですか?」
部下もそれは解っているようで、すんなりと答えが返ってきた。
「じゃあ騎士隊長のとこに行くか。ルッセルは槍遣いが行けば充分だろう?」
「ああ。今回は割りと楽しかった。機会があればまたな」
「おう。今度武器屋に顔見せに来いよ」
「「ありがとうございました!
」」
槍遣いと別れを済ませ、俺達三人は離れた洞窟へ向かった。
「息切れ、しなくなったな」
レベルが上がって成長したからか、最初に空気が薄くて具合が悪いと言っていたが今では何ともないようだ。
「そういえばそうでした」
部下は忘れていたというようにきょとんとした。
「経験を積めば世界も拡がる。頑張れよ」
お節介だと思いつつも言った俺の言葉に部下の一人が足を止めた。
「どれぐらい頑張れば槍遣いの方や武器屋さんみたいに強くなれますか?」
「……何か目標があるのか?」
真剣な眼差しに俺はじっとそいつを見た。さっき突っ走って蜂と戦う羽目になったことといい、どうやら焦っているらしい。
「……最近、魔物の動きが少しずつ活発化しているんです」
少し先で足を止めていたもう一人の部下も、仲間の隣に戻ってきた。
「どうやら暗黒竜が動き出したという情報も出ていて……近々偵察隊が組まれる予定なんです。偵察隊は各地の魔物注意区域や特別注意区に行く予定で、俺達がこのまま行けば無駄死にする可能性が高いからって隊長が……」
暗黒竜。
その言葉に俺は心臓が止まるかと思った。
「暗黒竜……それは確かか?」
「……はい」
忘れはしない。
あの瞬間を。
目の前で殺されたあいつの顔を。
あいつを殺したくせに、俺達を一瞥もしなかった暗黒竜を。
「いいか、俺は昔暗黒竜の討伐部隊にいた。だから言う。今から死ぬ気でレベルを上げろ。万が一暗黒竜にあったら死ぬ気で逃げろ」
俺の言葉に部下の喉がごくりと鳴った。俺ももっと力をつけないといけない。
今度こそ。
首の傷に触れると鼓動が速くなる。
今度こそ。
殺してやる――。




