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その6

 点呼をとられ、整列させられるとイクダールが今日の説明を始めた。


「グルニャ山とその森林地帯の二手にわかれて探索を開始します。ギルドは主に山を、自警団は森林地帯を。山頂付近は騎士隊長とルッセルの班で中腹から下は……」


「な、ルッセルって誰だ?」


横に並んでいる騎士隊長が小声で聞いてきた。「あっちにいる女冒険者」と顎で示せば騎士隊長は目をそちらへ向かわせる。

ルッセルがこちらに気づきウインクを騎士隊長へと贈った。


「お前、モテるな」


純情な騎士隊長はどうやら女性冒険者に受けが非常にいいらしい。地下バニーが去った後も多少静かになったが、騎士隊長含む部下達に女性冒険者達は興味津々だった。

 地下ギルドに所属してる俺達とギルドのメンバー以外は地下バニーを得体の知れない女だと畏れている。そのため地下バニーの行動で騎士隊長に興味を持った者も新たに出てきたようで、好奇の視線が纏わりついて離れない。やっと落ち着いたと思ったら……どうやら今日は大変な一日になりそうだった。



「酸素が少ない……」


 イクダールの説明が終わり担当区域を目指し山を登りはじめた。徐々に気温が下がり空気が薄くなる山にまず根をあげたのは騎士隊長の部下だった。


「あー、山だからな。そういった訓練は受けないのか?……お、このモンスターポーション持ってるぞ」


「訓練はなぁ。山とか水中はあんまり。あ、こっちは毒消し」


「ふぅん。ほら、あんた達頑張ってよ、モンスター一匹まわすから宜しく」


ルッセルはそう言ってゴブリンを騎士隊長の部下に投げ飛ばす。


「ぐえっ」


「ちょっとー軟弱ね。避けるぐらいしなさいよ」


「……」


「……」


ルッセルの暴挙に最早言葉が出なかった。ルッセルの班の奴らにいつもこうなのかと目線で問えば無言で目をそらされた。


「にしてもモンスター多くない?」


 やっと担当区域の山頂付近に着いて腰を降ろす。ルッセルの班と俺達含めて十三人。そのうち七人が騎士隊長の部下だが、皆既に疲労の色を顔に滲ませている。


「確かに。モンスターを利用する山賊もいますから用心しておいた方がいいかと思います」


そう言ったのは眼鏡をかけた少女――魔法使い。ルッセルと組むことが多いという少女は儚げな容貌だが、ここに来るまで全く息を切らしていない。騎士隊長の部下より体力はあるようだ。

年頃だし部下に興味はないのか聞けば、「弱い男に興味はありません」と切れ味が鋭い答えが返ってきた。たしかになあ……。



「近くに洞窟が三ヶ所ありますがどうしますか?」


魔法使いが地図をひろげる。二ヶ所は割りと近くにあり、一ヶ所だけ真裏にある。


「三手に別れるか。俺、武器屋、ルッセルと部下を二人ずつ、でルッセルの班は一人ずつで……」


「ちょっと待て」


「ん?」


「今さらだが、この班は魔法使い以外攻撃系しかいないな」


ルッセルの班は他に男二人で、二人とも攻撃タイプで斧と槍の使い手だ。


「ポーションとか揃えてきたか?俺は最低限しか持ってねえぞ。二個。」


「あ…私持ってない。MP回復薬ならいっぱいあるけど…魔法使いいるし」


「俺は三十五個。部下一人につき五個で。でも一番効果低いやつしかない……誰か持ってきてるだろうと思って…」


低いやつか。

それだとだいたい盗賊の二撃分だな。1人五個ということは……。


「1人あたり十発まで大丈夫だな。いけるんじゃないか?」


騎士の服は多少防御に優れているし、今回一番強い奴は賞金がかかっているカルなんたらで、Cランクみたいだから余裕か。

しかし、それを聞いた部下達は表情をひきつらせた。


「大丈夫よー。殴られる前提で計算するから不安になっちゃうのよ。山賊なんか余裕だ!って意気込みでいかないと」


ルッセルが些か不安の残るフォローをして場が和んだところで俺と騎士隊長、ルッセルは少し離れた場所に移動してチーム分けをする。


「魔法使いはポーションがないルッセルの班だな。で部下は打たれ弱い奴を連れてけ」


「わかった」


「で、洞窟だが何処がいい?」


「私ここ。何となく安全そう」


「こういうのって大概離れた洞窟にボスがいるんだよな……」


でも部下を育てたいし、と騎士隊長は離れた洞窟を選んだ。


「ペガサスの羽根は持ってるな。帰りは各自だな」


「そうねー。あ、配られた閃光弾ちょうだい。武器屋の彼女がつくったんでしょ?」


「ああ、俺に存在を隠していた道具屋の彼女か……あの何にも染まってない感じがいいよな」


「隠してない。彼女じゃない。それにお前、今の台詞を地下バニーに聞かれたら、道具屋が意地悪されるかお前が土に埋められるぞ」


「えー彼女じゃないの?じゃあ今は友達以上恋人未満ってやつ?私そういう話大好きなんだよねー。詳しく聞かせて」


話が段々脱線してきたので、戻そうと「おい」と声をかけたが二人は町娘みたいにきゃぴきゃぴと世間話を始めた。


「でさ、次の話がおもしろくて。イクダールさんが言ってたんだけど先日その彼女が怪しい仮面をつけちゃってさ……」


騎士隊長が話し出した話は全て面白可笑しく脚色されていて、当事者の自分ですらそんなことあったか?と疑問を投げ掛けたくなるものばかりだ。何回か止めるために口を挟んだが、ルッセルから「青春してる餓鬼はおだまり」と本気で睨まれた。


「……で、殴られ蹴られて泣かれて逃げられたこいつは夜に忍び込んでひっそりとキスして仮面を外したらしい」


「ぷぷっ、バカねー。いい?道具屋みたいなタイプは男を出したら逃げ腰になるから、紳士に行かないと。そっと優しくでも時には強引に……ぶはっ!駄目っ!紳士な武器屋を想像したら笑いが!」


「確かに…お前に紳士はなぁ……」


「お前ら好き勝手言いやがって…」


脱線した話は待ちくたびれた魔法使いが呼びに来るまで続けられた。




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