その5
道具屋は今回全くでてきませんよー。
夏が終わった。
「山賊狩りするけど、来る?」
久しぶりにギルドに行けばイクダールから声をかけられた。なんでも秋は山賊や盗賊の活動が活発化するから、もういっそのこと一斉に討伐しようということになったらしい。
「いつだ?」
「一週間後。手当ては冒険者ランクによって違うんだけど…そうね、武器屋の場合はこれぐらいかしら」
「結構出るんだな。場所、数、ランクは?」
「場所は近くのグルニャ山。数はグループが5ぐらい。総勢70ぐらいを想定してるわ」
「あのでかい山か。やっかいだな。近くに森林地帯もあるだろ」
「そうなの。で、これは未確認なんだけどCランクの賞金が掛かった山賊がいるんじゃないかって話なの」
グルニャ山とその麓にあるアルーノの森はとても広く、70人ぐらい身を潜めることは容易い。広さを考えれば70人以上の山賊がいると考えた方がいい。
「Cランクか。誰だ?」
「カルパボネっていう男」
「知らん」
賞金稼ぎには興味がないからいちいち覚えてはいない。イクダールは「でしょうね」と資料を出してきた。似顔絵はいかにも優男風だが……。
賞金が懸かっている奴はランクに分けられS〜Eまである。Sは最強。滅多にいない。Eは食い逃げや万引き常習とかで一般人でも捕まえることができる。
Cランクは中級冒険者なら倒せる相手だ。Bランク以上しか相手にしない地下ギルドは出る幕がない。よって俺の出る幕もない。
しかし。
「やる」
身体が最近鈍ってきたから丁度いい。
「だと思った。チームはこちらで組んでるわ。貴方は騎士隊長の班で山の頂上付近一帯をよろしくね」
「強制かよ」
俺の参加は既に決められていたらしい。騎士隊長ってあいつか。なら仕事はしやすいだろう。
「あ、これ読んで記入しておいて」
イクダールが置いた紙を見るとそこには『契約書』と書かれている。
生死の保障はない、如何なる責任もギルドは負わない。
これはちょっとした依頼を受ける際にも必ず記入しなければいけない書類だ。
さっさと名前を書いてイクダールに渡すと彼女は引き換えに依頼内容の詳細が書かれた紙をこちらへ寄越す。
「……おい。騎士隊長の部下と一緒か。というか部外者俺だけじゃねえか」
「訓練になって丁度いいって。あと勉強がてら騎士以外の戦い方っていうのを見せたいみたいよ」
「ちっ、面倒だな……見学費でも貰うか」
「参加者は将来有望な騎士に絞ってるみたいだし、いいんじゃない」
まあ、常連客を獲得するいいきっかけにはなるだろう。うまくいけば人脈をひろげることができるかもしれない。
了承の旨を伝え、俺は店へと戻った。
討伐の日、朝早く町の中央広場に行くと既に人が集まっていた。
手にはそれぞれ武器を持っている。俺の今回の武器は細い剣だ。
細い剣は、力で相手を押さず相手の攻撃をかわしつつ弱点を突くのに適している。生け捕りが中心となる今日みたいな依頼にはぴったりだ。
「よっ。来たか」
騎士隊長が俺に気付き歩いてきた。後ろには部下だろう、色は違うが同じ制服を着た男が7人いる。
「そいつらかお前の部下は」
「ああ、宜しく頼むわ。お前達、今日彼が一緒に行動する武器屋だ。地下ギルドでも屈指の腕前だ。しっかり学ばせてもらえ」
「「「宜しくお願い致します」」」
「ああ、宜しく」
7人を見渡す。男ばかりのむさ苦しい集まりはギルドや自警団からも浮いていて、ちらちらと好奇の視線が集まる。
特に女冒険者の視線が強い。
第一線で活躍している彼女達はそういう視線を隠そうともしていない。
そして、
「へえ〜、騎士隊の精鋭がいるって聞いてたけどあなた達?」
「武器は何?誰が強いの?」
「私と試合してみない?夜の試合でもいいわよー」
一人が話しかけて来たのを皮切りにわらわらと女性が近づいてきた。好みの男がいたのか直接口説き出した女性冒険者もいる。その様は男より男らしい。
騎士隊長にも甘いお声がかかったが……
「……私のに、何をしてるの?」
冷たい声が響いた。
「地下バニーさん……」
女性冒険者達が道をあける。
今日は白いバニー服ではなく露出度が高い冒険者装備をしている。……たまに思うが女性冒険者は何で肌を見せるような装備をしているやつが多いんだ?それで防御できてるのかと聞きたくなる。
「あら武器屋」
地下バニーは俺に気づいた様で優雅に笑う。その笑顔は離れた場所でこちらを興味津々見物している男達の視線を釘付けにしたが、俺達はそれが機嫌の悪い時の仮面の顔だと知っている。
「駄目じゃない、武器屋がちゃんと見張っててくれないと」
もう、と笑いながら可愛らしく怒っているように見せてかなり怒っているようだ。
「お前な、純情な騎士隊長をおもちゃにして遊ぶのも大概にしろよ。子供か」
「道具屋の子と子供みたいなじれったい青春してる人に言われたくないわ」
「そんなもんするか。それより今日は騎士隊長の部下も来てるんだし挨拶しとけ。ほらお前もバニーを紹介しろ」
さっきから口を挟めず困っている騎士隊長と、いきなり女性冒険者からの洗礼をうけた部下達はそこで漸く口を開いた。
「ああ。彼女は地下バニーと言って地下ギルド専属のバニーだ。勿論彼女自身冒険者だ」
「よろしく。今日は支援にまわるから何か足りなくなったら言ってね」
「「「よろしくお願いします」」」
「バニー。俺の部下だ。こういったことに少人数で参加するのは初めてだから迷惑をかけるかもしれない。悪いが宜しく頼む」
「任せて。……それより、鼻の下伸ばしちゃ駄目じゃない」
バニーはぎゅむっと騎士隊長の鼻を摘まむ。
「貴方は私の騎士なんだから、私だけを見て」
「!!」
バニーの真摯な瞳に見つめられ、騎士隊長の顔が一気に赤くなった。それを見てバニーは満足したのか挨拶をして去って行く。おい、普通そこで行くか?
「おい、大丈夫か?」
声をかけたが、騎士隊長は赤面したままバニーの後ろ姿をずっと見ていた。




