最終話
「ごほん」
唇が離れても余韻に浸っていたら、わざとらしく咳をするのが聞こえた。
あっ!ガイツさんいたの忘れてた……。
「再会の喜びは違う場所で分かち合った方がいいぞ。静かになったから町のもんが様子を見に来るだろう」
「……あぁ、悪い忘れてた。あとを頼んでいいか?」
「忘れるなよ……もちろん片付けておく。ついでにイクダールにも伝えておくから、ゆっくり二人で話せよ。落ち着いたらギルドに顔をだしな」
「すまん」
「嬢ちゃん」
「はいっ、ごめんなさい!」
「何言ってんだ?頑張れよ」
「はい?」
意味を図りかねて聞き返すも、ガイツさんは笑いながら私と武器屋をギルドから押し出した。
武器屋はとことこと私の手を握って、町の出口へと向かう。
「あの、どこ行くの?」
無言にたまりかねて聞けば「俺の家」と素っ気ない返事が返ってきた。言い方は冷たいが、確かに武器屋の家が一番ゆっくり二人で話ができるだろう。
「うん、わかった。じゃあお邪魔するね。あ、話が長くなるかもしれないから、先に何か食べてもいい?」
「……家で作ってやるから」
「いいの?……じゃあお願いします。そういえば料理できるんだね」
「ああ…ほら、羽出せ」
「うん」
何故か言葉少なくしか返事をしない武器屋に首をかしげつつも、私は羽を取り出して発動させた。
一瞬にしてかつて住んでいた町へと景色が変わる。
町の入口へ着けば、町の名前を案内する子供がいて、ちょっと歩けば武器屋と道具屋が隣に並び建って……いて?
「え?」
目の前に建っている建物に私は唖然とした。
「……武器屋と道具屋?」
いや、そもそも隣同士だったからそれに変わりはないんだけど。
「くっつけたの!?」
そう。建物が一つにまとまっている。大きくて、でも素朴な造りのその店はとても素敵だ。こんな店開けたらいいなぁ。
「新しい道具屋さんが中にいるの?」
ちくり、と胸が痛んだ。自分で手離したものの後悔ばっかりしている。行商を始めてから特に実感しているけど、ここはとても住み心地が良かった。
町の人はあまり都会へ引っ越したりしないし、引っ越しても戻ってきている理由がわかる。
「いや、来た奴はいたがイクダールが問題があるからって追い返してた」
ということは、未だ道具屋はないってことだ。
目元が緩んだ私に武器屋は優しく言う。
「戻ってこい。この町の道具屋はお前だ」
「……うん……ありがと」
そうして私の短い行商の旅は終わったのである。
●●●●
「……で、話を、するんじゃ、なかったの?ちょっと、どこ触って……!!」
私の目の前に広がるのは武器屋と道具屋がくっついた建物の二階にある部屋の天井。
武器屋を押し退けようとしても、それはできなかった。
何故なら!!ベッドに手首がくくりつけられているから!!
「話って?お前は戻ってくるって決まったし、何を話すんだ?」
「そういう言い方はひどいっ!」
にやにやする武器屋に殺意が湧いた。わざと言っているのは明らかなので思いっきり睨んだら、笑いながら手首を解放してくれた。
「悪い悪い。つい仕返ししたくなってな」
まぁ、手間をかけたとは思うけど、それとこれとは別だ。
口ではっきり言ってほしい。
私だって言ったのに。
「きちんと言って」
そう言えば、武器屋は視線を一旦宙に向けた後私を見て、はにかむ。
「 」
それを聞いて、不覚にも涙がぽろぽろと溢れてきた。
「泣くな」
「だって……」
武器屋が、涙をそっと拭ってくれた。よしよしとあやすように抱き締めながら頭を撫でられれば安堵の息が出る。なんか私、子供みたいだ。
「ここに住めよ。部屋はあるから」
「うん」
すぐ答えると武器屋は彼に似合わず穏やかな笑顔を浮かべると、そっと唇を合わせてきた。
●●●●
それから穏やかに時は流れていたんだけど。
「あったあった。ポーション草」
「ぽーちょんちょう?」
「うん、これを飲めば体力がある程度復活するの」
「たいよく?」
「うん、体力って言うのは「おい、小さい子供に難しい話をするな」
「ぱぱー」
「おかえりなさい」
「ただいま。いい子にしてたか?」
「うん!ぽーちょん」
「ポーションだ。それは覚えなくていい。ほら、こっちを覚えろ。これは騎士の剣っていうんだ」
「きし?」
「そうだ。お前はいい武器屋になれるぞ」
「何言っているの。道具屋になるの」
「武器屋」
「道具屋」
「……」
「……」
穏やかな時間は幕を閉じ、新たな闘いが勃発しようとしていた。
って言ってはみたけれど、子供は子供の人生を歩めばいいと私も武器屋も思っているので、結局平和なんだけれどもね。
あ〜、幸せだ。
完
えっ?男の子か女の子かどっちだって?
う〜ん。両方、になるかも。
実はもう一人、今お腹の中にいるんだ。
武器屋には夜言うつもり。
どんな顔するかな。




