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紫陽花の七変化  作者: マツ
春日遅々
8/23

08 報告

 ここは一つ、彼を驚かしてやろうと思う。



「ねぇねぇシロ」

「なんだ」

「おいら、明日から働きに行くわ」

「……………………え」



 成功のようだ。

 シロはポカーンと口を開けてこっちを見つめている。あれだけ怖がられているシロがまさかこんなお間抜けな顔をするなんて、誰も知らないだろうな。



「ハハハッ、間抜けな顔ォ~」

「はたらきに、」

「ん? あぁ、行ってきます」

「いつ」

「明日」

「どこで」

「それは秘密」

「教えろ」

「なぜ」

「大家だから」

「解せぬ」



 詰まることなく言い合っていると、だんだんシロの眉間が大変なことになっていた。気づいたときには何か背景に………なんて言うんだろ、鬼神?



「なんのしごとだ」

「シロ、どうしよ。目の前に花畑が広がってる」

「そこに永住してろ」

「酷いわぁ」



 ついにはゴリゴリと頭を脇差の柄とシロのこぶしに挟まれた。あの、普通に喋ってるけどですね、痛いものは痛いんですよ。



「しーろー。うっかり渡っちゃいけない川を渡ってしまいそうなくらい痛いよー」

「じゃあ喋れ」

「あいうえお」

「よし、このまま一日な」

「接客業です。これ以上は黙秘」

「接客業……か」



 耐えきれずにそう言うと、激痛から解放された。涙目で睨んでやるがシロはどこ吹く風、こっちを見てやしない。



「それ、誰に紹介して貰ったんだ」

「一郎。あ、」

「…………へぇ」



 しまった、と思ったときには既に遅く、空気が一瞬にして凍った。シロの眉間もいつにも増して凄まじいことになっている。あぁ、背景に再び鬼がっ。睨んでる睨んでる。


 そんなに嫌いか、兄。



「そうかそうか一郎が、か」

「う、うん。ソウナンデスー」

「……もしかして、いかがわしいヤツじゃないだろうな」

「はい?」



 この人、何て言いやがりましたかね。

 ジッと見つめれば至極真剣な面持ちでシロは喋りだす。



「最近そういうの増えてるし。女歌舞伎とか湯女とか…………」

「ねぇねぇシロ、女で接客業は何もそれだけじゃないんだからさ」



 今、信じられない言葉を聞いた気がする。女歌舞伎? 湯女? どれも幕府の取り締まりに引っ掛かるじゃないか馬鹿野郎。先ほどと変わらずブツブツと呟くシロにため息がでる。


 納豆をぶっかけてやろうか。



「そんな仕事は絶対に認めないからな」

「頑固親父か! シロはいつからおいらの親父になったんだい」

「煩い。取り締まりに違反するようなことしてたら野火でも締めるからな」

「あーはいはい。そういう事ね」



 そうだったシロはここ、杉浦の治安維持をしないといけないんだっけか。あぁだからこんなに必死になってたのか。

 一瞬おいらの身を案じて言ってくれたのかと思って少し、ほんっっとうに少し感動したんだけどな。



「言われなくってもそんな仕事はお断りだよ」

「本当だろな」

「本当本当。そんな仕事紹介したら今頃一郎は海の藻屑になってるよ」

「ならいい」



 そこでようやく顔を緩ませたシロに、おいらは安心して息を吐いた。

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