第4話 消えた幼馴染とバスケの授業
何度か呼び出され、戦場に立たされるうちに、つづみは少しずつ状況が分かってきた。
どうやら、3000年後の地球に人類はもういないらしい。
代わりに、AIとアンドロイド達が人類の代弁者になって、地球外生命体から星と生命を守っているという。
その『地球外生命体』がどこから来るのかは、分かっていない。
元々はAI同士の戦争用に作られた戦機で応戦していたらしいが、やがて敵に全てのパターンを読まれ、勝てなくなったそうだ。
そこで彼らは過去の人間の時間データを探り、神機に適応しやすく、反応速度の速い10代〜20代の若者を選んで呼び寄せ、パイロットにしたらしい。
ただし、未来から過去に干渉できるのは30分ほど。
その中で戦闘を終わらせるため、必ず4機1組のチームを組む。
——[5番隊、アタッカー(近接火力)『アポロン』、
サブアタッカー(遠距離支援)『トール』、
タンク(囮・盾役)『ロキ』、
防御(防壁と回復)『デメテル』この4機で出ます]——
管制部のアンドロイドの声が、まだ耳の奥に残っている。
初めて組む相手でも役割が一目で分かり、動きやすいようになっているのだと、今なら分かる。
そして、パイロットの国籍に近い神話モチーフの機体の方が潜在能力を引き出しやすく、機体性能も上がるのだそうだ。
つまり、つづみの場合は日本の神様。
自分を助けてくれたあの黒い機体も、何かの神の名前が付いているのだろうか……
「なんて名前だったんだろ……カッコよかったな」
部屋でタブレットに学校の課題を書き込みながら、つづみはふと、助けられた時の光景を思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「行ってきまーす」
その日、つづみはいつもの通りに学校に向かった。
途中で誰かが同じ方向に歩いているのが見える。
「あ、弾君のお母さん、おはようございます」
つづみはその人が幼馴染で同じく高校2年生の実村弾の母だと分かり、追い越し際に声を掛けた。
「つづみちゃん、おはよう」
返事を返した彼女の肩からは、数百枚のチラシが入ったトートバックが下がっている。
「……それ、弾君の……」
つづみは言い淀んだ。
弾は2ヶ月前から行方不明だ。
家の近くを歩いている所を目撃されたのを最後に、突然姿をくらませた。
「……今日は淀三河駅近くでこのチラシ配ろうと思ってるの……」
母親は行方不明の息子の写真と詳細を書いたチラシを作り、時々配り歩いている。
「そうですか……あの、無理しないでくださいね」
「ありがとう」
つづみは彼女と短い会話をし、複雑な心境で足早にその場を去った。
バス停に着いた。
彼女の他にもバスを待っている人物がいる。
こちらも近所の幼馴染で、同じ高校に通う井関遼太郎だった。
この地域は下手な私立よりも公立の方が成績が良く、地域の子ども達はほぼ同じ公立高校に進学する。
「……おはよう」
「……おう」
遼太郎はこちらを見もせずにぶっきらぼうに返事をした。
彼とは弾と同じく小中高と同じだが、思春期もあって出会っても最近ではほとんど話したりはしない。
2人はそれから無言でバスを待つのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つづみ!次体育!早く更衣室行こ」
友達の金子里菜が声を掛けてくる。
「あ、うん」
「今日は体育館で2組3組合同でバスケだってさ。あたし得意じゃないし怠いよねー」
——全くだ。陽キャでもないし、体育は正直鬱陶しい。
つづみは成績のためだけに渋々腰を上げた。
体育館には2面のバスケットコートがある。
男女に分かれ、それぞれのコートでプレイをする。
2組のつづみと3組の遼太郎も、偶然同じ体育館にいた。
そんな時だった。
待ち時間の退屈を切り裂くように、左手の甲がじわりと熱を帯びた。
「……あっ……!」
慌てて手を見る。
皮膚に緑色の回路が浮かび上がり、脈打つように光を走らせていた。
視界の端で里菜が怪訝そうに覗き込む。
その顔が、揺らぎながら霧のように遠のいて行く。
耳の奥で低い電子音が鳴り、周囲の喧噪が一気に消えた。
気が付けば、全身を覆う透明な転送ブースの中に立っていた。
無数の回路が床から天井へと走り、明滅を繰り返す。
「ああ……まただ……」
つづみは体操服のまま、光る多数の線がある壁に手を掛けた。
——彼女が消えて行く様子を、コートの端から1人の同級生が見ていた。
バスケットボールを抱え、思わず立ち尽くしてしまったのは遼太郎だった。
「……つづみ……お前……」
彼の瞳は、何かを悟ったように揺れていた。
光が走り、つづみの姿は跡形もなく消えたのだった。
しかしその事実は、きっと誰にも知られることはない。
遼太郎さえもその瞬間を『見なかった』事になるのだろう。
『時間』は未来からの干渉によって、巻き返されるのだから……




