第2話 認証コード0989
気が付けば空中に放り出されていた——
そんな言葉が頭を過ぎる。
「新入り!『アマテラス』!大丈夫か?」
耳元から声が聞こえる。
「……た、助けて……」
つづみがか細い声を出す。どうすればいいのか全く分からない。
「俺は『ゼウス』機だ。今は背面スラスターが安定している。オートパイロット機能も付いているから落ちる事はない。
今回の敵は中型群体「スウォーム級」と大型突撃型「シンギュラリティ級」1体だ。俺達の目的は敵の進行を15分間阻止、最適解は殲滅!
……チッ。アイツらなんの説明もせずに射出したな」
「私はどうすれば……」
「今回のお前は『タンク』だ。敵の集中砲火が来てもシールドが自動展開する。
防御しつつ砲撃で牽制射撃!」
「えっと、うわっ!!」
敵のスウォームが襲って来た。
黒い昆虫型ドローンのような形だ。金属の羽を高速で動かし低音を響かせ、群れとなって突撃して来る。
それらは、つづみのアマテラス機に向かってビームを乱射する。
それを自動で展開した八咫鏡シールドが防ぐ。
「正面は俺が抜く! シヴァ、右側の散開を押さえろ!」
ゼウス機のパイロットが叫ぶ。
「了解、こっちは任せて!」
シヴァ機から返事が来る。
「ガイア!左翼をカバー!」
ゼウス機の指示に、落ち着いた女性の声が返る。
「了解。重力フィールド展開——」
左方の空間が歪み、スウォーム級の動きが鈍る。
「アマテラス、今だ!」
「武器、武器……日輪照破砲。このバズーカ砲みたいな奴?」
つづみは右肩に沿うように装着された巨大な砲身を両手で支える。
トリガーを引くと砲身の内部が赤白く光り、低い音を立てながらエネルギーが圧縮された。
「行っけえぇ!」
砲身が唸り、空気が裂けるような音がして閃光と共に砲弾が飛び出し、重力で捕らえられていたスウォーム級の群れを正確に貫いた。
反動で機体が後ろに押される。
「くっ!」
——『ブースト!』
頭の中で考える。
背中のスラスターからのジェット出力が強くなり、ホバリングが安定した。
武器エネルギー残量計が『日輪照破砲:残り放射時間15秒』と出た。
「アマテラスだけあって全部日本語表記だ。良かった」
全モニターに表示される漢字や仮名の文字に安心する。
そして残量いっぱいまで撃ち続けた。
シヴァ機がつづみの反対側の右翼を数体撃退し、ゼウス機がアマテラスの砲撃を見て方向を変え、残機を切り刻んで行く。
大量のスウォームは金属の羽を撒き散らしながら、最終的に空中で爆散した。
「……やった……?やったよ!!」
「新入りにしては上出来だ、アマテラス! だがまだ終わっちゃいない!」
ゼウス機の声が鋭く響く。
その時、雲の裂け目から禍々しい巨影が降下してきた。
全長80メートル、無機質な外殻で警告灯みたいな赤い発光部がある。
配線や熱排出口が剥き出しだ。
……突貫工事の兵器みたいだが、それがシンギュラリティ級——突撃型の大型個体だった。
その存在だけで大気が震え、機体計器が一斉に警告音を鳴らす。
「アマテラスは正面を塞げ! 俺とシヴァで両側を削る!」
ゼウス機から指示が入る。
「わ、分かった!」
つづみは咄嗟に八咫鏡シールドを展開し、突進してくる怪物の進路を塞ぐ。
シンギュラリティ級の腕が変形し、巨大な光刃が形成された。
「来るっ!」
光刃の一撃をシールドが受け止めた瞬間、衝撃波がコックピットを揺らし、ベルトが体に食い込んだ。
機体の装甲が衝撃でパキパキと割れてしまう。
「ぐっ……!」
ガイア機が近付いてくる。修復光線がアマテラス機の装甲を再生した。
「持ちこたえろ、傷は私が治す!」
シンギュラリティ級の次の攻撃をシヴァ機がいなす。巨大な剣の斬撃が敵のボディを切り刻んで行く。
「アマテラス!牽制砲撃!行けるか?」
「やってみる!」
モニターを見ると『天照閃煌エネルギー装填完了』と出ていた。
「これだ!天照閃煌!
って叫ばなくてもボタンを押せばっ」
つい必殺技を叫んでしまった自分の声に赤くなる。
きっと通信でチームメンバー達に筒抜けだ。
そして何故か機体の右腕を前に出す事が分かる。
先端から前腕部が瞬時に組み替えられ、高出力射出砲に変わった。
味方の機体が避ける。
「撃てーっ!!」
叫びと共に手元のトリガーを引く。
もはや恥ずかしいなんて言っていられない程必死になっていた……
眩い光と共に高エネルギー弾が発射され、シンギュラリティ級の武器を振るう腕の根元に当たって焼き切れた。
敵の本体がグラリと揺れた。
「よし!下がれ!」
その隙に突撃してきたゼウス機の音声が入る。
「えーと、下がる下がる下がる……」
つづみが不慣れながらブーストを落として下がって行く。
「必殺技いくぜ!神雷殲滅!」
ゼウス機のパイロットが叫ぶ。
即座に胸部と両腕のプラズマランチャーを連結させ、巨大な砲身状のエネルギーフレームを形成した。
足元から六角形の雷紋が広がり、半径数十メートル以内の空間が『雷雲領域』に変化して行く。
そのまま圧縮された雷エネルギーを一気に放つと、極太の白雷が直線的に走り、シンギュラリティ級を分子レベルで焼き切った。
「良かった。やっぱり必殺技、叫んでいいんだ……」
つづみが小声で呟いた。
チームは敵の殲滅に成功した。
「6番隊敵殲滅成功。スラスターのエネルギー残量、切れます。各機地上に降りてください」
管制部からの指示が入る。
つづみ他3機が用心深く地上に降り立った。
「ふう……これ、外に出られるのかな」
彼女は呟く。
「いや、緊急脱出時以外、外に出るハッチはない。それにこの機体から離れたら翻訳機能も使えなくなるから言葉が通じない。俺は2035年のイギリスから呼ばれたオリバーだ」
ゼウス機のパイロットが言う。
「え?未来人?……私はに、2026年の日本、つづみ……これ、今からどうしたらいいの?」
「このまま立っていたら機体の分解、原料化回収が始まる。始まる前にオレ達は元の時間に戻らされる。——2013年、インド、サンジェイだ」
シヴァ機のパイロットから通信が入る。
「1998年、イタリア、キアーラよ……召喚されるのは大体1995年から2080年頃までの人間なの」
ガイア機からも女性の声で通信が来た。
「……そろそろね。また会えるかは分からないけれど。お互い生き残りましょう」
「生き残り……ちょっと、待って?」
つづみが問う。
その時、目の前が急に明るくなり、思わず目を瞑ってしまった。
「うわっ?」
暗くなったと思い、目を開けてみたらもう月虹橋の所にいた。
元の時間に戻されたのだ……
スマホのサーチライト機能で照らして橋名板を確認してみる。
——待って?私、これと同じ動作した……
「……『月虹橋』?虹……虹の橋。ビフレスト……」
確かに一度言ったセリフが口を付く。
「え?なんで?」
驚いて言ってしまって棒立ちになる。
しかし前の様には橋は光らなかった。
つづみは周りを見回す。いつもと変わらない通学路だ。
スマホで時間を確認してみる。塾から歩いて帰って来ていた時間と同じ……
「……飛ばされた時間を1分ぐらい遡って帰って……来る?」
その時、ふと左手が目に入った。
「あっ!」
召喚された時に入っていたブースと同じ様な回路が手の甲に3cm角の大きさで貼り付いている。
「ええ?夢じゃなかったの?これ、どうしよう……どうしたら……」
焦っていたら、程なくスウっと消えてしまった。
つづみは驚いて暫く手の甲を見ていたが、やがてため息を吐いて家路を辿った。
回路の上には消える前に確認出来た光る日本語で、小さく『神機パイロット:認証コード0989』と記されていたのだった……




