謎の番号9110
友人の村上が私の自宅から出て行った後だった。テーブルの上にメモ用紙が残されており、そこには“困ったら連絡するように”というメッセージと共に“9110”という謎の番号が書かれてあったのだ。
彼からのメッセージだろうか?
ただ彼はそのような事は一切述べてはいなかった。
――もしかしたら、と私は思う。
これは闇の政府、ディープステートによる何らかの罠ではないだろうか?
実は私は彼らから狙われている。
彼らはネズミーランドを支配している。ネズミーランドは一見はテーマパークのような装いをしているが実際は世界征服を目論むディープステートの軍事組織であり、機を見て外の世界に攻め込む算段でいるのだ。世界各国にネズミーランドを築いているのもその為である。いずれはネズミーランド内の通貨が世界の基軸通貨となるであろう。
私は、その秘密に気付いてしまった数少ない一人なのだ。だから、それを警戒した奴らは私を狙っているのである。私はいざという時に対抗できるようにナイフやスタンガンといった護身用の武器を揃えているし身体を鍛えてもいる。奴らが私を罠に嵌めようとしているのだとしても不思議はない。
が、一つ腑に落ちない点がある。
一体、奴らはどのようにしてこのようなメモを残していったのだろう?
私は友人の村上を少し疑った。彼が出て行った後にこのメモはあったのだ。一番疑わしいのは彼だろう。
しかし、私はその考えを慌てて打ち消した。それこそが奴らの卑劣な作戦なのかもしれないからだ。村上はディープステートが私を狙っているという話を信じてくれ、真剣に話を聞いてくれた唯一の人間なのだ。それを知った奴らは私達を仲違いさせようとしているに違いない。
危ういところだった。
そう結論付けると、私は改めてメモを眺めてみた。
“困ったら連絡するように”
察するに、この“9110”という番号は電話番号なのではないか? 奴らは私が騙されて電話をかけて来るのを待ち構えているのかもしれない。
「フフ」
私は笑う。
ならば、先手を打ってやろう。私がそのような手に引っかかる愚か者ではない事を教えてやるのだ。
私は9110に電話をかけた。何者かが出て何かを喋っていたが私は構わずにしゃべり続けた。
「愚か者! 私はお前らの卑劣な罠などに引っかからないぞ! 攻めて来るのなら攻めて来るが良い! 鋭いナイフでズタズタに切り裂いてやる!」
「よー、あいつ、警察に保護されたってな。良かったよ。多分、注射かなんかを打ってくれるんじゃないか? 措置入院までいくかどうかは分からないが」
村上に火田という男が話しかけた。
「ああ、上手くいったみたいだ」と、それに彼は返す。火田はそれを聞いてやや驚いた顔を見せる。
「お前、なんかやったのか?」
「メモを残したんだよ、あいつの家に。多分、あいつは9110に電話したのだろうな」
「9110?」
「事故や事件性はないが、警察に相談したい場合にかける電話番号だね。この番号で相談すると、事件を起こしそうな統合失調症患者を保護してくれたりもするんだ。
映画やドラマなんかだと、統合失調症の患者を危険視する場合が多いが、実際は彼らの多くは大人しい。凶暴になる事は少ない。
ただ、自分が何かに狙われているという被害妄想を抱いている場合はこの限りにあらずでさ、自分の身を護る為に他者に攻撃を加えてしまうかもしれないんだ。彼はちょっと危ない状態だったからね」
「なるほど。だからお前はメモを残して自ら警察に電話をかけるようにしてみたのか」
「うん、彼がどういう状態なのか納得してもらうのは難しいから」
火田はそれを聞くと頷いた。
「病院に連れて行こうとすると暴れるケースも多いって言うからな。自分が病気だって認めないで。日本政府に不満を抱いている人も多いが、こーいう真っ当な事もちゃんとやってくれているんだよな」
知り合いや家族に統合失調症患者がいて困っている人は、一度、9110に相談をしてみると良いかもしれません。
僕も最近になって知ったのですが。
国を批判してばかりじゃなくて、偶には良い点も述べてみました。