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その3

 それから一年ぐらい経っただろうか。道具屋とは挨拶しかしていない。あとは気付け薬を作っている時に文句を言いつつ、様子を見るぐらいだ。向こうは俺を苦手としていたようだし、俺も敢えて距離はとっていた。会話らしい会話なんて皆無だった。文句は会話に入らねえしな。


 ところが転機が訪れた。

そう、あの箱がきっかけを作ったな。


 ある日の夜、俺はある豪邸に侵入していた。ここの持ち主が人身売買を行っている証拠を見つけて盗むのを手伝ってほしいという依頼を受けての侵入だ。警備兵が入ることを許されていない書斎に俺と依頼主はいる。


「なんだこれ?見たことない宝箱だな。動くぞ」


「あ?貰っとけよ。どうぜ汚い金で買った宝石でもはいってんだろ。報酬の一環で一つぐらい見逃してやるぜ」


依頼主の男は宝箱を一瞥した後、本棚を漁り始めた。片っ端から本を開いては床に置き、どんどん積み重ねていく。


「ちゃんと元に戻せよ。侵入して証拠盗んだってばれたら使えなくなるんだろ?」


「解ってるよ、そんぐらい。そんなヘマはしねぇよ。俺様を誰だと思ってる?騎士隊長様だぜ」


「証拠が掴めないからって地下ギルドに依頼する騎士隊長様だったな」


「うっせー、早く捕まえないと被害者が増えるんだよ」


「確かにな」


「お。あった……間違いない」


騎士隊長は綺麗に折り畳まれた紙を広げていって、何やら眉間に皺を寄せていた。「調べてた以上に被害者が多いみたいだ」と一人呟いている。


「じゃあ戴いて帰るか。で、今度礼状とって屋敷捜索する時に見つけた振りすんのか」


このままだと思考の渦に入っていきそうな今回の依頼主に声をかけると、奴は書面から顔を上げた。


「ああ、よくわかってんな」


胸元に証拠をし舞い込み、ニヤリと笑う。


「その宝箱持って帰れよ」


「今盗ったら侵入があったってバレるだろうが。捕まえた後はこの屋敷の品、全部押さえるだろうから、その時によこせ。報酬はそれでいい。金はいらない」


「金いらねーの?」


「お前の私財だろ?いらん。俺に払うなら嫁の貰い手探すために使え」


「お前だって独りのくせに……」


「うるせえな。俺はいいんだよ」


「ははっ。ありがとよ。また何かあったらお前に頼むわ」


「ああ」


そう言って別れてから数日後、騎士隊長はわざわざ箱を持って武器屋に来た。

ついでに、と高い武器を買ってくれたこいつはとてもいい奴だと思う。『ついでに』で報酬だった筈の金額と同じ金額の剣を買う奴がいるか。


そして、宝箱は貰ったものの鍵がなかったということなので隣の道具屋で開けてもらうことにした。

少し怯えたように俺を見る道具屋に会いに行くのは気が引けたが、せっかく貰った宝箱だ。開けてみるか。



「こんにちは、どうしたの?」


顔がひきつってるぞ。

開口一番そう言いそうになったのをどうにか押し止めた。ひきつる様な心情を育て上げたのは俺だ。


「これを開ける道具あるか?」


万能鍵は勿論知ってはいるし、使ったこともあるが、道具屋の興味をひくためにわざとこの箱の存在を主張した。

案の定、「ちょっと道具持ってくるから店番代わって」と宝箱に集中し、俺への苦手意識もどこかへ行ったようだ。

しかし、店番を押しつけられるとは思ってもいなかった。

道具屋の商売の仕方は知らないんだが。


「あれ、ここ、魔術道具屋さん……ですよね?」


代わった途端、一人の女が入って来た。


「……ああ、客か。店主ならすぐ戻る」


沈黙が落ちる。

この店の常連だろうか。何となくこの女とは気が合わないだろうと感じたので、女を一瞥すると店の中を改めて見渡した。

 手入れが行き届いた素朴な店。派手な飾りもないが、いくつか季節の飾り物を置いているこの店は居ると毒気を抜かれた気になる。


「おまたせ。万能鍵ねー」


「おう」


戻って来た道具屋に鍵を貰って開けようとしたら、立っていた女が鍵をくれると差し出してきた。


驚いた。


こいつ明らかに『俺とは関わりたくない』っていう顔をして立っていたくせに。




運び屋と名乗った女は道具屋の常連らしく、道具屋と宝箱がどうしたら開くか色々試している。持って来たのは俺だが、二人の方が夢中だ。しかし、どうやっても開かない。


「あーもう開かない!武器屋、何かいい案ない?」


宝箱に夢中な道具屋は俺に対する苦手意識をどこかに捨てたようだ。話し方に段々と遠慮がなくなってきている。


「どこかに動かせる部分とかないのか?」


「そんなのとっくに探したよ。他に何か思いつかない?」


役に立たないなぁ、とでも言いたそうな表情に怒りそうになったが、怒って態度が戻るのもなんなので我慢した。

それを見た運び屋の女はにやっと嫌な笑いをする。こいつとはやっぱり気が合わない。


そうこうしている内に時間はどんどん経ち、開かない苛立ちに俺は箱を壊す決意をした。

最初からこうすれば良かった。

 (道具屋が気に入っていたようだから出来たら壊さずに開けたかったが)

思いきって斧を振りおろした。


「……?」


中身が、ない?


失望と苛立ちがふつふつと込み上げてくる。開けようと試行錯誤した時間は全くの無駄じゃねえか!!


俺の怒りを察知した運び屋は機敏性を活かし、即退散していった。

道具屋は「残念だったね」と言った割に残念そうでもなく楽しそうだった。見たことがない物を扱ったという興奮の方が大きかったらしい。

しかし、後日その箱自体がたいそうなお宝だったと知ると泣き崩れそうになっていた。


「レアアイテムが……!」


資料もないレアアイテムだったらしい。


「ねえ……あの箱すっごくレアだったんだよ。しかも見た目があんなんだから壊す人が多いらしくて無傷のなんてレアのレアだったらしいよ……」


「泣くな。また見つけることがあったら壊さず持ってくるから」


項垂れている道具屋の頭をよしよしと撫でると道具屋は「…うん」と静かに頷いた。

子どもの時、俺も落ち込んでいたら傭兵仲間にこうやって慰められていたな。


暫く撫で続けた手は、ほんのりと温かくなっていた。




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