番外編:武器は売られてやってきた
『馴れてない奴は武器を持つんじゃない』とプロは言う。
早速次の日。私は朝一に隣の武器屋に行った。
「帰れ」
「何で。私は客なんだけど」
お店に入ると彼はしゃがんで何かをしていた。
ドアの音で「いらっしゃい」と、言ったまではいいものの、顔を上げて私を見たとたんに帰れ発言だ。
「はぁ?また何かの作成にでも使うのか?」
赤い瞳がすっと細められる。
宝石に勝るとも劣らない綺麗な色の瞳は、今詮索するような眼差しだ。
カウンターから出てきた隣人は私の前に立ちはだかる。
ちょっと構えてしまうのは仕方ない。条件反射だ。
「…最近、手荒な人達が増えてきたから護身用にと思って」
「必要ない。俺を呼べ」
「いざそんな状況になってから呼んだって間に合わないでしょう?」
「素人が武器を持つと返り討ちにあう」
「いや、あくまで護身用だし、飾っていて相手を牽制できれば、くらいで…」
「飾るだけならで見た目は立派なハリボテでいいだろう」
「いや、だから万が一ってことも」
「素人が武器を持つと返り討ちあうと言ってるだろーが」
……誰か、このやり取りを止めてほしい。
結局らちが明かないので買うのをやめて家に戻ってきた。
他のところで買えばいいし。
少し気が重いまま、カウンターに座ってると扉が開き、お客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。踊り子用のドレスって置いてます?」
「こちらにありますよ。当店は紅いドレスが6500ゴールドで、セクシーなドレスが18000ゴールドです」
「そうねぇ、セクシーなドレスが欲しいけどお金が少し足らないかしら」
「何か不要なものがありましたら買い取りますよ?それを足しにしていただくこともできますが…」
このセクシーなドレスは着る人を選ぶ高価なドレスで、なかなか買い手がいない。
たまに買って行く人はいるにはいるが、大体似合わない。
しかし踊り子さんは、それはそれは美人で、セクシーなドレスを難なく着こなせそうなタイプだった。
ドレスもこのお客さんに買ってもらえれば本望だろう。
「じゃあ、これとこれと、これを売れば足りるかしら」
机の上に出されたのは、毒粉に麻痺薬に、火炎瓶。
「買い取りが、毒粉80に、麻痺薬80、火炎瓶が120ゴールドですから280になりますけど」
「バトルアクスもここで売っていいのかしら」
「大丈夫ですよ。斧は520になりますね」
「あ、じゃあ足りるわ。はい、18000」
「ありがとうございます」
踊り子さんは早速着ていくと、試着室で着替えた。
「どう?」
…似合いすぎる。
ここまで似合う人はそうそういないだろうってくらいぴったりだ。
「すごくお似合いです」
感心して言うと、気を良くしたのか踊り子さんは「また来るわね」と言ってくれた。
「今売った毒粉とかは人間にも効くから、よかったら護身用に使ってね」
「そうなんですか」
「ええ、踊り子って夜の職種でしょ?やっぱり酔っ払った人は枷が外れやすいから、必要でたくさん持ってるの」
「大変ですね。お気をつけて」
「ありがとう。道具屋さんも」
踊り子のお客さんはそう言うと満足そうに出ていった。
カウンターに並べられた護身用の品物。
バトルアクスは使いこなせないが、他のものは非力な私にでも扱いやすい。
全部、魔物が落としやすい物だから、使ったらギルドに依頼して手に入れればいいし。
運がいいな〜、私。
いそいそとカウンターの下に置いて、いつでも使えるようにした。
これで私は無敵だ。
カランと扉が開く。
「いらっしゃいませ」
お客さんを出迎えた私の笑顔は、きっと晴れ晴れした表情をしている。