転機の終わりがけ
こんなに頭を使って疲れたのは久しぶり。答えがある勉強の方がまだよかった。
「で、どうしたの?」
二人っきりになって開口一番、イクダールさんはそう聞いてきた。
結局宿屋はこの村にはなく、村長さんの家に泊めてもらうことになり、荷物を降ろしたのは太陽が一番高く昇っている時間だった。この村は曇っていて、太陽は見えないけれど。
客人用の大きめのベッドに腰かけると、イクダールさんは私を横へと誘った。
「武器屋が無事だったのに、まだ沈んでるわよ」
「……無事だって解って嬉しいんです。本当に安心したんです。でも、安心したら何で私には何も言ってくれなかったんだろうって。私は隣人にとって何でもない存在だったんだなーって思っちゃって」
失恋した、とは言いたくなくて言葉濁しをしたけれど、やっぱり告白する前に振られたってことになる。
それより。
隣人もちょっとは私を気にしてくれてるんじゃないかと勘違いしていた自分が恥ずかしい。
「復讐って、自分の闇みたいなものでしょ。元々誰にも言うつもりがなかったんじゃないかしら……何でもない存在ではないと思うわよ」
「そうですかね……」
確かに、仮に私の大事な人が殺されて、私が復讐を決意したとする。決意しても、皆に復讐を宣言したりはしないだろう。反対されたくなくて、心配かけたくなくて黙って復讐したかもしれない。
そっか。
そうかもしれない。
でもなぁ……。
ぐるぐる考えがループしだしたので、私はイクダールさんの肩にしなだれかかった。
ここ最近は、いっぱい感じたり考えたりで疲れちゃった。甘えて少し目を閉じさせてもらおう。
「……寝たの?仕方ないわねぇ」
イクダールさんの声が夢に落ちる寸前に聞こえる。
「考えすぎなのよ。誰がみたって焦れったいのに」
ふんわりと柔らかい布が掛けられ、私の意識はそこで夢に落ちた。




