第3話 女子高生を救う謎の機体
私はしがない女子高生……
趣味が神話を読み漁る事だったばかりに……あんな事……
つづみは自分の部屋のベッドの上に座り込んで考えていた。
今日はいきなり3000年後とやらに飛ばされて『神機』などという巨大ロボットを操って敵を倒した…… 仲間のロボットと一緒に。
なんだったんだろう。
何故、地球外生命体なんて物が襲って来るんだろう。
機械みたいな敵ばっかりだったけれど……
何故、私が呼ばれたんだろう。
1995年から2080年までの間の人間が呼ばれるって言ってたな。
私が当てはまるから?更に神話好きだから?
その頃といえばちょうどPCやらタブレットやスマホや4Gに5Gなんていう、ネット通信機能が急速に発展して来た年代だ。
そうそう、あの神機を作り出していた3Dプリンタだって結構使われ出している。
2026年以降の事は分からないけれど。
それに……地球の上は見渡す限り原始林みたいになっていた。もしかしてもう人間はいないのだろうか。
月に逃げていたりして。
じゃあ何を守るために戦わされているの?
また呼ばれちゃうのかな……
「ダメだ。分かんない事ばっかり」
上を向いて諦めた様に呟く。
「つづみー?お風呂入んなさいよ」
1階の階段下から姉が呼んだ。
「はぁい」
彼女は気のない返事をして、怠そうにベッドから降りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、つづみはまた戦場にいた。
朝、バス停まで歩いて行き、来たバスに乗って学校近くまで揺られている時にそれは起こった。
突然、例の左手の甲に回路が現れて光ったのだ。
視界が揺れる感覚がして、あっと思った時にはもう、以前と同じく電話ボックスの様なブースに入れられていた。
「神の名を詠唱してください」
無機質なアンドロイドの声に少しムッとする。
——私に拒否権はないのか。
「じゃあ、『月読』で」
「認識しました。神機『ツクヨミ』製造。
武装:月影盾。
副武装:朧月環刃。
コアエネルギー高出力必殺技:月煌牙砲搭載」
出撃準備が着々と進む。
「チーム編成、9番隊。
アタッカー『アヌビス』、
サブアタッカー『ガネーシャ』、
タンク『ツクヨミ』、
防御『ポセイドン』。
セッティングお願いします。各機コアエネルギー充填……完了」
9番隊チームはまた空高く射出された……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
轟音と振動が空を裂く。
戦闘開始から何分経っただろう……10分?
今回は苦戦している。
ツクヨミ機のつづみは、両手にぴったりと密着した操作ユニットに力を込めた。
指を握れば機体の指が動き、手首をひねればそのまま巨腕が軌道を変える。
まるで自分の体が機体になったような感覚……しかし、余裕はない。
視界の先には、無数のスズメバチの様な新型群体兵器が近付く。
その目の辺りからビームを放ち、突き刺さるような急降下で襲いかかってくる。
「くっ……! 速すぎる!」
シールド表示が黄色に染まり、衝撃音がコックピットに響く。
「ツクヨミ!後方に回り込んでる、避けろ!」
低く鋭い声が飛んできた。アヌビス機のパイロットだ。
耳の長い特徴的な装甲の機体が弧を描き、背部のスラスターから光の尾を引く。
その右側では、ガネーシャ機が4本腕を広げ、両手の重火器から連続射撃を浴びせていた。
「くそっ、数を減らしきれねえ!」
パイロットが吠える。
だが、敵は撃墜されても数で圧倒して来る。
一体何匹いるのか……
「ポセイドン機、海霧展開!」
低く落ち着いた女性の声と共に、青銀の機体が海水を模した蒸気を戦域に散布する。
敵センサーを撹乱するが、効果はわずかだ。
つづみはモニターの隅に警告表示が並ぶのを見た。
『装甲残耐久:27%』
『エネルギーシールド再展開まで:12秒』
「あと……12秒もたない!」
スズメバチ達すら撃退出来ていないのに、視界の端に赤く巨大な影が近付いてきていた。
単騎で突撃してくる敵エース機『グラヴィオル』。
全長40メートルの花の蕾の様な形をしている。その両端に腕の様な物が生えた。
腕の先が巨大な刃になっている。
「ツクヨミ、退け!」
アヌビス機が割って入る。
「冥獄審断砲!」
肩部装甲が展開して双門砲が前方へせり出し、黒と金の混じった高エネルギー光線が発射された。
目が開けられない程の閃光が周囲を覆い、スズメバチを含む敵が全て焼き尽くされて行く。
ツクヨミの回避が僅かに遅れた。
『警告!警告!』
「え?!」
つづみの目の前に急にHUDが展開された。
『アヌビス機の攻撃に巻き込まれました。装甲が持ちません。後7秒後に本機は崩壊します!』
「そんな!!」
「!!ツクヨミ!」
つづみの耳にアヌビス機のパイロットの焦った声が届いた瞬間——
グシャァ!!
激しい破壊音を上げてツクヨミの機体が全壊した。
「ああっ!!」
つづみがパイロットスーツ姿のまま1人、空中に投げ出された。
緊急脱出ポッドが開いた訳ではないので手動でパラシュートを開かなければならない。
「!!」
しかし……ベルトは既に破れて飛び散っていた。
——嘘!?死んじゃう死んじゃう死んじゃう!助けて本物の神様ーっ!!
その瞬間、雷鳴のような衝撃音が空間を震わせた。
視界を裂いて漆黒の機影が急接近する。両肩のスラスターが白熱し、黒光りする装甲の縁を赤い光が走った。
巨腕が一直線に伸び、つづみの体を包み込むように両手に抱きかかえる。
落下Gを和らげるため、そのままスラスターを逆噴射した。
衝撃はすっと消え、かわりに無重力のような浮遊感が広がった。
その巨大なロボットは、装甲は闇のような黒だった。
肩から腰にかけて流れるように点滅する赤いラインが光り、兜のような頭部から覗く双眸が一瞬、蒼白に輝く。
他の神機とはデザインが全く違う事が一目で分かる。
そして巨体に似合わない動作でそのまま静かに地面に着陸し、つづみを降ろしてくれた。
「……ありがとう……」
彼女は礼を言ったが、巨体の中までは届かなかったのか、機体はすぐに空中に飛び上がり、彼方へと飛び去って行ってしまった。
「……桜場つづみ様。ご無事でしょうか」
管制部から左手の回路に通信が入る。
「うん。何処かのロボットに助けてもらった。なんて神機なの?」
「……救助機は認識出来ません。要注意、所属不明機種です」
「え?そんな事があるの…?」
つづみが問い返す。しかし管制部はそれには答えずに淡々と話す。
「危険ですので少し早いですが、桜場つづみ様には帰還していただきます」
「待って、なんで……」
しかし……気が付くともう元のバスの中だった。
「……所属不明のロボット?でも助けてくれたんだし、悪い人じゃないよね……」
小さく呟く。
[次は『川見高校前』ぇー]
バス内のアナウンスが告げた。
「あ、降りなきゃ」
つづみは慌てて降車ボタンを押した。
バスが停留所に止まり、同じ高校に向かう数人の生徒達が昇降口に並ぶ。
——誰かの左手の甲が、一瞬光って……収まった。




