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?アイテムがやってきた:2

どーしよ!

キスってなに?


と言える可愛かった子供時代に戻りたい。

鑑定屋のお婆ちゃんに他に方法を聞いても、これが一番手っ取り早いと言われた。

確かに他の方法を聞くと時間がかかるし、キスは最善の選択だ。

ただ……女心を解ってほしい。


迷っていると「まだしたことないのかい」と、お婆ちゃんが孫を見るかのような優しい視線をよこした。それがいたたまれなくて首を横に振る。流石にキスはしたことある。が、何年前か自分ですら覚えていない。


「キスですね、解りました」


お婆ちゃんにお礼を述べて代金を支払うと、私はペガサスの羽で自分が住む町へと戻った。




ペガサスの羽は町の入口までしか飛ばしてくれないので、黒いローブに金ぴか仮面という怪しい出で立ちで悪目立ちしてしまった。なんのいじめだろう、この仕打ちは。

とにかく恥ずかしくて小走りで店に戻ろうとしたけど、ふと足を止めた。朝、追い返しちゃったし謝らないと。


最初に来たのはギルド。

ギルドに入るとイクダールさんと他数人がいた。

怪しい格好の私に警戒するように幾人かが立って近づいてくる。


ちょっと怖くて後退りすれば、イクダールさんが彼らを制止してくれた。


「その仮面、何か解ったの?」


カウンター席に案内されて、座るとお茶を差し出された。東の国から伝わった緑色のお茶は心を落ち着かせると、最近女性の間で人気だ。

一口飲むとほのかな苦味で私はゆっくりと息を吐いた。



「それより、朝はすみませんでした。追い返しちゃって」


「いいのよ、私達もふざけすぎたし。で?」


「それが『呪いの仮面』の一種で、その…解き方が…異性からのキスらしくて」


「へー、ふふっ、キスねぇ……」


「それこそ笑い事じゃないですよ」


「ごめんごめん、真っ赤なあんたが可愛くて」


「してくれる宛もないし……ギルドに依頼出していいですか?」


言いながら、我ながら妙案だと思った。その方が後腐れなさそうだし、ギルドは変な人を選ばないだろう。




「そうねー、その前に武器屋にでも頼んでみたら?」


本当にギルドに依頼しようかなと考えていた私に返ってきたのはイクダールさんのそんな言葉だった。


「……え?」


聞いた言葉が信じられなくて再度聞き返してしまったけど、返ってきたのは同じ言葉。


「知らない野郎にされるよりはいいんじゃない?たかがキス、されどキスだし、あんたは特に慣れてないみたいだから赤の他人とするのには抵抗あるんじゃない?」


「でも、私なんかとキスなんて嫌がるに決まってますよ」


想像できる。「何バカなこと言ってんだ。他所をあたれ」と言っている隣人。




「取敢えず聞いてみて、駄目だったらこのお酒飲んで寝なさい」


イクダールさんがくれたお酒は深眠酒。その名の通り、よく眠れるお酒だ。

有り難くいただいておこう。今日はきっとこのお酒にお世話になりそうだから。


隣人はきっと断るだろう。美人だったり可愛かったりするならまだしも私は本当に平凡な女だし、スタイルも普通だし、何より色々お世話になってばかりの手のかかる女だ。

わ、なんか自分で考えてて虚しくなってきた。



気分が下降一直線だったのに釣られてとぼとぼ下を向いて歩いていたら、「おい」と言う声が近くで聞こえた。


キョロキョロしても誰もいない。

ちなみに今は裏手の森に来ている。武器屋と道具屋のすぐ裏にある小さな森だ。私はたまに散歩に来たりする。


「上だ」


そうして上を見上げれば木の上に立っている隣人がいた。

私を随分上から見下ろして「仮面はまだとれてないのか」と言うと、下にジャンプして降りてきた。

さすが武器屋。華麗な着地に思わず拍手しそうになる。


「朝はごめん。あまりにも恥ずかしくて八つ当たりしちゃって」


「そんなことはいい。それより何か解ったか」


「うん……なんでも呪いを解くには男性と『キス』しないといけないらしくて…」


「は?」


あ、武器屋が固まった。




「誰かしてくれる奴は?」


その質問に悲しさを感じながら、首を横に振った。ここ数年、そんな相手はいません。


「そうか…」


それきり武器屋は黙ってしまう。訪れた静寂に私は小さく焦ってしまった。

予定では、「そうなんだ。だから、お願いしていい?」と軽く言うつもりだったのに……困った。この沈黙は言いにくい。


「誰かしてくれそうな人、知らない…よね」


言いにくさのあまり、ぽつりと呟けば一瞬にして武器屋に睨まれた。こわっ!!本気で怖い!


「お前はっ……」


「え…っ、な…!?ごめんっ!!」


今にも殴りかかってきそうな武器屋に驚いて反射的に謝ってしまった。身体が一瞬びくって動いてしまって、それから怖くて身体が逆に動かなくなる。

それを見た隣人は何を思ったのか私に近づいてくる。

真っ赤な瞳に威圧感抜群の狩人のような鋭さ。でも、口角は上がり、何かを楽しんでいる。



「お前の目の前にいるのは誰だ?」


私の黒のローブを外し、耳元で優しい声音で囁く。

いつもの声に掠れと甘さが加わった知らない響きに脳内が痺れ、これは誰?と逆に問いかけてくる。


本当に目の前の人は誰?


視線を交えると妖しく笑ったまま答えを促してくる。

顔は笑っているのに瞳は笑っていない。

きちんと答えないと、食い殺されそうな勢いだ。


「ぉ……」


男の人。


そう言おうと思った。


思ったんだけど、心臓がさっきから爆発しそうで、実際には小さく口を開くことしかできていない。


「お?」


隣人は手を私の頬に沿えると身体を麻痺させる声のまま、私の顔を覗きこむ。

私が言った一文字を復唱して、先は?と目で促す。




「…男のひと…です」


「なら目をつむれ」


そう言われて、ひときわ心臓が跳ねた。頭のなかがぐるぐるして訳が解らない。でも本能で一歩下がった。


まだ。


まだ、駄目。


「ううっ……」


さっきから我慢していた涙腺が崩壊してしまい、目から涙が溢れてくる。

違う、泣きたいわけじゃないのに。


「…ま、だ…駄目っ」


その場に居ることができなくて、気がついたら走って逃げてた。




そのまま部屋に駆け込んで鍵をかけた。

心臓はまだバクバクして、訳が解らない。


知らない一面。


真っ赤な瞳。


あれは誰。


思い出したら顔が熱くなってきて、その思いを誤魔化すように私は手に持ってた深眠酒をコップに並々と注いで飲んだ。


これが夢だったらいいのに。


最後にベッドに倒れ込んで、私は眠ることで現実逃避をした。




「……ん…」


眩しい。

陽の光で目が覚めて、私の一日が始まった。


今日も仮面と共に生活かぁと思うと憂鬱で仕方がない。

やっぱり時間はかかるけど他の方法で解呪をしようかな。

でも二日続けて、お店を閉めるわけにもいかない。


まず身だしなみを整えないと。昨日はお風呂にも入らず眠ってしまった。今が盛りの女の子というのに、髪を手でさわると絡まりあってるし、顔も洗わず寝たので脂ぎっている。

と、顔に手を当てたところで気がついた。


仮面がついていない!!


ベッドを見れば枕横に仮面が置かれたかのように鎮座している。


「やったー!!」


思わず叫んでしまい、嬉しさのあまり外に飛び出た。

ああ、空気が美味しい!


清々しい朝を満喫していると、ちょうど隣人が出掛けから帰ってきたようで、私を見て笑う。


「仮面とれてよかったな」


そこに昨日の知らない彼はいなかった。いつもの隣人は、「もう変なのに手つけんなよ」と後ろ手を振って自分の店に入っていく。


「ありがとう」


聞こえるように大きめな声に言えば、扉を閉めながらこちらを振り返った。

私に向けられた瞳は、笑顔は、今までと変わりないんだけど……。


私の動悸は激しくなった。





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