転機:3
胃が痛い。と思ったら頭も痛い。絶対隣人のせいだ。帰ってきたら、殴ってやる。
私達道具屋や鑑定屋、そして武器屋は経営資格を取るのが難しい。規則も厳しい。
規則は商品の管理規則や値段規則、更に私達自身の規則まである。
規則手帳を捲っていくと、イクダールさんが教えてくれた項目があった。
堅苦しく色々書いているが、要約すると、『30日以上経営者が戻らない場合は、どんな理由でもお店をとり潰します』と書いてある。
これは道具屋の規則手帳だが、個人規則は確か商人は全て同じだった筈。
武器屋がいなくなって2週間を少し過ぎていた。
イクダールさんは、隣人がどこに居るのか知っている。
でも、ギルドで働いている人は迂闊に情報を洩らしてはいけない。
以前、ガゼルさんの作品を渡しに行ったとき、推測の話ですらできなかったのに。
ギルド内ではなく私の店だから、できた話なのだろうか。
何にしろ、結構な手がかりを与えてくれた。
大丈夫かな。
結局、次の日の朝も夜明けと同時くらいに目が覚めてしまった。
10時って言っていたけどギルドは一日中空いているから、少し早めに家を出た。
お店には『臨時休業』の札を下げた。
急だったから仕方ないよね。
ギルドに相変わらず依頼書がいっぱい貼られた壁を通り過ぎ、受付に向かうとイクダールさんが呆れた様に笑って立っていた。
「ガイツを紹介するわね」
ガイツさんという人は、ちょっと荒くれた感じの中年の男性だった。
「よお、嬢ちゃん」
目尻に笑い皺があるガイツさんは無精髭が白髪混じりで、使い込まれた剣は握る部分が少し黒ずんでいる。
うん、イクダールさんが薦めるだけあるみたい。
すぐに本題に入り、条件や値段の交渉をする。
「解った。そうだな、金額的には……で」
「!」
……凄く高い。
ちらりとイクダールさんを見たけど、何も言わないから妥当な金額なんだろう。
一瞬、躊躇いが出てきたけど首を横に振った。
「なんだ?これ以上は悪いがまけられないぞ」
「いえ、違います。……それで、お願いします」
「まかしときな。じゃあ身支度したらすぐ出かける。イクダール、あれをくれ」
「はいはい」
受付からイクダールさんが出したのは。
「オリハルコン!?」
絶対無敵なオリハルコン。
何でも斬れるその剣は眩いばかりの光沢を出している。
ガイツさんは鞘に入っていないその剣を受け取ると、今まで身に付けていた剣をイクダールさんに渡した。
「普段は流石に持ち歩けなくてな」
それはそうだろう。鞘もないし、オリハルコンの価値は一生遊んで暮らせるぐらいある。
市場には出回っていないレア中のレアな品物だ。
私も勿論初めて見た。
「じゃあしっかりね」
「おう」
「お願いします」
「ああ、見つけても見つからなくても一週間後には一旦戻る。嬢ちゃん、安心しなって。俺は高いだけあるんだ」
そう言って、ガイツさんは出ていった。




