番外編:冒険者コスプレ大会
こんなに朝起きたくないと思ったのはひさしぶり。出たくないけど、イクダールさんが怖いので出場します。
「さあさあ!!やってまいりました!冒険者コスプレ大会!」
「「「いえーい!!!」」」
朝9時。
並々ならぬ熱意が集結して、広場に設けられた会場は人々で埋め尽くされている。
周りには出店、ギルドの全面協力もあり冒険者は強制出場、私も駆り出されてしまった。
そして今、更衣室と化した町長の家の一室でどの衣装を着るか友人に迫られている。
「私はこの衣装がいいと思うんだよねー。純白の祈祷師!純白なのに露出が激しくていい!!」
「発言が女の子のものじゃないよ……露出はちょっと」
「いいのっ!ならこれは?バニーちゃん」
「冒険者にバニーはいないよ……そして露出面積が更に増えてる」
目の前にはズラリと掛けられた衣装の数々。
どうやって集めたのか問いたくなるくらい持ってきた友人は、更衣室で貸衣装屋さんとなっていた。
「普通のはないの?皮の鎧と盾の……」
「そんなものはない!!」
「なに、まだ揉めてるの?」
笑いながら近寄って来たのは、近所に住む女の子。彼女はしっかり着飾って、この大会を充分楽しんでいる。
「これは?」
その彼女が差し出して来たのは、ショートパンツにぴったりとした服、胸当てだった。
「あー、いいね!盗賊のコスプレ!これ着て『貴方の心もいただいちゃうぞ』とか言ってみて!」
「頭のネジが外れたのかな……」
「…そうかも。でもこれが一番いいかな。着替えてくるね」
衣装を持って簡易試着室に入って着替えてみたら不思議なことにサイズがぴったりだった。
すごい、測ってないのに。
友人の恐ろしさをまた一つ知ってしまった。太ったらすぐ見抜かされるだろうな。
サイズを知られてしまったことはもうどうしようもない。
諦めて、着替え終わると鏡を前にしてターンしてみた。普段着に胸当てをつけているといった『コスプレ入門編』みたいな軽い感じなので思ったより抵抗はない。それどころか、祭自体がひさしぶりだからちょっと楽しい。
「どう?」
「いいねー、可愛いっ」
「髪結ってあげようか?」
「ついでに化粧も濃くしようよ」
そうして顔や髪を弄られること数分後……
「……別人みたい」
そこには見知らぬ私がいた。
「さあ!続きましてエントリー50番から60番!」
「「おー!!」」
会場はまだまだ熱気に包まれて迫力がある。
緊張したけれど、前の人についていけばいいだけだし、隣には知り合いがいたので安心してステージにあがった。
高い所から大勢の人々を見下ろすのは初めてで意外に楽しい。
皆が蟻というか大きいゴマみたいに見える。
これから司会の人が順番に紹介を始めるんだけど。
「それでは何か一言!!」
えっ!?
そんなこと言わなきゃいけないって聞いていない!!
それは他の皆も同じだったらしく、コメントに困る人や上手いことを言って場を盛り上げた人もいる。
えー!!ちょっと!
困る。どうしよう。次は私だし。
えっと。
名前を言われて前に一歩出る。
えっと。
口笛や拍手が聞こえる。
えっと。
司会者が名前とコスプレについて説明してくれてる筈なんだけど、耳に入らない。
そして。
「それでは一言!!」
えーい。もう!!!
「貴方の心もいただいちゃうぞ!!」
終わった私!
「まさか言うとはねー!!」
ステージから降りた私は壁に頭をぶつけた。友人が爆笑しながら近付いて来たのを無視するが、皆の視線が痛い!
恥ずかしい!
穴があったら入りたい!
「いやあ、ファンがまた増えたと思うよ」
先に終わってた顔見知りの人が何人も、慰めなのか話し掛けに来てくれた。
「あんた、よくあんな台詞言えたねー」
「まさか、私の台詞まんま言うとは」
「あら、あんたが考えたのかい。やっぱりねぇ。この娘そんなこと言うタイプじゃないし変だと思ったんだよ」
いつの間にか話の輪に入っている友人を睨んでも、友人は笑ったままだ。
逆にいい仕事をしたと皆に褒められている。
「もう!いきなり一言なんて思いつかなかったんだもん!恥ずかしい!暫く店休みたい!!」
「何言ってんの。ポーズまで決めてたじゃん」
「それは、言葉だけだと盛り下がるかと思って!」
「はいはい。可愛かったよー」
生温い視線を向けられ、もう何も言えなくなった私は誓った。
今日は潰れるまで呑んでやる!!
道具屋のコスプレについて感想
Bさん:
「まあ、コスプレはよかった。ポーズもまだいい。だが、あの台詞はな……」
Iさん:
「恥ずかしながら言ってるあの顔かわいかったね。ただあの台詞がね…。でもあの台詞じゃなかったらあんな可愛い顔してないから、結果的に運び屋はいい仕事したと思うよ」