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上を向いて歩いていたら、マンホールに落ちた

作者: 玄草 暁

夜中にハイテンションで書いた掌編です。ただ矛盾はないと思うので、大丈夫です。


上を向いて歩こう。

なんてポジティブな言葉だろう。

就職試験を受けた会社から昨日不合格通知が来て、また落ちてしまった僕に元気をくれるのだ。

でも、たまには下を向いて歩こう。

何故なら、僕のようにたまたま蓋が開いていたマンホールに落ちてしまうからだ。




なんだか、落下時間が異常に長い気がする。

こんな事になるんだったら、今日受ける就職試験に落ちてしまう方がマシだと思うのは僕だけだろうか。

マンホールに落ちたら、そこは雪国や不思議の国だったら僕はどう反応すればいいだろうか。

僕は、落ちる先がただの下水道であることを望んでいる。

何故なら、ただ警察に電話すればいいのだから。

最近は、ゴキブリが出たくらいで警察を呼ぶ輩がいる世の中だ。

僕のような珍しいケースの方が、仕事のやりがいを感じるだろう。

非常に対処が面倒くさいのは、同じであるが。

落下による衝撃で起きた体内時計で数分くらいの気絶のあと、気が付いた僕は目を疑う。

さて、見上げれば、立ち並ぶ高層ビルの間を縫うように空飛ぶ車がビュンビュン飛んでいるではないか。

すまない、警察よ。これじゃ呼ぶに呼べない。ここは、どこだ?

見上げれば、下水道の天井と思っていたのに雲一つない蒼天のもとに僕は立っていた。が、こんな事に驚かない方がいい。

何故なら、これは夢なのだから。

落下の衝撃で、ありもしないような景色を……夢を見ているのだろう。

夢落ちという展開にしていた方が後々収拾がつく。うん、面倒くさくない。

自分の頬をつねってみる。

夢から目が覚めない。

さすがに、ベターすぎただろうか。

最近はこれぐらいで起きないのか。

現代の過眠症も進歩しているじゃないか。もしかすると、現代の科学の進歩を凌駕しているのではないか。

スタントマンのような真似をして、わざと体を打つようなことをしているのだが、確実に体にはダメージが蓄積されているのだが、夢から覚めないようだ。

さて、どうしようか。

ドラ○エのようなRPGでは、村人Aから村人Ωまで話しかけてみれば、とりあえずの展開があると私は踏んでいるのだが、、、

人が一人もいない。




いや、別に近くに立っている着ぐるみを一人を数えてもよいのだが、僕はあくまでそれを一匹と数えるのだ。

そろそろ僕の腕時計が、会社の就職試験の集合時間を示すみたいだ。

これで、確実に不合格通知が僕の所に届く。

そして、それで違う種類の不合格通知が100枚揃う。

帰ったら、明日のために赤飯でも炊こう。




「おい、そこの君。明らかに怪しい人物が居たら、話しかけるのが定石だろ。こっちは、ずっと立っているから疲れているし、なにせよ、着ぐるみは中が蒸し暑いんだよ……」

突然、僕はさっきから僕の近くに立っていた着ぐるみに話しかけられた。

RPGとしては異例の巻き、というチートだ。

そろそろ枠としてキツくなってきたのだろうか。

そう考えていると着ぐるみにまた話しかけられる。

「もしかすると、君の名前は『山田太郎』ではないか?」

ずいぶんと失礼な人だ。そんな平凡な名前を持つような人がそうそういないじゃないか。

「どうして僕の名前を知っているのですか?」

僕の名前は確かに山田太郎だ。

こんなわかりやすい名前だからこそ余計に厄介事に巻き込まれる。

就職試験の度に、偽名だと思われて毎回毎回のように戸籍謄本持参を受ける会社から持ってくるように通達されるのだ。

「ふふふ、どうしているかわかるかい?……そうだ、その通りだ。私は20年後の君だからさ」

どうでもいいことなので、僕は無言を突き通していたら、勝手に相手方から素性をあっさりバラしてきた。

そして、着ぐるみから這いだしてきたのは、汗塗れの僕に似た人だった。

薄い髪の毛を増毛し、小皺を少しなくせば、確かに僕に似ている。

「君を未来に呼んだのは、言うまでもない。20年前の君はその時、大企業と名高いXY社を受ける予定だったのだろう?」

20年後の僕は、すでにびっしょりと濡れたハンカチで汗を拭っている。

「ええ、確かに。でも、もう無理です。」

僕の腕時計は、もうXY社の就職試験が始まっていることを指し示していた。

「それで、正解だ。私は20年前、XY社の就職試験を受け、見事に入社した。そこまでは順調だった。が、途中入社ということで色々といじめられたりして辛い思いをしてきたんだ。まだ、平社員だし。だから、その過去を変えるために今日、君を未来に連れて行き、XY社を受けるという分岐点から外れた。そう、ここで君の未来、私の過去は変わったのだよ。ここで、今までの過去が急激に変わったことで情報が修正される。より良い過去とはならないが、今よりもいい過去になりそうだ。というわけで、君は帰っていいよ」

20年後の僕は非常に早口で何を言っているのかわからなかったし、聞くのも面倒くさかったので、スルーしていたが、最後の帰っていいという言葉だけは耳に入ってきた。

「帰っていいんですか」

やった。マジで嬉しいよ。

「そうだ。さぁ、目をつぶって」

20年後の僕の言うとおりにすると体が段々ふわっと浮く感じがする。

意識が朦朧としていく……




気が付くと、家にいた。

まずは、暑いと感じた。

スーツをビシッと着ていたからだ。

家は、非常に散らかっていて足の踏み場もないけれども、まあこれが一番落ち着くのだ。

外が暗い。

マンホールに落ちた時は、まだ朝だったのに。

ふとカレンダーを見ると、気が付いたことがある。

XY社の就職試験は明日だったのだ。

なんと自分はおっちょこちょいなのだろうか。

良かった。

僕は安堵の溜め息を洩らす。

何故なら、この会社の就職試験に落ちればもうさすがに後がないと思っていたからだ。

だから、急いで試験の始まる5時間前に家を出たほどだ。

ちなみに会社までは歩いた30分程で着くのだが。

未来の僕には申し訳ないが、明日の就職試験は是非受からせてもらおう。




バシッ。

洗面台の鏡の中に映る自分にむかって、頬を叩き、活を入れる。

少々薄くなり始めた髪の毛、ちょっと出っ張り始めた僕のお腹。

明日、35歳のバースデーを迎える僕は明日の就職試験のことで頭がいっぱいになっていた。




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