【短編SS】人生の色彩
あの時から、幾つもの年月を重ねただろうか。
世界の守るする贄として捧げられる筈だった恋した娘を助けたくって、本気で力を振るい守り切った代償として、世界の外側へと追放されたあの時から。
生まれた時から世界に違和感を感じていた。
あらゆる才能とそれを振るい切れる肉体を天から与えられ産まれた。
やる事全てが成功する。
金を稼ごうとすれば、一瞬で大金を得た。
スポーツを始めれば、頂点へ至るのに苦労をしない。
人を動かせば、裏切りなどなく高水準にまとめ上げる。
そんな日々を重ねれば重ねるほど生まれた時から持つ違和感は侵食していくかのように大きくなっていき、人生から色が劣化していくのを感じた。
そんな不満を漏らせば、他人はその不満を弾圧する。
世間は、「厨二病乙」や「才能が無いやつの事も考えろ」と言った。
友人は、「才能持ってるやつはやっぱ違うわ」や「何それカッコつけてるつもり」と言った。
親は、「何言ってるの」や「お前は才能を世間に使う義務はある」と言った。
吐き気がする。ずっと普通になりたかった。
20を過ぎた頃だった。この世界には漫画やアニメみたいなファンタジーが溢れていると知った。
そこに行けば、異常な自分は普通になれると信じ、足を踏み入れた。
しかし、生まれ持った才能はそこでも普通ではいさせてくれなかった。
普通な人には出来ない事は当たり前に出来、一瞬色が入った人生は以前よりも酷く色が劣化していった。
どこへいってもなりたい普通にはなれず、いっそ人生を終わらせようとも考えるが異常な肉体はそれすらも許してくれず、死んだように数年を過ごしたある日、運命に出会った。
その娘は、20を過ぎてもなお魔法少女と言うものをやっていた。衣装に着替えると恥ずかしさで目を潤ませながらも鬼神の如き強さをしていた。
普通では無い状況。自分以外の異常を見つけて嬉しかったのか、何か感じたのか今になってはもう覚えていない。だが自分から話しかけた事をよく覚えている。
「そんな格好で恥ずかしく無いの。」
初対面にも関わらず、開口一番に放った言葉を今も覚えている。我ながらデリカシーの欠片もない言葉だった。
「恥ずかしいですけど、これで皆んなを助けられるなら恥ずかしくないです。」
娘はそんな質問に困ったよう笑顔で答えた。
「貴方は、そんな格好で寒くないんですか。」
娘は自分に質問を返した。今は冬。自分は異常な肉体のおかげで寒さや暑さとは無縁だ。
「別に大丈夫だけど、そういう君も相当に寒そうだけど。」
娘はフリフリな上着にミニスカートととても寒そうな見た目をしている。
「魔法な力で寒くないんです。」
娘は少しドヤ顔で胸を張って答えた。
そんなくだらないやり取りをしてその日は別れた。
少し人生に色彩が混じった気がした。
その日以降、当時ではよく分からない衝動に身を任せ異常な才能をフルに使い娘の場所を探しては会いにいっていた。
娘は会うたびに少し驚いたような顔をしたが、いつも笑顔で対応してくれた。娘と会う度、人生に色彩が混じっていく気がした。
娘と会うたび口は軽くなり、ついに異常な才能への不満を口にした。娘は目を瞑り真剣に考える。
「困った問題です。でも私は貴方にそんな才能があって良かったです。」
娘の回答に人生の色が劣化した。やはり、この違和感は誰も分かってくれない。
「だって、どんな状況でも私を見つけてくれるって事ですよね。」
初めての回答だった。俺の異常な才能への嫉妬や義務感の押し付けでは無く、肯定でも否定でも無い。使ってくれて嬉しいという回答。劣化していた人生の色が一気に鮮明になる。この時、気づいた。自分が振り回されていた衝動の正体に。
ある時を境に彼女の場所を調べても見つからなく、行方が分からなくなった。数日のうちは活動を休んでいるんだと自分を納得させていたが半月も経つとそう言い聞かせるの出来ず、ひたすらに焦った。
異常な才能を振るうという選択肢を焦りから取れず、今まで彼女と会った場所を探して回った。しかしどこにもいた形跡も何も無かった。
彼女が唐突に消えた事実に自分は狂いそうなぐらいに不安が押し寄せてきた。人生の色彩、それが唐突に目の前から消えた瞬間だった。彼女を探すのにこの異常な才能を今まで以上に磨き上げるの迷いは無かった。
異常な才能を磨きつつ半年が過ぎ、ついに彼女を見つける。知っている姿からは顔がやつれ、服はボロボロ、痩せこけ身体中にアザが残っているが彼女は生きていた。
異常な肉体を使い、彼女を取り戻しにいく。場所は調べがついている。生贄を神に差し出し世界を守るとか言う意味不明なカルト連中のアジトだ。
彼女の元に辿り着き目を見る。彼女の目は見たことあるような目をしていた。人生の色が劣化していたあの時の自分と同じよう目を。
「迎えに来たぞ。」
悪寒が走り彼女に目を合わせるよう腰を下げ彼女を揺らす。
「どうして貴方がここに。」
彼女が自分を認識する。自分が触って発作が出る気配はない。そういった暴行は受けていないと判断した。
「心配で迎えに来た。取り敢えず此処から出るぞ。」
彼女の身体を持ち上げる。
「助けに来てくれてありがとう。」
彼女は自分に引き攣った笑顔でそう言った。発作は出てないが男が多少怖いのだろうがこちらを安心させるよう笑顔浮かべる彼女を見て、胸がふつふつと沸くような気持ちが浮かんだ。自分の好きな笑顔を奪った輩をどうしてやろう考えながら彼女を活動エリアの大通りまで連れてゆく。
「見つけたぁ。」
大通りに差し掛かったのと同時に後ろからこの世と思えない声が聞こえる。
「誰だ、おm。」
言葉の最中に顔面に何かの腕が思いっきり突き刺さる。彼女に怪我をさせまいと抱き抱える。
「大丈夫、しっかりして。」
数瞬飛んだ意識の中彼女の声で目を覚ます。
「安全な場所に隠れていて。」
いくら彼女が鬼神のごとこ強さを持つとはいえ病み上がりともいえない状況の彼女に戦わせるわけには行かない。
「当たったぁ。」
また聞こえる。この世とは思えない声。今度こそそちらに目を向ける。それは生き物と呼ぶにはあまりにも冒涜的な姿をしたナニカだった。
「何あれ。」
彼女もナニカを視界に入れ、息を呑む。
「ごめん。」
自分は彼女を路地裏の方向に押す。ナニカが振りかぶった拳をそれと同時に避ける。
「私も戦います。」
彼女は立ち上がり戦おうとするが膝から崩れ落ちる。
「君のその身体じゃ無理だ、隠れていてくれ。」
俺は強い口調で彼女に言う。ナニカはこちらの様子を見ている。
「すみません。お願いします。」
彼女は悔しそうに唇を噛み姿を隠す。ナニカはまだこちらの様子を見ている。
なら、こちらから攻める。自分は一気にナニカの元へと駆け出した。
そこからは、生まれて初めての苦戦をした。異常な才能に肉体を持つ自分は戦闘となると一撃で終わる。相手から一撃を喰らっても痛くも痒くも無い。
しかし、この何かは違う。自分でも数十発喰らえば致命傷となり得る攻撃。数十発打ち込んでもまず倒れないであろうタフネスを持ち合わせていた。しかし、それはフルパワーでは無い。おそらくフルパワーで殴ればこのナニカは一撃で消滅する。だが、そんな事をすれば自分もタダでは済まないと言う確信があった。それもありこんな茶番劇を演じる羽目になっていた。
「死ねぇ。」
ナニカは茶番劇に飽きたのか急に彼女へ向かい拳を振るう。
「あっ。」
彼女は嗚咽を漏らす。急な出来事に防御体制が間に合っていない。
「させるかァァ。」
本気を出すのに戸惑いはなかった。
ナニカの身体がビルを粉砕しながら吹き飛んでいく。吹き飛んでいる最中に身体が砂となって崩れ落ちたのを見た。ナニカは絶命した。
「大丈夫ですか。」
彼女が近寄ってくる。
「うん、大丈夫だよ。」
自分は彼女へ笑顔を向ける。彼女の目尻に浮かぶ涙を拭き取ろうとして、異変に気づく。
「えっ。」
彼女が疑問符が出る。それもその筈だ。自分の指が彼女の顔を貫通しているのだから。わかっていたこれは代償だ。ただでさえ異常な才能。生まれた際から違和感を持つほど世界とマッチしていない自分。それは才能を磨き、本気を出した結末だと。
「私のせいで。そんな。」
彼女は徐々に透けていけ自分を見て涙を流す。
「泣かないで、後悔はして無いし。」
自分は涙を拭えない現状に歯軋りしつつ本心を伝える。
「そんな訳ないです。普通な生活をしたいって夢叶えてないじゃないですか。」
彼女は涙の勢いを強めていく。
「私、まだ貴方に恩を返せてないです。言いたい事たくさんあります。」
彼女の声にノイズが混じっていく。
「後悔はしていないんだ。異常な才能を持って生まれたおかげで自分はこの世界に違和感があった。何をするのかも分からずひたすらに人生を消費していた。」
泣き顔な君に笑ってほしくて精一杯の笑顔を浮かべる。
「君もおかげで自分はこの才能の使い道を作れた。鬱陶しいとしか感じなかった才能を最後に誇れるチャンスをくれた。ありがとう、自分を見つけてくれて。」
精一杯の感謝を伝える。視界がぼやける。どうやらもうお別れのようだ。
「私、貴方に一つ伝える事があります。」
彼女が自分との距離を詰める。彼女の顔の位置は自分の顔の位置に合わせられていた。
「今度は私が貴方に会いにいきます。どこにいようともどんな姿になっていようとも。」
そのまま距離を詰められる。触れることのない口付け。あぁ、彼女と本当のキスが出来ればどれほどか。薄れる意識。自分が最後に見たのは覚悟を決めた彼女の顔だった。
「会いに来る」彼女のその言葉を信じ続け待ち続けている。今日も来る気配がない。自分も心のどこかではもう気づいている。世界の外側に弾き出されたのだ二度と彼女には会えない事も、彼女も人間で新しい出会いを知っている事も。その事を考え胸が苦しくなる。その痛みを忘れるために再び寝ようとする。
音がした。ぼすっ。人が落ちてくる音。音がした方を見る。フリフリの上着にミニスカート。冬に来ていれば寒そうな格好だ。
「やっと会えた。」
人生に色彩を与える眩しい笑顔。間違う訳がない。
「会いに来てくれたのか。」
僕は彼女に抱きつく。彼女は優しく抱きしめ返す。
「言ったでしょ。まだ言えてないことがあるって。」
彼女の顔が近づく。彼女の唇と自分の唇は触れ合う。いつぞやの触れ合わないものではない本当の口付け。
「私、貴方の事が好きなの。一生離す気はないし手離さないでくれる。」
彼女からの告白。返す返事は決まっている。
「あぁ、自分も好きだ。一生手離さない。」
自分の為に世界から追放された彼女。絶対に手離さない。死んでも来世でも誰にも渡さない。自分だけの人生の色彩。
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