第2話 メモリコ一択でしょ!!
私は、この高校で生徒会の副会長を務めることになった。
元々はそういう仕事とか目立つ役職に興味はなかったのだが、
彼氏の臨の影響がそういうことをとにかくやるタイプの人で、
どうやら私も影響されてしまったらしい。
募集が始まってからすぐに、彼が中学生の時やっていたしと思い副会長に立候補。
結果競合相手がいなくて、信任投票。
最も簡単に通ってしまった。
中学時代、臨はいつも私との時間をたっぷり作ってくれていた。
それを見ていた私にとって、生徒会というのは意外と仕事がたくさんあるわけでもないものになっていたのだが…
現実は全く違った。
行事前に忙しくなるのはわかっていたことだが、
正直そんなものはあまり関係なかった。
あまりに忙しかったので、臨が学校まで会いにきてくれた日に
「臨って中学の時生徒会どんくらいの頻度だったの?」
なんてさりげなくきいてみたら、何食わぬ顔で
「んー行事前は毎日だったけどな…普段は週に三回か四回じゃない?」
えぇ…
行事前で週に四回ほどなだけで嘆いていた私がバカみたいじゃないか。
正直週に一回もないと思っていた。
別に生徒会の仕事を楽なものと思っていたつもりはないが、
臨があまりに私との時間を作ってくれていたから、本気でその程度だと信じていたのだ。
「臨って生徒会ほとんど出てなかった…?」
「うん。まあそうねー」
あ、確かに。
よく考えたら付き合う前から全然生徒会出てないって噂だったな。
なのに辞めさせられなかったのは、彼の人望と能力のおかげなんだろう。
そういえばこれをきいたことがなかった。
「臨。臨ってなんで生徒会に入ったの?なんか事情があって出れなかったならわざわざ入ることもなかったんじゃない?」
言ってから、自分の言い方が嫌味なことに気づいた。
慌ててフォローしようと彼の顔を見ると、別に気にしてなさそうだった。
それとはまた違った感じで、神妙な顔はしていたけど。
「これもやっぱりなんか事情があるの?また話せない感じ?」
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私が、《また》なんて言ったのには理由がある。
彼は、たくさん自分からデートに誘ってくれるし、会いにきてくれる。
でも、2年付き合っていて、私からの誘いにそのまま乗ってくれたことはほとんどなかった。
毎回、「事情がある」「話すことはできないけど、決してやましいことがあるわけではない。」
そう言われてしまっては、こちらとしても強気に追及することはできなくて。
でもある日不安になって、彼の家まで行ってしまったことがあった。
その日、彼は家からは一歩も出てこなかった。
きっと本当に何か事情があるんだろう。
家庭で何かあるのかな?
それなら頼ってほしい気もするけどな。
そんなことを思いながら帰路に着いたのだが。
「友愛?どうしてここに?」
「え…」
後ろには、彼がいた。
一人で歩いていた。
「もしかして、俺が心配で…?」
ひかれたと思った。
だって、彼氏にデートの誘いを断られて不安になって家まで来る。しかも何も言わず。
こんなのひかれて当たり前か。そう思った時。彼は泣き出したのだ。
「ごめん…不安にさせて当然だよな。俺の独断で話せる秘密ならすぐにでも話すんだけど、そうもいかなくて…。ほんとにごめん。できるだけ早く友愛にだけでも話せるようにするから、もう少し待っててほしい。」
なんだか気が抜けてしまった。
そしてなによりも、泣いている臨の姿を目の前で見て、本当に何か大切な事情があるんだ、と確信できた。
自分が恥ずかしくなった。
「わたしこそ、こんな疑うようなことしてごめん。なんだかすごく不安になっちゃって…」
私の目からも涙が流れてしまった。
「まだ時間大丈夫?せっかく会えたんだしうちで夕飯食べて行きなよ」
「いいの?親御さんに迷惑なんじゃ…」
「大丈夫!うち基本的に親いないんだ。俺兄弟もいないし。」
「へっ…!?」
あとはラブコメの定石に従って、お泊まりすることになり、二人で夜を明かす……
なんてことにはならず。普通に夕飯食べてお暇した。
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こんなことがあって以降、私は彼を疑うことは無くなったのだが、
同時にこの《事情》というものが前より気になってしまって…
なのに未だ謎の多い臨の《事情》。これに対するイライラもあっての、『また』という言葉であった。
「いや、これに関しては普通に話せるよ。」
少し昔のことを思い出していた私の横で未だ神妙な顔をしている望が言う。
「そうなの?じゃあなんで?」
「俺って結構学校休んでただろ?その間に生徒会選挙の立候補期間があったんだ。ほら、俺らの担任小芝だったから。生徒会顧問のクラスからは一人は立候補しなきゃだったろ。結果、一番人の前に立っても緊張しなさそうって理由だけで俺の名前勝手に書かれたんだ。」
「え、でも、小芝先生は臨が自分で立候補したいって言ってきたって言ってたけど…?」
「もちろん、次に登校した日にそれ聴いた瞬間職員室直行したね。
電話で生徒会に立候補されたことは知らされてたけど、まさか嘘ついてるとは思わなかった。」
「ふふっ。あの人ならやりかねないよね。」
「意外と腹黒いからな。若いし見た目も優しいのにさ。」
そんなふうに話しながら、私は、そんなふうに勝手に入れられた生徒会でも、
参加頻度は少ないながらしっかり仕事をしていた臨を尊敬していた。
実際、人前で何か発表したり、新しい取り組みをする時とかには、いつも彼がいた。
本人曰く、あまり参加できない分をそういうところで返しておきたかったらしい。
まあ尊敬してるなんて本人には絶対言わない。
だって、すぐ調子に乗るんだもの。
結局この日は、このままなんとなく他愛もない話をして解散した。
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今日も今日とて、私は生徒会室にいた。
二日連続なのは文化祭前だから。
まあ文化祭といっても、芸術系の工業高校であるうちの高校の文化祭は、ほぼ展覧会だった。
入試の前に一度来た時にはなかなか面白かったものだが、いざ自分たちがあの文化祭をやるとなると、
もう少し高校生っぽいことしたかったなって気もしてくる。
そんなことばかり考える私に、声がかけられる。
「友愛、メイドカフェやらね?」
この金髪でちょーーーーーーーぜつ短いスカート履いてるのは、梶井真希。
クラスが一緒で、生徒会でも同じということで一気に仲が縮まった。
ヤンキーっぽい見た目とは対照的な性格で…とは言えないのだが。主に口調が。
でも、なかなかに優しい。
とは言えこの提案は意味がわからなかった。
「メイドカフェ?メイドさんの絵を飾る的な?」
「は?なわけないだろ。私たちがメイドさんの格好してお客さんに飲みモンとかケーキとか提供すんだよ。」
「ちょっと真希?うちの文化祭って言ったらほぼ展覧会なの。メイドカフェなんてできるわけ…
第一生徒たちの作品の展示してたらそんな大規模な企画やるスペースなんて残らないよ?」
「いやまあそうなんだけどぉ…友愛も夢を持てよー。やりたいじゃん?青春だーって思えること。」
寂しそうな顔をする真希の意見には私も全面同意だ。
でもだからって、実現できるはずがなかった。
まあそんなこと言ったらまた、夢がないだなんだと言われるんだろうし何も言わないけれど…
「できたらいいけど…ちょっとねえ」
そんなできる限り曖昧な返事をした私の横で、
「でも、別にメイドカフェだけが青春なわけでもないだろう。」
という声が聞こえる。
会長の相模悠斗先輩だ。
「でも、うちの高校では、メイドカフェに限らずそういうイベントっぽいことするのは難しいんじゃ…」
不安げな表情をしているであろう私に、会長は衝撃的な事実を教えてくれた。
「実はな、空門。この学校の文化祭、なぜか体育館を全く使おうとしないんだ。」
え…
確かに。去年中3で来た時、確かに体育館に入った記憶はない。
「そこで、何か企画ができると思って今考えていたところなんだ。ちょうどいい、私だけではいいものは思いつかないし、みんなの意見も欲しい。」
会長は生徒会室の人たち全員に声をかける。
その時だった。猫の目の如く、鋭く光る瞳が1、2、3、4…
「お笑いやろ!」
「バンドとかを生徒たちで組んで出演してもらうのはどうですか?」
「なんかご飯でもだそうぜ!で、その収益で打ち上げ!」
みんな…なんだかんだこの文化祭が物足りないんだな…
私は、みんなが楽しめればいいと思って話し合いに割って入ることはせずに、一歩引いたところで見ていた。
「悠斗。確か、4年前くらいから生徒会費ってほとんど使われてないよね?」
湊沙希先輩だ。
沙希先輩は私と同じ副会長で、実は相模先輩の彼女だったりする。
しごでき会長とその右腕的副会長のカップルとかアニメかよ…
「そうだな。文化祭はこんなだから金を使うことはなかったし、5年前に絵の具とか大量に買った記録はあるけど、それは多分学校のために余った金を提供したって感じだろう。多分、50万以上貯まってるんじゃないか?毎年何気に生徒会には多くの資金が入っているわけだしな。」
それをきいた沙希先輩の目が光る。
訂正。
他の人よりもさらに一際鋭く光る。
「芸能人…呼ばない?」
んー?
聞き捨てならんことを聞いた。
「メモリコ一択でしょ!!」
あ。
つい叫んでしまった。
「メモリコってあのメモリコ?メモリア・コードのこと?」
沙希先輩が聞いてくる。
「もちろんです!大ファンなんですよ私ー」
「メモリコファンは学校にもいっぱいいるし、みんな知ってる曲もいいしありだけど…。あれほどのバンドがこんな学校の余興のために来てくれるとはとても思えないんだよなあ…」
「まあまあ沙希。依頼してみる価値はある。幸いまだ文化祭まではだいぶ時間があるわけだしな。一度依頼だけでもしてみよう。無理だったらすぐに諦めて他の案を採用すればいい。」
「そうね!私もメモリコ来てくれたらこんなうれしいことはないし!」
やった…
まだわからないし、正直望みは薄い。でも…
でも!あのメモリコが私たちの学校に来てくれるかも!?
そんなの期待しないわけがない!
「ちょっと友愛!やばいじゃん!なんかめっちゃ楽しそうなんだけど!」
「やったよ真希ー!メモリコくるかもよ?来ちゃうかもよ!!」
超ハイテンションのまま、今日の生徒会は終了。
先生と相談して、明日の放課後に会長と先生で連絡することになった。
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「いやあ。超急展開だね…」
横で真希が横でため息をつく。
その時だった。
「何が急展開なのー?」
「臨!?」
「あ、友愛の彼氏くん。久しぶりー」
「梶井さん。久しぶり。」
「臨、なんでいるの!?今日来れないって…」
「友愛母から俺にLINE来たんだよ。まだ帰ってないし連絡もないんだけど、一緒にいるかって。」
「え?」
わあお。スマホ開いた瞬間、19:40という時計の表示と、27件という母からの通知が同時に目に入る。
「まあ今日はみんななかなか興奮状態だったからなー」
「時間なんて気にしてる暇なかったよね」
臨は、?マークをたくさん頭の上に乗っけてる。
「何で興奮?してたの??」
私たちは顔を見合わせて笑ってしまう。
臨はどんな反応するのかな?
「あのね、私たちの文化祭でね、」
『メモリコ呼べるかもなの!!』
………………………………………。
あれ?無反応…?
「臨…?」
「あ、ああ!ごめん
やったじゃん!友愛大好きだもんな!」
「え、あ、うん…」
「いやあ、よかったねえ。これで憂鬱そうだった文化祭にも楽しみができたわけか」
「まあね。でも、まだわかんないけどね」
「でも希望はあるじゃん!よかったね。あてか。今日は梶井さんと帰るよね?俺先帰るね。」
「え?いいよいいよー。せっかく来たんだから恋人同士仲良く帰りなよ!」
「いや、俺用事あるから…ごめんな友愛。とりあえず無事も確認できたしよかった。
俺からもお母さんには連絡するけど友愛からもしときなね!じゃあまたね」
そう言って走っていってしまった…
「どう考えても変だったよね?臨。どうしたんだろ…」
「私の予想いっていい?」
真希がニヤニヤしてる。
「なに?」
「あれは嫉妬だよ多分ー。メモリコって年齢公開されてないけど、多分うちらと同年代っしょ。しかも友愛の一番の推しは男なわけだし。まあ嫉妬してもおかしくはないわなあ」
「そんなことある…?相手は芸能人だよ?憧れだし…」
「男なんてそんなモンじゃない?友愛だって、彼氏くんが高校生のアイドルにデレデレしてさ、握手会とか行った話自慢してきたら、めっちゃ嫉妬するってほどじゃなくても、めっちゃいい気持ちはしないっしょ?」
「うーん。私が気持ちわかっちゃう人だからかな…あんまりかも??」
「うん。確かに。まあ、あんま気にしなくてもいいんじゃない?別に当たりが強いとかじゃあないんだしね。」
「そうだよね。じゃあそろそろ帰ろっか。時間遅いし」
「うっわ!そーだ忘れてた…やばやば早く帰ろ」
結局そのことについてはあまり深く考えずに、私たちは帰路についた。




