終わりに向けて:2
「あの……そんなに見られてたら食事ができないんだけど」
「そうか、悪かった」
さっきから何回目だろう、このやりとり。
悪かったと言って武器屋は向けていた視線を自分の前にあるお酒と肴に戻すが、それも束の間。肴を一口つまんで、また視線を私に戻す。
武器屋は今日、一滴もお酒を口にしていない。
そして、あからさまな視線とその態度で解らないほど私は馬鹿ではない。
その結果、私の方が次々にお酒を口にしていく。
イクダールさんとガイツさんは「ちょっと話があるから」と早々に空いたカウンターに移っていった。二人で話ながら時々こちらを向いているのか、視線を肌に感じる。
私はと言うと恥ずかしくて二人の方は見ることができない。
いつまで続くんだろう、この羞恥状態は。
今なら恥ずかし熱でお湯が沸かせるかも。
「あの……」
「なんだ」
「見るのを止めて」と言おうと思って意を決して武器屋の方を見たら、瞳が。
瞳がとても甘い。
ふるふると首を振った。
流されそうになっちゃう。
隣人は女性慣れしてるし、私に仮に心を持っていてもそれは一時的なもの。だいたい、私は明日この町を出ていく。
そう、出ていくのだ。
ガイツさんに渡したのはあの店の譲渡書。
と言ってもガイツさんは道具屋を経営する資格は持っていないから、建物と土地の譲渡書だ。
店の道具は閉店してから全て道具袋に詰め込んだ。
組合に閉鎖申請を今朝してすぐ受理の返事が返ってきた。
明後日には新しい道具屋の人が引っ越してくるだろう。
私はさすらいの道具屋になる予定だ。
今日は宿をとって、明日さすらいの道具屋に必須な品物を並べる敷物を買わないと行けない。
あと、組合に行商人の証を貰って、それからどこに行こうかなぁ。
そこまで考えて私は武器屋を見た。
「ん、なんだ?」
赤い瞳が愛しそうに私を見ている。
そうだ。私は明日この町を出ていく。
だから、会うのは最後だ。
最後だから流されても、流してもいいよね。
それは凄く勇気がいることだけど。
私は更にじっと隣人を見た。
褐色の肌に赤い髪。がっしりした肉体に首の傷。
私の好きな人。
住み慣れた家とほぼ全財産とかえてもいいくらい好きな人。
そして私は言葉の爆弾を落とした。




