転機:1
側にいて当たり前というほど、話すようになって時間は経っていなかった。でも、何も言わない間柄でもないと思ってた。
「貴方を憎む私を許してほしい」
そう言って彼女は去って行った。
解っている。
恨まれたって、憎まれたって仕方がないということは。
でも。
何だろう、心にじわじわと苦みが染みる。
「……あれ?」
隣に行くのもマフラーが手放せない冬の日、調合で小さいタガーが必要なので隣の武器屋に来てみれば、見慣れた配置に違う人がいる。
「あー、あの若造なら暫く休みだよ」
「こんにちは…休み、ですか?」
「ああ。来週半ばに戻る予定だね」
とても威圧感のある中年の女性がカウンターに座っていた。
清潔ながらも、多少男性特有の香りがいつもするこの店。
今は女性特有の香りがする。
「何がいるんだい?」
「調合に使うタガーを。あ、免許証です」
「どれ…おや?あんた隣の道具屋なのかい。てっきりアイツに熱をあげた町娘かと思ったよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「ちょっと待ってな」
取り出すから、と棚の鍵を開けた女性の言葉が気になるが、聞くに聞けない。
武器屋に熱をあげている町の女性がいるんだろうか。
その日は何だか飲みたくなって、ふらりとギルドと併設されている酒場に向かった。
大酒飲みではないけれど、ちまちま飲んで「眠い、あぁもう寝そう」って感じになるのが好き。ガゼルさんの作品を渡しにギルドに行った帰りに飲んだ時は、偶然来たという武器屋が連れて帰ってくれた。
いないのかぁ。
あーあ。