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転機:5

やっとご対面できた。


ペガサスの羽を使って、瞬間的に移動すればそこは空気が重く感じる村の入口だ。

本当に太陽が雲で遮られていて、言わずもがな暗い。


「想像以上にどんよりした村ね……あ、ガイツがいたわ」


村の入口から少し奥に行った所にガイツさんがいた。

遠目からでも解るが、彼は右腕と右目に包帯を巻いている。

こちらに気づいたみたいで手を挙げる。

ガイツさんを見たら、足が勝手に動き出した。


「あ!ちょっと!雨でぬかるんでいるから、転ぶわよ!」


そんな台詞が後ろから聞こえるが、そんなこと言われたって足が勝手に走るんだもの。


「よお、嬢ちゃん」


笑いかけてくれるが目の包帯から滲む赤い色が痛々しい。


「ガイツさん、これエリクサーです」


「ありがとよ。だいぶ助かる」


立っているのも辛いみたいで、早速ガイツさんはエリクサーを口にした。



エリクサーでだいぶ楽になったのだろう。ガイツさんは簡単に説明をしてくれた。

武器屋は暗黒竜を倒しにこの村に来たらしい。そして、討伐にいく直前にガイツと合流。ガイツも討伐を一緒にすることにした。だけど……


「この村は過疎化が進んで武器屋も道具屋もねえんだ。だから途中でポーションとか足りなくなったんだ。一旦退こうとしたが、あの若造…突っ走りやがってな……ああ、嬢ちゃんが捜していた武器屋はこっちにいるぜ」


ガイツさんは案内する、と先立って歩き出した。


「いいねえ、若いのは。意識が戻ったらしっかり説教してやってくれ」


「……無事、なんですか?」


「……今んとこな。エリクサー与えりゃ起きはするだろう。ほれ、泣くな。泣くなら恋人の前で盛大に泣いてやれ」


ここだ、と案内された教会の扉が音をたてて開かれた。



「ああ、お帰りなさい……あら、そちらの方は?」


出迎えてくれたのは、三十を過ぎたぐらいの神父さまだった。

ガイツさんの認識を訂正していなかったので、私を「恋人だ」と紹介してしまったが、これは仕方ないよね。もうこのままにしておこう。


それより。


「あの、こんにちは……早速ですけど…」


「初めまして。ああ、彼ならそこの階段を上がってすぐですよ。どうぞ」


すみません、とお辞儀をして私は駆け足で階段をのぼった。

ガイツさんがまた「若いっていいな」と言っているのが後ろから聞こえる。


年齢なんて関係ない。

大切だと思える人の安否を早く知りたいんだから、急ぐのは当たり前だ。

すぐ様子を見たいのを、真っ先に会いたいのを我慢してたんだよ。


もう文句たらたら言ってやる、武器屋め!!



古びた部屋の扉を壊さんばかりの勢いで開ければ、そこにはベッドが一つ。そして一人横たわっていた。

隣人には包帯がいっぱい巻かれている。右目に首、右腕に左手首、お腹に両足。


そっとベッドの横に立つと、人の気配を感じたのか僅かにうめき声を出した。


「良かった……」


生きてて。


赤い髪をそっと触ると、一瞬身体が強ばったが、すぐ大人しくなった。


「心配したんだよ、本当に……」


片手で髪を撫でて、片手で自分の目から出てくる涙を擦りとりながら、やっぱり私は隣人が好きなんだろうと改めて思った。



「エリクサー飲ませないと……」


飲ませるというか食べる固めなグミ状のエリクサーを隣人は食べる力はない。

口移ししても、液状じゃないから噛むことはできないし……あ、気付け薬があった。臭いし美味しくない気付け薬。

持ってきたのは一番上等な気付け薬だけど、味は不味い。


ひさしぶりのキスが気付け薬の味。悲しいなあ。


気をとりなおして小さな瓶を開けると、相変わらずな刺激臭。

それを口に含んで、隣人の口に流し込む。こく、と小さく喉がなったのを確認してから口を離した。

あー、不味かった。




隣人は怪我のせいもあり、すぐには目が覚めないだろう。

ここで看病していいか神父さまに聞きに行こうかと隣人に背を向けた瞬間。


「…ん…まずっ」


隣人が起きた。





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