転機:2
帰ってきたら『一言くらい言ってくれたっていいのに』って拗ねてやろうと最初は思ったんだけど……。
次の週半ばを過ぎた。
「そろそろ戻ってくるのかな……」
少し長く感じたけれど、何の変わりもなく一週間が過ぎた。
今は、やっと夜が明けてきたという時間。
最近、遅寝早起きの毎日を送っている。特に忙しいというわけじゃないんだけど……。
外はまだ真っ暗で、隣も真っ暗。隣人は帰ってきたかも解らない。きっと帰ってきてもこんな時間だ、疲れて眠っているだろう。
昼頃に行ったらいるかもしれない。まだ朝早いしね。
よし、二度寝しよう。
そう思ったのに目がさえて眠れない。
「まだだよ、残念ながらね」
昼に行ったら、またしても出迎えてくれたのは組合から派遣されてきた中年女性。
「あの、どこに行ったのかご存じなんですか?」
「さあね」
ギルドに続き、組合の人も口が固い。
旅行かな。
ペガサスの羽を使わないで船旅とかしてるのかもしれない。
でも、なんだろう。隣人は色々行ったりしているみたいだけど、観光目当てで旅行する人ではないと思う。
ただ居ないだけで、不安になるなんて。
息抜きに休暇をとって遊びに出掛けている――そう思えばいいのに、実際にそうかもしれないのに、心配を胸に帰りを待つ以外、私にはできなかった。
そして五日が過ぎた。
夜、閉店の札を下げて店を閉めた後に中で片付けをしていると扉を叩く音がした。
「こんばんは、ちょっといい?」
「どうぞ、ちょっと片付け途中なんで散らかってますけど」
訪ねてきたのはイクダールさん。彼女が夜にこちらを訪ねて来たのは初めてだ。
カウンターの内側に招いて、お茶を出すと一口含んだ後、イクダールさんは隣を見た。
「武器屋、まだ帰ってきていないみたいね」
今武器屋にいる組合の人は通いで来ているようで、いつも20時ちょうどに店の明かりを消す。
20時を半に近づいた今は、勿論明かりは消えている。
隣人がいるときは、私より遅くまで明かりがついていたのに。
「まだみたいです」
「……そう」
「あの、イクダールさんはどこに行っているのか知ってるんですか?」
「……私がお薦めするのはガイツっていう冒険者よ。報酬は凄く高いけれど」
「え?」
「明後日までには行った方がいいかしら。彼、一ヶ所にじっとしていないから、ふらりといなくなっちゃうの」
「あの……」
「あんたたちって無断で何日まで休めるんだったかしら?」
「!……ガイツさんとイクダールさんって、明日何時くらいにいるんですか?」
「10時には居るわよ。そうだわ、明日も仕事だから私はそろそろ寝なきゃ。お茶ありがとう」
「明日10時ぴったりに行きます!」
そう言うとイクダールさんは「待ってるわ」と、足早に店を出ていった。




