?アイテムがやってきた:武器屋視点
普通が一番って思ってる男は少なくない。特に普段が波瀾万丈な生活を送っている冒険者や賞金稼ぎは。
あいつは馬鹿だ、と俺は時々本当に思う。
裏の森であいつが逃げた後、怒りに任せて木をぶん殴った。
ミシミシと音を立てて倒れる木から鳥達が一斉に飛び立つ。
「…ったく」
まさか泣かれるとは思わなかった。色事で鳴かれるのはいいが、ちょっとあいつには早かったみたいだ。
確か腕に酒を持ってたな。
俺の所に来る前にあの二人のどちらかのところに寄ったのだろう。よく突っ掛かってくる冒険者は居場所が不特定なので、おそらくイクダールの奴の所へ寄ってきたんだろうと推測づけて、俺はギルドへ向かうべく足を進めた。
「あら、いらっしゃい」
ギルドに入るとイクダールがすぐ出迎えてくれた。
「その様子じゃ駄目だったみたいね」と言う辺り、あいつに吹き込んだのはこいつみたいだ。
「誰かしてくれそうな奴知らねーかって言ってきたぞ」
出された酒を一気に飲み干すと、イクダールは苦笑いをした。
「やだ、あの子ったら。私はあなたにお願いしたらって言ったのよ」
それから事の経緯を聞き、俺は本気で呆れた。
まさか、ギルドに依頼しようとするなんて。馬鹿だ。そう言う以外言葉が見当たらない。
ギルドに依頼するには報酬が必ずいるから、キスを見知らぬ男から買うようなもんだ。
「で、あなたはそれに怒って、怖がらせちゃったわけ?」
「まあな」
勘が鋭いイクダールには全て話す気も起きず、肩を竦めると彼女は溜め息をついた。
「慎重に攻略しないと。あの子からすればあなたは強敵すぎるのよ。深眠酒、渡しておいてよかったわ」
道具屋が持っていたお酒の名前を聞いて、イクダールの作戦が解った。
「お前にも付き合って貰うからな」
「勿論。狼を止めなきゃね」
「そこまで飢えてない」
「あら」
それから夜になるまで簡単にこなせるギルドの依頼を受けて時間を潰した。
店は臨時休業だ。
夜。
そーっと二階の屋根づたいに俺とイクダールは登った。
窓から中を覗けば、だらしない格好で眠っている隣人が見える。
「年頃の女の子が淫らな格好で寝ちゃって。テーブルにお酒あるからやけ酒したみたいね」
確かにコップと酒が置いてある。これでは朝まで目を覚まさないだろう。
そっと窓を開けると鍵がかかってなかったらしく、すんなり開いた。無用心だな。
「さっ、どうぞ王子様」
イクダールが恭しいメイドの様に頭を下げる。芝居がわざとらしい。
「お前は向こうむいてろ」
他人に見られる趣味はないと言えば、イクダールは大人しく入ってきた窓の方を見た。窓から反射で写るそれを見ようと目をしっかりと開けている。
趣味はないが、見られても別に抵抗はないと何も言わなければ、鏡越しにイクダールが笑った。
それよりも、と顔を眠ってる女性に近づけると、それを待っていたかのように唇が少し開かれる。
次は起きているときに味見させてほしい。
そう思いながら、わずかに乾燥した唇にそっと自分の唇をつけた。
取れた仮面を枕横に置いて、そっと立ち去るとギルドに戻った所でイクダールが堪えきれないようにニヤニヤしだした。
そして、こともあろうか道具屋を心配してイクダールに相談しようと来ていた女性冒険者にペラペラと事の顛末を話し出した。
こいつは何考えてんだ!
案の定、冒険者は今までにないくらい俺を睨んでくる。それは妹を盗られた姉の様だ。
「ちょっと!!ふざけんじゃないわよ!!」
ナイフをいきなり投げてくる行動が怒りの大きさを物語っている。
「ギルドん中で投げるな」
心臓ではなく肩を狙うあたりがまだまだ甘いが、筋は悪くない。ナイフを取ると、机に突き刺した。
「ちょっと、机にささないでよ」
イクダールに怒られ、仕方なくナイフを抜き取り冒険者に返すと、まだまだ怒りは収まらないらしく攻撃しようとしてくる。
「止めなさい。それ以上すると出入り禁止にするわよ」
イクダールに言われ、攻撃体勢を解いた冒険者は俺を睨んだままだ。眉間に皺がつくぞ。
「次やったらタダじゃおかないから!!」
もうこの話しはおしまい!とばかりに叫ぶが、まだ怒りは収まらないみたいで地団駄を踏んでいる。まだまだ若い証拠だが、感情が真っ直ぐなのはある意味羨ましい。
「よし、今日は食べるぞー!武器屋、あんた奢れっ!!」
こうして今日は冒険者の一言で、俺、イクダール、冒険者の三人で暴飲暴食で幕を閉じた。と思いきや、朝までご飯会は続いた。
あんなに食ったのは人生初だ。
冒険者の胃袋はどうなってんだ……。




