番外編:これはのろけだ
「垢抜けたわね」
暫く町を離れていたイクダールさんが戻ってきて私を見た感想。
「そうですか?」
自分で自分を見ても全く変わっていないと思うけれど、一月ぶりに会う彼女からしたら違うらしい。
イクダールさんは年に一回のギルド会議にギルドマスターの代わりで出席していた。マスターはここのギルドに何かあったらいけないと町から出ないらしい。
「髪の毛も綺麗に切って、洋服も以前は地味だったのに可愛いのも着るようになって……大分印象変わるわよ」
まあ確かにそういうのは前より意識しているかもしれない。
「武器屋も大変ね。あなたが綺麗になってモテだしたから」
「私の方は全く何もかわりなくて…それより武器屋の方が」
そう。武器屋は今モテ期真っ最中。武器を買いに来た女性に呑みに行こうと誘われていたり、珍しい武器があるからと家に招待されていたりと隣に私がいるにも関わらず口説く女性の多いこと。
この町は肉食男子より肉食女子の比率の方が高いかもしれない。
「この町は男らしい男ってあまりいないから」とイクダールさんもこの意見には同意している。
武器屋はモテて私はモテないという理不尽さを嘆けば、「それはどうでもいいわ」と言われた。
うう、意地悪だ。
確かに他人からすればどうでもいい話ではあるが、ちょっと心配なのだ。モテる男がモテない女に興味を持っただけ、要するに遊びではないのかと。バニーちゃんにそれを言えば「心配する必要もない事に悩むなんて幸せな悩みね……寝不足になれ」と凄まれた。
イクダールさんも相手にしてくれない悩みかと思ったら、「そんな顔しないの…仕方ないわね」と夜にギルドに来るように言われた。
武器屋にイクダールさんとご飯を食べると伝え、イクダールさんの所に向かった。
ギルドの受付の所にいたイクダールさんは私が入ると受付のカウンターの下に潜らせた。
「静かにしてなさい」
?
よく解らないまま大人しくしゃがんでいるとガチャリと扉が開く音がする。
「ふえ〜つっかれた!!」
「お疲れ様」
ドサッと机の上に何かが置かれる音がする。
「ちょうどね、これ報酬よ」
「おっ、助かる」
「今日は隣に行くの」
「いや、暫く止めとくわ。またダブルで殴られちゃたまんねえもん」
「道具屋にちょっかいだそうとするからよ。あの二人は彼女に関しては独占欲強いんだから」
えっ、私?
「他にも似たような目にあったっていう奴何人かいたぞ」
「時々、牽制しに来るのよ。町を歩いてたら彼女に色目使ってる奴によく出くわすって」
「それで嫉妬するなんてガキみてーだな」
くっくっと男性が笑っている。
「彼女が言い寄られたら不安でしかたないのか?その男のところに行くかもって?あーおかしい」
武器屋が?
それはない。そもそも誰からも色目なんて使われてない。
しかし、受付で話す男はさっきから笑いっぱなしだ。
「あんな凶暴そうな男がそんな心配するなんて、余計に道具屋に興味をそそられるな」
「止めときなさい。本当に手を出したら冒険者生命は絶たれるわよ」
「わかったよ。まだ冒険者ではいたいしな。んじゃあ」
そう言って扉が閉まる音がした。イクダールさんが「いいわよ」と私の腕を掴んで立たせてくれる。
「えっと」
「あなたが言い寄られないのはこういうわけなのよ」
解ったでしょ?と首をかしげるイクダールさんの仕草が可愛い、と関係ないことを思いつつ私は頷いた。
「でもダブルって」
「運び屋」
「……」
「モテないんじゃなくて、モテてるのよ。そして友達にも恋人にも充分愛されてるし…他人からしたら羨ましい限りと思うわよ」
バニーちゃんが怒った理由が今なら解る。相談した内容を思い出すと恥ずかしくなってきた。相談している自分を殴って止めたいぐらいだ。
先日の夜の相談といい、今回といいバニーちゃんには申し訳ない。今度お詫びに何かプレゼントしよう。
しかし、武器屋と運び屋はやっぱり似てる。普通、牽制とかしないよね。それだけ想ってくれてるってことなんだけど……。
この件に関しては何も知らないままにしておこう。
武器屋はモテる、私はモテない。
それでいい。
そう結論づけてイクダールさんにさよならを言って家路へと向かった。
なんか悩んで損したなぁ。
影の主人公はバニーちゃん。




